当然にも思える女子バレー「リベロ2人」の大胆構成 眞鍋監督が受け継ぐ「日本の生命線」が表彰台のカギ【五輪メンバー12人発表】
THE ANSWER / 2024年7月1日 20時24分
■小島満菜美と福留慧美のリベロ2人が代表内定
日本女子バレーが、守備でパリ五輪のメダルを目指す。日本バレーボール協会は1日、パリ五輪代表内定選手12人と交代選手1人を発表。リベロとして小島満菜美(29=NEC川崎)と福留慧美(26=デンソー)の2人が入った。眞鍋政義監督は今回も「日本の生命線」というディフェンスを重視。日本バレー伝統の「守備力」が、3大会ぶり表彰台へのカギになる。
サーブレシーブが武器の小島と、相手スパイクへの対応が抜群な福留。眞鍋監督は「スペシャリストを使い分けながら、世界と戦いたい」と「リベロ2人制」採用を説明した。相手にサーブ権がある時は小島でサイドアウトを狙い、日本がサーブの時は福留で相手の攻撃に備える。データを重視し、守備に重きを置く眞鍋監督らしい戦術だ。
パリ五輪の競技規則では、リベロの登録数は0~2人。プレーに制限のあるリベロを増やせば、攻撃の枚数は減る。ベンチ入りメンバーが12人に限られる五輪では、日本男子など多くのチームがリベロ1人、今回のメンバー選考でも「小島か福留か」が注目された。同じリベロの山岸あかねも「誰だって、リベロは1人だと思いますよ」と話した。
それでも「スタッフ内でも異論はなかった」と眞鍋監督。小島は「いつも落選していたので、うれしい。切磋琢磨して戦いたい」と喜び、福留も「選ばれてうれしい。協力して頑張りたい」と話した。交代選手として選出された山岸も「リベロが評価された」と言った。攻撃選手を減らしてまで求めたディフェンス力。それが、日本バレー伝統の生命線だ。
公開練習に参加したリベロの福留慧美【写真:中戸川知世】
■「速攻コンビバレーなんてマスコミ用のまやかし」 かつて名将が言い切った言葉
11年夏、この年の末に亡くなった松平康隆氏に話を聞いた。72年ミュンヘン五輪金メダル監督で、日本や世界のバレーを牽引してきた同氏から聞いたのは意外な言葉。「速攻コンビバレーなんて上っ面しかみないマスコミ用のまやかし。日本が世界に勝つには拾いまくるしかなかった。チームの本質は守備にあった」。キラ星のごとくスターを揃え、素早い連携からの攻撃で世界を驚かせた名将は「攻撃は本質じゃない」と言い切った。
確かに、日本バレーの歴史は守備の歴史だった。64年東京五輪で金メダルを獲得した「東洋の魔女」は回転レシーブが武器だった。72年ミュンヘン五輪金の「松平一家」も実は守備重視だった。マスコミ用の華麗な攻撃練習の陰で8割以上はレシーブ練習。顎を切った血でコートを染めながら、フライングレシーブが延々と続いたという。
「体格で劣る日本が、攻撃で世界を上回るのは無理。工夫して高さに対抗しても、取れるのは1試合数ポイント。ただ、守備なら体力と技術で勝負できる。勝利のカギは、コート上20センチにある」。今にして思えば、松平氏が日本バレー界に伝えたい「遺言」だったのか。その思いは、確かに今も生き続けている。
眞鍋監督は、そんな松平氏を師と仰ぎ「遺志を継ぐ」と宣言して12年ロンドン五輪で銅メダルを獲得した。「日本の生命線」は松平氏からも受け継ぐ日本バレーの伝統。だからこそ、リベロ2人という大胆なメンバー構成で世界に挑むことに迷いはなかった。
チーム内でも小柄な福留と小島、リベロ2人という大胆なメンバー構成で世界に挑む【写真:中戸川知世】
■男女ともにネーションズリーグ銀メダルの快挙「ディフェンス力は世界最強」
この日早朝、男子がパリ五輪前哨戦のネーションズリーグで銀メダルを獲得した。女子も同大会で銀メダル。復活を支えたのはディフェンス力だった。もちろん、石川祐希、古賀紗理那両キャプテンの攻撃力はライバルを圧倒したし、セッターのゲームコントロールも抜群だった。と同時に注目されたのは驚愕の守備力。拾いまくり、つなぎまくり、長いラリーの末にエースが決める。それこそが、日本バレーの真骨頂だ。
象徴的なのは、大会のベストリベロに男女とも日本勢が選ばれたこと。福留と2人でチームのディフェンスを支えた小島は「私だけではなく、日本のレシーブが評価された」と話し、山本智大も「個人でとったとは思っていない」とパリ五輪代表から漏れた小川智大に感謝した。
男女ともに世界一のリベロを擁し「ディフェンス力は世界最強」と評される日本代表。日本の伝統、松平氏の思い、そして素晴らしい2人の守備職人の存在を考えれば「リベロ2人制」は当然にも思える。現役時代9人制のバックセンターで「守備専門」だった松平氏の発案がきっかけで誕生したリベロ。日本がパリ五輪でメダルを獲得するためには、伝統のディフェンス力が不可欠といえる。(荻島弘一)(THE ANSWER編集部)
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