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日本で8番目に速く走れる研修医 文武両道を譲らない、陸上800m広田有紀の「1mmでも進める努力」

THE ANSWER / 2024年7月2日 8時43分

女子800m予選のスタート前、覚悟の決まった表情を見せる広田有紀【写真:奥井隆史】

■日本選手権女子800mで8位、陸上と研修医を両立させるランナー

 今もなお文武両道を貫き続け、笑顔を咲かせたランナーがいた。6月30日まで行われた陸上日本選手権(新潟・デンカビッグスワンスタジアム)。女子800メートルで29歳の広田有紀(サトウ食品新潟アルビレックスRC)が8位に入った。国家資格を取り、研修医として勤務する傍ら競技を継続。怪我で諦めそうになっても「1ミリでも進める努力」を続けた。文武両道で培った力で結果を残したレース後。次世代への助言を送ってもらった。(文=THE ANSWER編集部・浜田 洋平)

 ◇ ◇ ◇

 広田には譲れないモットーがあった。29日の予選後。息を切らし、汗だくのまま言った。

「研修医をやりながらの陸上。どうしても世間には『片手間になるだろうし、そんなんじゃ日本のトップレベルで戦うには到底及ばないんじゃないか』と思われながらやっていた。でも、やっぱり自分でやりたいと思ったし、『2つあるからこそ回せるよ』というのを結果で見せたいと思っていた」

 母は眼科の開業医。医師の道を選んだ一方、小学生時代に始めたのが陸上だった。新潟高2年時に国体、3年時に全国高校総体で優勝。周囲と同じように机に向かい、秋田大医学部に合格した。在学中の2016、18年日本選手権で4位。この間、医師に欠かせない国家資格を取得した。

「無駄なく効率のいい練習を追い求めてきました。同じ1時間でも凄く強くなれそうな、且つ嫌なメニュー。毎日、毎日やっていましたね」

 研修医として2年間の実務経験も必要だったが、延期を決めた。東京五輪を目指すためだ。20年3月に大学卒業後、地元・新潟で陸上に専念。21年日本選手権は2分4秒18で自己ベストを更新し、2位に入ってみせた。惜しくも五輪には届かなかったが、一度やると決めたことは曲げなかった。

 昨年4月から新潟大学病院で研修医生活をスタート。再び陸上と医学を両立させる1年になった。基本は勤務後に練習し、夜勤前に走るのも普通のこと。だが、左足を疲労骨折した。リハビリに励み、「1日24時間じゃ足りない」とSNSにつづった夜もある。栄養バランスを考えた弁当で自炊。帰宅後に寝落ちするほどの疲れがあっても、「ひろた先生」と呼んでくれる患者の声を原動力にした。

「怪我や練習のせいで仕事が疎かになりそうな時も、その中でどうやるか。自分で2つともやりたいと思ったから今の道がある。自分で決断したことを正解にするつもりで、諦めないことが大事」

 日本選手権を視野に入れた今年4月にレース復帰。2分11秒72とタイムを出せず、しかも今度は左アキレス腱を痛めた。今、何ができるのか、頭をフル回転。「パワーマックス」と呼ばれるエアロバイクでひたすらペダルをこいだ。多くのアスリートが悲鳴を上げ、嫌がる過酷な無酸素運動。「死ぬほどやりまくった」。毎朝、市内の白山神社で神頼みまでした。


予選で前の選手たちにくらいつく広田(中央)【写真:奥井隆史】

■選択に迷う次世代へ「二兎を追った分だけ成果は必ず表れる」

 日本選手権まで10日。ようやく走り始めたが、500メートルが限度。「もう満身創痍。残り300メートルが持つかわからない。でも、自分をひたすら信じた。何秒でも出るっしょ!って」。間に合ったスタートライン。病院関係者も集まった客席から人一倍の声援が聞こえてきた。

「めっちゃ元気が出た。絶対に決勝に行きたかった」

 残り400メートルで5番手、300メートルで4番手。「がむしゃらについていった」。不思議と踏ん張りが利いた左足。ラスト50メートルで3着に入った。4月から7秒も縮める2分04秒43。後続の組の結果を待ちながら受けた取材中、決勝進出の吉報が舞い込んだ。「や、やった! おおー、おおおっ!」。拳を握り、喜びを抑えきれない。あと0秒36遅ければ予選敗退だった。

 陸上と勉強。どちらもやることで学んだものは「時間の効率化」と即答する。

「あとは1ミリでも進むように努力すること。確実に進むことをしていけば、必ず結果は出てくる。それを学びました。1ミリを追い求めたことが、2つをやって出した結果だと思います」

 トラックを2周する800メートル。「広田さん!」。どこを走っても声援が聞こえた。「涙が出そうになりました」。単に地元だからじゃない。日頃のひたむきな努力を知っているから、仲間が声を枯らした。「マジでよかったです。ほんと、バイクをこぐ姿しか見せていなかったから(笑)」

 壁を乗り越えた今、伝えられることがある。道に迷う次世代の背中を押してくれた。

「二兎を追う者は一兎をも得ずと言いますけど、二兎を追った分だけ何か成果は必ず表れるはず。二兎を追うことで諦めそうになる瞬間ってたくさん訪れてしまう。だけど、1ミリでも進めていれば、私みたいに2分11秒から2分4秒までの飛躍も夢ではない。『そういう人たちもいるよ』とわかった上で二兎を追ってほしい」

 8人による決勝は8位。「悔しい。2分間が歯がゆかった」と負けず嫌いの一面が出た。

 7月から勤務先の病院が変わった。「まだ陸上も続けるとは言えない。できるかわからないので言葉にしないです。まずはやることをやらないと」。再び走り出すのは、研修医として信頼を勝ち取ってからだと決めている。(THE ANSWER編集部・浜田 洋平 / Yohei Hamada)

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