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世界が認めるサッカー女性審判員・山下良美さん、「苦しい思い」の先に見た最も“感激した”光景

THE ANSWER / 2024年6月18日 11時33分

サッカー国際審判員の山下良美さん。パリ五輪の担当審判員にも選出されている【写真:徳原隆元】

■W杯や五輪の舞台を経験、今でも「審判よりプレーするほうが好き」

 サッカーの国際審判員で、JFA(日本サッカー協会)とプロフェッショナルレフェリー契約を結ぶ山下良美さんが「THE ANSWER」のインタビューに応じた。2021年にJリーグ史上初の女性主審を務めると、22年カタール・ワールドカップ(W杯)では第4審判、23年アジアカップでは主審として男子の国際大会を担当。今夏行われるパリ五輪の審判員にも21年東京大会に続いて選出されるなど、活躍の場を広げている。数々の「女性初」の歴史を刻んできた山下さんに、審判員としてのキャリアを振り返ってもらいながら、世界に認められるレフェリングの裏にある想いに迫った。(取材・文=長島 恭子)

 ◇ ◇ ◇

 4月3日、FIFA(国際サッカー連盟)はパリ五輪の担当審判員を発表した。日本から選ばれたのは主審・副審合わせて3人。そのうち主審として選出された国際審判員の山下良美さんは、2021年の東京大会に続く、2度目の五輪となる。

「審判員として何もできない状態からスタートしましたが、経験を積むほど、できることがどんどん増えていく。その達成感と向上心で、次の試合、次の試合と課題を一つひとつこなしていたら、今に至るという感じです」

 4歳でサッカーを始め、女子チームのなかった小学生時代も、男子チームに混ざってプレーを続けた。教員を目指して大学に進学するも、「1日でも長くサッカーを続けたい」と、大学卒業後はクラブチームに加入。大学の非常勤職員として働きながら、選手生活を送った。

 その後、選手から審判員へとキャリアの舵を切る。そして22年7月、JFAと女性審判員として初めてプロフェッショナルレフェリーの契約を結んだ。

「大学卒業後も選手を続けたのはトップリーグでプレーをしたいというよりも、上手くなることが嬉しかった。正直、サッカーは今でも、審判をするよりプレーするほうが好きです(笑)」

 サッカーのシーズン中、山下さんの生活は毎週、試合の翌日から新たな1週間を迎える。フィジカルトレーニング、試合の振り返り。その後、次の担当ゲームのチームや選手の戦術や特徴、試合の傾向などを頭に入れ、試合当日を迎える。

 トレーニングもハードだが、それ以上に試合の振り返りは「本当につらい作業」と言う。

「担当をした試合を振り返るまでが審判の責任。約2日間かけて自分の試合や他の試合の審判員の動きの分析を行いますが、振り返りでは自分へのダメ出しばかり。やっぱりへこみますし、映像を観る気持ちに持っていくのが難しく、時間がかかります」

 審判員の振る舞いは一挙手一投足が説得力と信頼感につながると考え、ジェスチャーの仕方一つとっても、指先まで神経を傾けて行う。他の審判員からのアドバイスにも、すべて耳を傾け、吸収する。

「フィールドへの入り方から、ボールのピックアップの仕方、シグナルの際の手の位置など、すべてにおいてどのように行うのが適切かを考えます。

 例えば入場の際、主審がうつむき加減で小股でちょこちょこと歩けば、悪い意味で目立ってしまう。時に他の審判員の立ち居振る舞いを参考にしながら、それこそ選手と並んだ際の立ち方や足の幅まで、いかにマイナスの印象を与えず、信頼感や説得力を上げるかを考えます」


主審として最も印象に残る試合は2015年皇后杯決勝。今も女子サッカー発展への想いは強い【写真:徳原隆元】

■2015年12月の皇后杯決勝で「女子サッカーの力を感じた」

 山下さんは元々、女子サッカーの発展に微力でも貢献したいという思いを持って、審判員になることを決めた。

 これまでJリーグ主審や2022年カタールW杯審判員など、男子の試合で女性として初となる様々な実績を積み、今年はアジアカップで主審を担当。これも大会史上初のことだった。

「女性審判員初」という実績を積み上げるたびに注目されたが、自身が最も印象に残る試合に上げるのは、女子サッカーの国内大会。2015年12月、主審を務めた皇后杯決勝、アルビレックス新潟レディースとINAC神戸レオネッサの試合だ。

「大会史上最高の観客(2万379人)を動員した試合でした。フィールドに入り、たくさんの観客で埋まったスタジアムを見渡した時、『女子サッカーは、こんなにもたくさんの人を惹きつけられる魅力があるんだ』という力を感じました。その力を感じて、感激というか……うん、嬉しさがありましたね」

 一方、審判員を目指す女性がなかなか増えない現状には、課題を感じている。

「女子サッカーは国内の競技人口も増え、世界のトップチームで活躍する選手も増えましたが、審判員の希望者はまだまだ少ないのが現実です。

(増えない理由は)審判員は厳しい職業ですし、ちょっとネガティブなイメージもある。どのように増やせばよいのかは、難しい問題ですし、私自身、その答えは見つかっていませんが、もっともっと、トップリーグで笛を吹く女性審判員が増えてほしい」

 審判は決して楽しい役割ではない。「何のためにこんな苦しい思いをしてトレーニングをしているのか」。そう思う時もある。だが、山下さん自身には進むべき道に迷いがない。

「毎試合、選手、そして観客の心が動く試合を担当したいという思いで、笛を吹いています。サッカーの魅力を最大限に引き出す。これが私の目標です。

 自分がこんなにも魅了されているサッカーで、そんな目標を掲げられる審判員は、本当に素敵な仕事。経験を積むほど、魅力はどんどん膨らみます。ここまで『次の試合も頑張ろう』という気持ちできました。今後も1試合1試合、全力を尽くし、できるだけ長くフィールドに立ちたいと思います」

■山下 良美 / Yoshimi Yamashita

 1986年2月20日生まれ、東京都出身。4歳の時、兄の影響でサッカーを始める。東京学芸大学4年時に、サッカー部の先輩である坊薗真琴さん(現・サッカー国際審判員)に誘われ、学生の大会で初めて審判員を務める。卒業後は大学の非常勤職員で働きながら、都内のクラブチームでプレー。同時に審判としての活動も続け、2012年に女子1級(現在は廃止)審判員、19年に1級審判員に認定された。同年の女子W杯フランス大会で主審を担当して以降、21年にJリーグ、22年のAFCチャンピオンズリーグ、23年のアジアカップで大会史上初の女性主審となる。また、22年カタールW杯では史上初の女性審判の1人に選出。6試合で第4審判を務めた。同年7月、女性審判員として初となるプロフェッショナルレフェリー契約を結ぶ。(長島 恭子 / Kyoko Nagashima)

長島 恭子
編集・ライター。サッカー専門誌を経てフリーランスに。インタビュー記事、健康・ダイエット・トレーニング記事を軸に雑誌、書籍、会員誌で編集・執筆を行う。担当書籍に『世界一やせる走り方』『世界一伸びるストレッチ』(中野ジェームズ修一著)など。

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