五輪絶望の今、桐生祥秀は3歳長男に伝えたい「負けは恥じゃない」 躓き続けた東京五輪後の3年間【日本選手権】
THE ANSWER / 2024年7月1日 6時43分
■陸上日本選手権
今夏のパリ五輪代表選考会を兼ねた陸上・トラック&フィールド種目の日本選手権最終日が6月30日、新潟・デンカビッグスワンスタジアムで行われた。男子100メートル決勝では、自己ベスト9秒98を持つ28歳の元日本記録保持者・桐生祥秀(日本生命)が10秒26(向かい風0.2メートル)の5位。個人種目でのパリ五輪出場は絶望的になった。躓き続けた東京五輪後の3年間。長男に伝えたいことがある。(文=THE ANSWER編集部・浜田 洋平)
周りに望まれる結果ではなかったかもしれない。でも、全身全霊を懸けた事実が充実感をもたらした。
雨中の男子100メートル決勝。桐生はスタート自慢の坂井隆一郎らに先行を許した。中盤から集団に迫ったが、最後は及ばず。坂井が10秒13で連覇を飾った。上位は0秒01差の超接戦。日本人初の9秒台を出した第一人者は優勝争いに加われなかった。
4年ぶり3度目の日本一なら個人種目での五輪出場に可能性を残していたが、5位で絶望的になった。しかし、健闘した選手たちを労ったレース後、雨に濡れた表情は晴れやかだった。
「一生懸命、全力で走って負けました。もう、出し切りました。今の僕が出せるものは出した」
今季は「3月から5月ぐらいまで練習できなかった」と体調不良で休みを入れながら調整。今月2日の布勢スプリント以降は問題なく過ごせた。熱もない、怪我もない。ピークを日本選手権に間に合わせることは叶わなかったが、不自由なく走れることが嬉しかった。
「凄くワクワクしましたね。こうやって日本選手権のスタートに立つのっていつぶりかなって。終わった後に『足、速くなりてぇ』と思いました」
実はレースを迎える前、苦楽をともにしてきたコーチ、トレーナーと約束していた。「今日、どんな結果であろうと泣いちゃダメですよ」。その真意を明かす。
「チーム桐生はみんな泣き虫だから。いろんなところで男同士で泣いてきた。順位はもちろん悔しいですけど、コーチ、トレーナーとも『次、全員で泣く時は勝った時だ』と。こっから先の大会で、チーム桐生全員が『いやぁ、これはよかったな』って思えたら、もう残すことはないのかな」
28歳。残りの競技人生を考える年齢になった。選手紹介で大きな拍手をもらうと、葛藤が生まれた。
「もう、自分だけの楽しみって何があるのかなって。情けないけど『今まで結構やったしな』とか思っていた。それでも、コーチやトレーナーが喜んでいる姿を見たい。今日のこの走りを終えて、『いや、俺、まだまだ個人で行きたいな』とも思いましたね。だから、変な言葉になっちゃいますけど、このレースは良かったのかなと」
男子100メートル決勝で競り合う選手たち【写真:奥井隆史】
■運動会で転んだ3歳長男へ「パパ、負けたよ。その代わり次はしっかり走るよ。だから…」
東京五輪は4×100メートルリレーで代表入り。しかし、決勝はバトンが繋がらず、自身には回ってこなかった。「次は『パリや、パリや』と思いながら、実際はパリまで続けるかわからなかった」。6位だった22年日本選手権後、心身の疲労の影響で長期休養。大学2年時に国指定の難病「潰瘍性大腸炎」と診断されたことを公表した。
日本人初の9秒台を期待され、重圧とともに背負った日の丸。10か月後に実戦復帰し、走る喜びを感じながら戦い続けた。東京五輪から紆余曲折あった3年を「短かった」と表現する。
29日の予選当日、3歳の長男も運動会だった。「フライングして、しかもこけたんですよ」。動画の中身を語る姿は嬉しそう。1番になる約束を果たせなかった日本選手権。敗れはしたが、息子に見せたい姿がある。
「今日は『パパ、負けちゃったよ』って伝えると思う。別に負けは恥ずかしいことじゃない。息子にもどんどんいろんなところで負けたり、躓いたりしてほしいんですよね。躓かないと次の一歩って大きく踏み出せないから。そう思ったら、息子には『負けたよ。その代わり次はしっかり走るよ。だから、次はしっかり走ろうな』って言いたい」
これだけ万全な調整期間が短かったのは初めて。「俺、1、2か月練習できたらもっといけるんじゃないか」と思えたのも事実だ。まだ4×100メートルリレーで代表入りの可能性もある。「選ばれたら仕事をします」と誓い、先のキャリアを見据えた。
「『もう1回、オリンピックを目指したい』とも思った。本当は(28年の)ロス五輪まで目指したいけど、どうなるかわからない。一年、一年しっかりやってロスが来たらいいなぐらいですかね」
大きく躓いた。だから、次の一歩も大きくなるはずだ。(THE ANSWER編集部・浜田 洋平 / Yohei Hamada)
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