大阪大学医学部→公務員→目指した五輪 陸上のために32歳で2度目の大学生に…週7日働く異端の医師の選択
THE ANSWER / 2024年6月22日 12時2分
■医師と競技を両立させる競歩・田中達也
東京五輪では複数メダルを獲得するなど、存在感を示している日本の競歩。唯一無二の方法で挑戦を続けているのが、33歳の田中達也だ。大阪大学医学部に現役で合格。大学卒業後、6年間公務員として働きながら東京五輪出場を目指した。現在は大学に再入学し、医師との二足のわらじで、2年生の学生ウォーカーとして競技を継続。様々な葛藤を抱えながらも、今もなお歩き続ける理由を聞いた。(取材・文=THE ANSWER編集部・山野邊 佳穂)
◇ ◇ ◇
5月、国立競技場で行われた第103回関東学生競技対校選手権(関東インカレ)。20歳前後の学生選手たちの中で異彩を放つ田中の姿があった。32歳で放送大学に入学。目標を見失いかけている今、再び見つけるためでもあった。
「五輪は薄々難しいかなと。気持ちの区切りがつきつつある今、大阪大学時代に出場できなかった全日本インカレ(日本学生競技対校選手権)を五輪の代わりとなる目標にした」
唯一無二の競技生活を歩んできた。陸上を始めたのは中学1年生。中長距離が専門で、全国屈指の進学校・東大寺学園高(奈良)2年時には、県大会で5000メートル10位となったが、全国大会には届かなかった。
「走りでは限界を感じていたけど競歩なら……」。体重があって持久力のあるタイプ。筋力が必要な競歩への適性を感じ、医学部に現役合格した大阪大学で転向した。
「戦略を立てれば代表を狙える」――。
手応えを得たのは2018年の日本選手権。自己最高となる7位入賞を果たした。そこからは東京五輪を目指して奮起。公務員として事務職をフルタイムでこなし、競技に打ち込んだ。クラウドファンディングで支援を募り、19年夏には週末に3日間、長野・菅平で合計11回もの合宿を決行。自国開催の夢舞台に照準を合わせた。
しかし、新型コロナウイルスが流行し、1年延期に。21年4月の選考会では完歩した選手の中では最下位だった。
医師と競技を両立させながら田中は挑戦を続けている【写真:中戸川知世】
■非常勤の医師として働きながら競技を続ける
「華やかで特別」。五輪は憧れ続けた舞台。「達成したいと思うと後に引けなくなる」という性格でひたすら突き進んできた。ただ、葛藤がなかったわけではない。
「クラウドファンディングで支援をしてもらっている時には『自分のやっていることは正しいのかな』と思うこともあったし、『家庭を持ったり、子どもを育てたりしていたら』と考えることもある。日本選手権で7位になって『代表になれる』と思ったのは勘違いだったかも……」
それでも続けてきたのは「自分が胸を張れる人生を歩みたい」という強い思いがあるから。
22年の国家試験に合格し、現在は非常勤の医師として勤務。1度目の大学時代はコミュニケーションの難しさを感じて断念した道で、競技と両立しながら働いている。そして、新たな目標を持って放送大学で大学に再入学した。
週7日勤務と、自ら選んだタフなスケジュールでも、2年前から続けている「1週間で160キロ」の練習は継続。様々な思いを抱えながらも、歩みを止めることはない。
自ら切り開いてきた道について、「自分で考えてやりたいタイプ。『すごい』と言われるけど、普通に働いて自分に合ったやり方でやっているだけ」ときっぱりと言った後で「もし自分のやり方を見て、他の人の道が開けるのなら嬉しい」と控えめに話した。
選択した道が正解かは分からない。それでもひたすら進み続けることで、見えてくるものもある。「五輪は4年に1回。出られないにしても、そこに最高の状態で合わせたいという思いがある」。現役医師にして現役大学生。異色のウォーカーは、挑戦の歩みを止めることはない。(THE ANSWER編集部・山野邊 佳穂 / Kaho Yamanobe)
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