フェロー諸島に敗戦、問われる日本ハンドボールの総合力 寂しいスタンドが奪った五輪前の緊迫感
THE ANSWER / 2024年7月2日 20時19分
■パリ五輪壮行試合、29-30で敗戦
ハンドボール男子の新生日本代表が1日、東京・代々木第一体育館で行われたパリ五輪壮行試合でフェロー諸島に敗れた。29-30の1点差とはいえ、勝負どころでミスを連発するなど残念な敗戦。36年ぶりに予選を突破して臨む大舞台へ、弾みをつけることはできなかった。
電撃的な監督交代で7年ぶりに復帰したカルロス・オルテガ監督のもとでの初戦。立ち上がりこそ先行したものの、前半終了間際にスカイプレーを決められ13-14と逆転されて折り返した。後半は疲れからかミスを連発。終了間際のゴールで1点差にしたが、終始リードを許す完敗だった。
バルセロナを率いて欧州CLを制したオルテガ監督が合流したのは16日。わずか2週間の練習で、チームは未完成だった。前任のダグル・シグルドソン監督の時から守備システムを大きく変えたが、狙い通りには機能せず。ギャップを突かれ、左右に振られて失点を重ねた。GKをあげた相手の7人攻撃への対応にも苦しんだ。
攻撃では、右足首負傷の司令塔・安平光佑が大事をとって7メートルスローに専念したのが響いた。武器とする素早いパス回しでゴールに迫ることもあったが、ミスからボールを奪われ、速攻を許す場面も目立った。
安平に代わって先発司令塔を務めたのは、この日22歳になった大学生の藤坂尚輝。スピードを生かした1対1では存在感をみせ、渡部仁と並ぶチーム最多の5ゴールを決めたが、周囲との連携は今ひとつだった。「ミスがあったし、まだまだです」。将来のエース候補と期待されるゲームメーカーだが、代表デビュー戦は苦いものとなった。
直前で落選した東江雄斗に代わり主将を任された渡部は「代表は結果を出してなんぼ。負けたので悔しさしかない」と話し、守備の要の吉田守一も「代表は勝たなければいけない」と言った。国内では22年の日韓戦以来、約2年ぶりの代表同士の試合。しかし、勝利を期待するファンの声援にこたえることはできなかった。
■寂しいスタンドが奪った緊迫感、満員になっていれば…
確かに、フェロー諸島はいいチームだった。ドイツ屈指の強豪キールで活躍する選手もいるし、ほとんどはデンマークなどのリーグでプレーしている。近年急速に力をつけ、昨年の世界ジュニア選手権では7位。今年1月には初めて欧州選手権に出場し、強豪ノルウェーとも引き分けている。オルテガ監督も「レベルが高いチームだった」と舌をまいた。
とはいえ、一般的にはほとんど知られていない「小国」。アイスランドとノルウェー、英国の間にあるデンマークの自治領で、人口は約5万人しかいない。ハンドボールはサッカーとともに独立して代表チームを持つが、まだまだ発展途上の新興チーム。パリ五輪で対戦するドイツやスペインとは実績も実力も比べ物にならないほど違う。
だからこそ、勝たなければいけなかった。決して多くない国内での代表試合で、集まったファンの声援に答えなくてはいけなかった。アジア相手にも惨敗を繰り返していたかつての代表ではない。アジアのトップとして世界に挑もうとするなら、ここで負けていては話にならない。
「代表チームは結果がすべて」は、どの競技の代表選手も口にする言葉だ。この日も多くの選手が声をそろえたが、どこまで覚悟を持って真剣にそう思っていたのか。集中力を欠いたようなミスもあったし、ゴールや勝利を目指す気迫も感じなかった。もちろん、選手たちは真剣に戦っているはずだが、試合会場の空気にも緊迫感はなかった。
この日、代々木第一体育館の観客は2555人。スタンドはガラガラだった。野球やサッカーだけでなく、今やラグビーやバスケットボール、バレーボールでも日本代表の試合が「満員」になるのは当たり前。他の競技に比べて寂しいスタンドが、試合の緊迫感を奪っていた。
先月28日のパリ五輪代表発表会見では、終了間際にオルテガ監督が自らマイクを手にして壮行試合への来場を呼び掛けた。バルセロナで超満員の試合を経験する同監督は、応援の量が力になることを知っている。この日、スタンドが満員になっていれば、結果も違ったはず。少なくとも、パリ五輪に向けた選手たちの気迫は感じられたと思う。
渡部主将は3日の第2戦に向けて「すべてのハンドボーラー、ファンの思いを背負って戦う」と決意を口にした。その思いが強ければ強いほど、大きければ大きいほど、勝利は近づく。問われるのは、日本ハンドボールの総合力。日本協会や日本リーグが最大限の支援をし、多くのファンがスタンドを埋めるようにならなければ、代表チームのさらなる成長はない。(荻島弘一)(THE ANSWER編集部)
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