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56歳で正社員を辞して転身「この挑戦は絶対面白い」 副業禁止で…女子ゴルフ桑木志帆に懸けた可能性

THE ANSWER / 2024年7月4日 7時43分

資生堂レディスで優勝した桑木志帆と並んで笑顔を見せる中村修コーチ(右)と小楠和寿トレーナー(左)【写真:本人提供】

■ゴルフダイジェスト社勤務の中村修氏

 女子ゴルフの国内ツアー・資生堂レディス(神奈川・戸塚CC西C)は6月30日、桑木志帆(大和ハウス工業)のツアー初優勝で幕を閉じた。昨年大会でのプレーオフ(PO)負けのリベンジに成功。涙した21歳は、両親、応援団、中村修コーチへの感謝を口にした。中村氏は今年1月までは、ゴルフダイジェスト社の正社員だったが、それを辞して桑木の可能性に懸けている。その思いを本人に聞いた。

 中村氏は、桑木の優勝を小楠和寿トレーナーと見届けていた。小楠氏はかつて稲見萌寧を担当し、賞金女王獲得に貢献した名トレーナーだ。

「約1年ほど前から、桑木プロのケアとトレーニング指導を担当しています。今季は隔週で試合にも帯同しています。彼女は教えたことがすぐにできる優れた運動神経の持ち主です。大変な可能性を感じます」

 桑木自身も会見で「今年から週の初めにトレーニン グを入れるようになってから、疲れにくくなったのと、体幹が少しずつできてきていいショットが打てるようになりました」と言った。桑木と小楠氏をつないだのは、中村氏だった。

「それまで、彼女はほとんどトレーニングをしたことがなかったんです。ゴルフ自体も基本的には自分で作り上げ、プロテストに一発合格し、最終QT(ツアー予選会)も通過している。そのすごさは取材する中でも感じていました」

 56歳の中村氏は東洋大を卒業し、26歳から本格的にゴルフを始め、2005年、34歳で日本プロゴルフ協会(PGA)にティーチングプロとして入会している。以降、ツアーにも挑戦しながらティーチングを生業にしていたが、14年にゴルフダイジェスト社に正社員として入社。プロの知見を生かしながら、トーナメントなどを取材していた。ここ数年は主に女子ゴルフを担当し、桑木とも取材者として接していた。

「あくまで取材対象の1人でしたが、22年シーズンの伊藤園レディスでドローの曲がり幅が大きいのはインサイドアウト軌道が強すぎるからと伝えました。彼女は翌週の大王製紙エリエールレディスでは予選落ちしてメルセデス・ランキング51位。フルシード権(50位以内)をあと1歩で獲得できず、準シードになりました。その状況下、僕が最終QTの取材で彼女の地元岡山県に行っていたので、お父さまの正利さんやマネジメントの方と一緒に食事をすることになりました。そこで『しっかりと計測をしてもらって、どういうスイングになっているのかを確認した方がいいと思う』と伝えました」

 本人もショットの悩みを抱えていたため、中村氏が広島県にいるインストラクターを紹介。スタジオでスイング動画を解析したところ、桑木が問題点を自覚し、「オフの間にドローの曲がり幅を少なくする」と決断した。そして、中村氏は10日後に送られてきたスイング動画を見て驚いたという。

「ビックリしました。短期間で見事に軌道が修正され、ストレートに近い軌道で打てるようになっていたからです。本人は当初、僕に『上から打つ感覚ですか』と質問をしてきましたが、動画を見て『体の動かし方ではなく、クラブの動きを意識している』と分かり、天性のセンスを感じました」

■指導は「少しだけ」で立ち位置はGM

 その後も中村氏は適時アドバイスを送りながら、試合会場では取材者として桑木と接していた。23年7月、資生堂レディスで桑木がPO負けを喫して号泣する姿も現場で見ていた。そして、23年シーズンは優勝こそなかったものの、メルセデス・ランキング10位で終了。その後、桑木サイドから正式にコーチ就任要請が届いた。

「正直、自分の人生を考えて『このチャレンジは絶対に面白い。共に成長して行ける』と感じました。しかし、会社は社員の副業を禁止しているので、話し合って業務委託にしてもらいました。なので、今季はメディアとコーチの仕事を隔週で入れ替え、試合に同行しています」

 ただ、中村氏は「僕自身はスイングの指導は少しだけです」と明かした。

「理由は彼女がジュニア時代から、コーチを付けることなくここまでやって来ているので、ヒントを与えると考え、自分のものにできる能力を持っているからです。コーチの仕事はスイングだけではなく、選手の夢や目標を達成させることにあります。そのためには多岐に渡ることをするべきと思っているので、僕はゼネラルマネジャー的な立ち位置でいることを心掛けています」

 現実にトレーニングの必要性を説いて小楠氏を紹介し、多くの女子プロが師事する橋本真和パッティングコーチともつないでいる。初優勝を飾った資生堂レディスの練習日には、アプローチ向上のために現場にいたタイトリストのウェッジコーチをつないでラフからの打ち方を教えてもらっていた。それが、最終18番パー4で優勝を決定づけるグリーン左サイドからの第3打を生み出した。

 正利さんいわく、桑木は幼少の頃から人懐っこい性格。地元のシングルプレーヤーからポイントを教わる度に吸収し、腕を上げてきた。伝えられた情報を取捨選択できる能力もあることから、中村氏は「必要な時に必要な人を紹介し、環境も整える」ことに徹しているという。

 ただ、会社の正社員と業務委託では「安定感」に違いがある。桑木のコーチ業も契約ゆえに、長く続く保証はない。それでも決断した理由は、桑木の人間性にも魅力を感じていたからだった。

「去年の資生堂レディスで年下の櫻井心那プロに負けた時、『相手の方が上でした』と言っていたことが印象的でした。決して周りのせいにはせず、自分の力不足を認めて、課題が見つかるとクリアできるまで練習し続ける。だからこそ、『勝たせてあげたい』『力になりたい』と思いました。それはご両親、岡山から駆けつけている応援団の方々も同じだと感じています」

 中村氏は最終日の朝のスタート前に、インスタグラムのストーリーズに桑木の練習する姿を載せ「未来は切り開くもの 逃げずに立ち向かえ!」のメッセージを記していた。そして、桑木はアグレッシブなプレーで自分へのリベンジを果たした。その現場にいて、喜びを共有できたことこそ、最高の喜び。それを噛みしめた中村氏は、再び桑木とともに勝利を目指す。(THE ANSWER編集部・柳田 通斉 / Michinari Yanagida)

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