身長164cm、一番小さなプロ野球選手からの贈り物 滝澤夏央が少年少女へ伝える「この体だからできること」
THE ANSWER / 2024年6月28日 6時43分
■考え方ひとつで夢はかなう…小さいのは「他の選手にない長所」
西武の20歳、滝澤夏央内野手は身長164センチ。現在のプロ野球界で最も小さな選手だ。2022年に育成ドラフトで入団し、開幕後すぐに支配下に昇格して3年目。攻守にスピード感あふれるプレーで1軍定着へアピールしている。ただ、パワーでは体の大きな選手にかなわないと思い悩んだことも。自身の強みをどう見出し、戦おうとしているのか。現在までの歩みを振り返り、少年少女にメッセージを送ってくれた。(取材・文=THE ANSWER編集部 羽鳥慶太)
失礼になるかもと思いながらも、まず聞いた。滝澤は自分の身長をどう考えているのかと。返ってきたのは真っすぐな思いだった。
「実際、正直に言えばですよ。今も不利なのかなと思うこともあります。野球は始めた時から大好きで、プロ野球選手になりたいという思いで続けてきました。でも現実を見た時に、無理なのかなと思ったこともあります」
プロ野球のユニホームを着て戦っていられるのは、そこで諦めなかったからだ。少年時代から小柄だったが、成長期を迎えるとともに、周りには大きな選手がどんどん増えていった。そこで心折れるのではなく、発想の転換があった。
「小さいことを強みにしないといけないと思ったんです。他の選手にない長所だと考えて、持ち味として生かしていきたい。小さいからこそのスピード感だったり、誰にも負けないような足だったり」
新潟県上越市出身の滝澤は、3人兄弟の1番下。本人に言わせれば「物心ついた時から」野球が隣にあった。兄の練習についていくなどして、自然と野球を始めた。「プロになりたいという思いは、一度もブレたことがありません」と言い切る。
パンチ力のある打撃とスピードあふれる走塁も大きな魅力だ【写真:羽鳥慶太】
■滝澤にしかできないこと「背の低い子に憧れてもらいたい」
ただ、新潟・関根学園高に進むと、中学校までとは世界が違った。「頑張っても大きい選手には、遠くに飛ばす力でかなわないのかなと思ったり、実際にパワーで負けてしまったり……。そこだけ見れば、自分には魅力がないのかなと思ってしまったんです」。プロ野球選手という夢を「口に出してもいいのかな……」というところまで追い込まれた。
その中で突き詰めたのは、体のサイズに関係ないプレーだ。小学校からショート一筋。「小さい頃からバッティングをしていたイメージがなくて……」と、父・孝弘さんとの練習も、いつもノックだった。小学校のグラウンドで、怒られながらも納得するまで食らいついていた。ボールを捕り、投げるまでに体の大きさは関係ない。守備が楽しくて仕方なかった。
長所をプロ野球のスカウトに見てもらうには、甲子園に行くしかないと思っていた。しかし2年秋の北信越大会、勝てば選抜出場が見えるという敦賀気比との準決勝で、9回に追いつかれ延長で敗戦。最後の夏も、県大会の準々決勝で延長の末に敗れた。
プロ入りへのステップのはずだった甲子園には行けなかった。ただ高校野球が終わると、初めてスカウトから「守備を評価している。野生感のあるスタイルが魅力」と言葉をかけられた。小さいことを長所ととらえて、やってきたことは間違っていなかった。そんな滝澤にしかできないことがある。
「背の低い子に、憧れてもらいたいんです。この身長だからできることがあると思ってもらいたい。1番小さな選手にしかできない魅力があると思っていますし、思ってもらいたいんです」
迷うことこそあったが「夢はプロ野球選手です」という言葉を「考えてみれば、ずっと言い続けていましたね」と笑う。どんどんパワー重視の傾向が強まっているプロ野球の世界でも、体の小ささを生かすことはできる。滝澤のプレーには、小柄な少年少女へのヒントとメッセージが詰まっている。(THE ANSWER編集部・羽鳥 慶太 / Keita Hatori)
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