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2027年W杯へ芽吹くエディー・チルドレンの才能 課題露呈も…短期間で「目まぐるしい成長」評価された逸材

THE ANSWER / 2024年7月4日 10時33分

マオリ・オールブラックス戦でプレーする矢崎由高【写真:産経新聞社】

■ジャパンXVのマオリ戦第1ラウンドを振り返る

 ラグビーの日本代表、同候補選手で編成されるジャパンXV(フィフティーン)は、6月29日に行われたマオリ・オールブラックスとの第1戦を10-36で落とした。チャンスをスコアに結び付ける遂行力という課題を露呈した一方で、2027、31年ワールドカップ(W杯)での活躍を目指す新世代のジャパン戦士が大きなインパクトを残した。苦杯の中で輝き始めた“エディー・チルドレン”の実力とポテンシャルを軸に、マオリ戦第1ラウンドを振り返る。(取材・文=吉田 宏)

 ◇ ◇ ◇

 桜のジャージーの開花宣言は持ち越しとなった。テストマッチ対象外の試合とはいえ、エディー・ジョーンズ日本代表ヘッドコーチ(HC)が前週のイングランドとの代表戦に続き直接指揮を執った試合だったが、ニュージーランド(NZ)先住民マオリの血を引く選手で構成された強豪に相手に、チームが掲げる「超速ラグビー」は貫けなかった。

「いまロッカールームで選手たちと、どんな気持ちかと話し合ってきました。選手からはフラストレーションが溜まっている、悔しいといった言葉がありましたが、最終的には我々の力が及ばなかった」

 開始6分のファーストトライこそ、敵陣ゴール前ラインアウトからの素早い連続攻撃から奪ったものの、そこから相手に6連続トライを許して、第2次エディー体制は始動から2連敗。会見冒頭で選手たちの落胆ぶりに触れた指揮官だが、2015年までの第1次体制では敗戦の怒りを露骨に見せていた語り口はなかった。

 代表キャップ数をみると、この日の先発15人の総数は51。1人平均3.4キャップという編成だった。ジャージーの色は違っても左胸の桜のエンブレムを身に着けた試合の重さは認めながらも、世界トップクラスの実力を誇る相手との80分間が、次世代のジャパンに経験値を積ませる“投資”のための時間だという位置づけなのは明らかだった。

 先発メンバーでノンキャップなのはLO桑野詠真(静岡ブルーレヴズ)、SH小山大輝(埼玉パナソニックワイルドナイツ)、WTBヴィリアメ・ツイドラキ(トヨタヴェルブリッツ)の3人。前週のイングランド戦で代表デビューしたのが共同主将のHO原田衛(東芝ブレイブルーパス東京)、PR為房慶次朗(クボタスピアーズ船橋・東京ベイ)、FL山本凱(東京サントリーサンゴリアス)、CTBサミソニ・トゥア(浦安D-Rocks)、そしてFB矢崎由高(早稲田大2年)の5人だった。シニアレベルの国際試合は初体験に近いメンバーが15人の半数以上だったが、この“桜の蕾”たちが苦闘の中でスタンドを沸かせたのも、単なる期待感だけによるものではなかった。

 最初に大歓声を巻き起こしたのはSH小山、そして埼玉WKでコンビを組むSO山沢拓也だった。キックオフから1分も経たない敵陣での攻撃で、ラックからパスを放った小山が、自らレシーバーの外側に走り込んでボールを受け取るループプレーを仕掛けた。このサインプレーでマオリ防御を引き付けて、外側に待っていた山沢の防御突破に繋げた。HB団コンビ、そしてチームによる組織としてのファインプレーだったが、合宿で取り組みながらイングランド戦では効果的に使えなかったサインプレーで、いきなりチャンスシーンを作り出した。

 小山―山沢の埼玉ホットラインによるアタックで敵陣に攻め込むと、続いてスタンドを沸かせたのは矢崎だった。練習生からイングランド戦で代表初先発を勝ち取った20歳は、開始3分の左展開でパスを受けると、ライン防御のギャップを逃さず突いて敵陣22mラインを突破した。18分にも自陣から鮮やかなライン参加で敵陣に駆け込むなど、加速力抜群のスピードをアピールした。

「FWがいいスクラムを組んでくれていたので、自分の前にもスペースがあった。しっかり行くしかないなと決めて走りました」

 最初のランでは、目の前にいた防御2人がFWだったのを見極め、持ち味の一気の加速で凹凸のできた防御ラインの間隙を駆け抜けた。鮮やかなラン以外にも、デビューしたイングランド戦以上に積極的にボールを貰いにいくプレーを再三見せた姿に、エディーも「プロの相手にアマチュアの選手(大学生)がプレーするのは異例のことだが、矢崎はイングランド戦から2試合で目まぐるしい成長を見せている。このまま進化していくと、非常にいい選手になれると信じています」と称賛している。ゲームスタッツを見ると、ボールを持って走った総距離145mは両チームトップ。ボールを持った回数も1位の21回と、攻撃面で高い数値を叩き出している。

 スピードで魅せた矢崎だったが、課題も明白だった。最初の防御突破のシーンでは、トライチャンスとなるエリアまで走り込みながら、タックルを受けるとボールをリサイクル出来ずに、結果的にサポート選手のノックオンで得点機を逃している。後半13分に敵陣でみせたアタックでは、ボールを持ち込みすぎて矢崎自身が相手のジャッカルに反則を犯している。積極性が仇になったプレーだが、このような攻め急ぎ過ぎからの反則、ミスでチャンスを失うシーンを矢崎以外の選手も含めて頻発させたのも、遂行力不足という課題に繋がっていた。

■秩父宮をどよめかせたPR為房

 矢崎の走りに続いて、同じくイングランド戦で代表デビューのPR為房が秩父宮をどよめかせた。前半3分、敵陣での相手ボールスクラムでマオリのFW8人と互角に組み合うと、1分後の日本ボールスクラムを押し込み、反則によるPKを奪い取った。

「マイボールの時は押そうと決めていました。(スクラムの)セットのところからしっかり組まないと押せないので、そこは意識していました。(マオリの)過去の動画も見ていて、結構高い姿勢だなと見ていた。低く組むのは得意なので、そこで勝てるかなと思っていました」
 
 その後もFW8人が、速いセットアップと背中を一枚の絨毯のようにフラットにして低く組むスクラムで相手に重圧をかけ、成功率86%と、マオリの80%を上回る数値を残した。今春明治大を卒業して、1週間前に初キャップを獲得したばかりとは思えない図太ささえ感じさせる為房だが、直接組み合った相手左PRについても大物ぶりをみせる。

「最初のスクラム組む時に相手の顔をみたら、違っていたんです。そこまで全然知らなかった。何で変わったんですか? 怪我ですか?」

「相手」と信じて準備をしていたのはオールブラックス57キャップの実力者ジョー・ムーディー。試合直前の練習で負傷して急遽メンバーが変更されたが、スクラムを組むまで気付かずプレーしていたのだ。その後も何度もスクラムを押し込んだ為末だったが、「残念ですね」と世界でも名立たるPRの不在をラッキーではなく、直接組み合って押し込めなかったことを悔しがっていた。一見するとパワー系の選手というイメージだが、この試合でのタックル回数は3位タイの11回すべてを成功と、献身的なフィールドプレーも魅力だ。

 イングランド戦でデビューしたFL山本も、為房同様に“ボールを持たないプレー”で持ち味を証明した。キックオフ直後の相手ラック防御から、先陣を切ってタックルに刺さると、4分には密集でボールに絡んで、日本ボールスクラムを勝ち取った。タックル回数は為房と同じ3位タイ。戦況が大きく相手に傾いた後半14分にも、日本陣で連続攻撃を仕掛けるマオリのラックに体を差し込むようにして相手の反則を引き出した。

 国際試合のFW第3列で、身長177cm、体重100kgは異例の小兵だが、この日も高いワークレートと地面に這いつくばるような低い姿勢で大きさに挑んでいた。アタックでも、イングランド戦での、相手のタックルをかいくぐるようにかわしてゴール前に攻め込んだランなど、異彩を放つ。

 為房らFW8人が反則を奪い取ったスクラムを起点に、この試合の初トライを奪ったのが共同主将を担うHO原田だった。ゴール前で押し込んだ密集から、相手防御に出来た一瞬の隙を迷わず突いて、相手SO、PRのタックルを受けながらゴールラインをこじ開けた。マオリに負けないフィジカルの強さを印象付けた原田も175cm、101kgとサイズは大きくないが、昨季リーグワンを制したBL東京でも見せた機動力、フィジカル、セットプレーの精度の高さを代表戦でも証明。防御でも、タックル回数で山本らを上回るこの試合トップの16回を数えた。

 29歳でバックアップメンバーからの初キャップに挑むLO桑野も、後半16分の自陣ゴール前でのジャッカルで窮地を救うなど、ショートレンジでのしぶといタックル、密集戦参加と運動量で気を吐いた。193cmの身長はLOとしての国際水準では小兵だが、ラインアウトも5回獲得とタイミングで高さに対抗している。亡き父に続く日本代表キャップを目指すWTBツイドラキは、前半18分にSO山沢からのキックパスを敵陣ゴール前で好捕して見せ場を作った。ゴールラインへ飛び込んだところを相手の好タックルに阻まれるなど若さを露呈したが、蹴った山沢が「もうちょっと前に蹴ってあげたら、あそこのプレッシャーもなかった」と悔やんだギリギリのプレーだった。

 ここまでピックアップした選手よりは“年長”ながら、イングランド戦で2キャップ目を掴んだWTB根塚洸雅(S東京ベイ)も高いワークレートで、敗戦の中で存在感をみせた。173cm、82kgと国内でも小柄なBKだが、ダイナミックなランをみせたFB矢崎とは対照的に、敏捷性を生かした細かいステップや、ボディーターンを使って相手をかわしながら前に出るスキルなどを駆使してボール保持時間を伸ばした。アングルを変えながらの積極的なライン参加や、キックチェイスも含めて、ポジションに関係なくチャンスボールを貰いに行くアグレッシブなプレーを続けた。

「ラインブレークでは今日も自分の持ち味を出せていたと思います。一瞬の加速だったり、アジリティ(俊敏性)という部分は、相手がデカいからこそ通用するというのは、この2試合をやってみて感じています。超速ラグビーというのは、仕事量が求められると思うので、自分のアジリティにプラスして、もっと体力をつけてタフな仕事をしていきたい」

■最も差をつけられたのは「遂行力」

 エディーは合宿で「ゴールドエフォート(金色の努力)」というキーワードを使っている。1回のプレーの後、次の仕事に行どれだけ早く動けるかを象徴する言葉だが、それをゲームで最も体現しているのが根塚だった。終了直前のゴール前の攻撃からインゴールに飛び込み、イングランド戦からの連続トライをマークしたが、このスコアもゴールドエフォートの賜物だろう。矢崎のような典型的な「走り屋」のアウトサイドBKも魅力だが、攻守に俊敏さとプレーを反復する献身さを持つ根塚タイプのアタッカーにも注目したい。

 次世代ジャパンのパフォーマンスをピックアップしてきたが、この完敗のスコアは、それ以上に多くの“宿題”をチームに科している。勝者に最も差をつけられたのが、先にも触れた「遂行力」だ。相手にボールを奪われたターンオーバーは日本の21回に対してマオリは14回と差があったが、アタックでボールを持った回数は日本の93回に対してマオリは104回とスコアほどの差は見られない。ボール保持率も47%対53%と互角に近く、地域支配率では65%対34%と日本が上回っている。タックル成功率でも89%対86%とやや日本が勝っている。

 そんなスタッツの中で、手元のメモ書きではあるが、両チームが敵陣22mラインを突破した回数が遂行力の判断材料になるだろう。日本の11回に対してマオリは10回だが、トライ数は2対6。この数字が物語るのは、日本がマオリと互角かそれ以上にチャンスを作りながら、スコアに繋げていない現実だ。

加えて、マオリが2度のシンビン(10分間の一時退場)で14人だったときも日本はスコア出来ず、逆に相手に2トライを許している。マオリは、後半3分の4個目のトライまで、22m内に4回侵入して全てをスコアに結び付けているのだが、対する日本は敵陣ゴール前でPKからラインアウトの勝負に固執したがノットストレート、モールからボールを相手にもぎり獲られるなど、有効な攻撃に繋げることが出来なかった。

 このラインアウトにこだわった選択について、主将の原田はこう振り返る。

「ゲームプランとして、先ずモールとスクラムを押すというところを準備してきました。そこは僕らがプライドを持ってやりたかったので選択に後悔はない。あとはエクスキューション(遂行力)のところだけかなと思います」

 イングランド戦での好感触もあり、セットプレーでマオリに重圧、揺さぶりを掛けたいという思惑があったのだろう。置かれた状況の中でどう判断するのかはゲームリーダーの特権だが、用意したプランと、試合が始まってからの戦況や、個々のプレーの優劣、出来不出来などで、柔軟な判断をすることは重要だ。代表主将のFLリーチマイケルやHO坂手淳史のようなリーダーシップを持つ選手不在の中で、この若いチームが、自分たちが置かれた状況の中でどういうプレーを選択していくかは、まだまだ学びの段階だと判断するべきだろう。

 さらに個々のプレーに踏み込むと、選手が攻め急いでのミスでボールを失っていることも遂行力の低さに繋がっている。先ほども指摘した開始3分、後半13分の矢崎の好ランからのノックオン、反則も然りだが、21分にも矢崎とCTBトゥアの連携ミスからのハンドリングエラー、同21分にはマオリ陣に攻め込みながらのファンブルから70m近くを3人に繋がれトライを奪われている。どのシーンも、気持ち数十cm、数m攻め過ぎたり、無理な状態からのパスを乱すなどしてボールをリサイクル出来なかったものだ。

 この攻め急ぎについては、根塚の言葉が現状をよく物語っている。

「先週、今日とプレーして、チームは相手の22mライン内に入ってから取り急いでいるように思います。アタックラインが練習よりも浅くなってしまっている。パスする側がもう1つ溜めて、相手を呼び込んでボールを渡すことが出来ていれば、外側のスペースを使えるはずです。そこをもっと練習で自分たちが話し合っていけば、すこし変わっていくはずです。そこの歯車がかみ合って、トライが取れ始めたら、本当に流れが変わってくる。そこまで練習で突き詰めていかないといけないと思います」

 イングランド戦完敗から注目した、チャンスをどこまでスコアに繋げられるかという課題は、残念ながら今週末の試合へ持ち越された。6日に愛知・豊田スタジアムで行われるマオリ・オールブラックスとの最終戦でも、予定通り若い布陣で挑むのであれば再び厳しい戦いになるだろう。選手個々のポテンシャルは芽吹き始めている。「投資」を続ける中で、いかに「遂行力」を高めていけるのか。第1戦完敗からの学びに注目したい。(吉田 宏 / Hiroshi Yoshida)

吉田 宏
サンケイスポーツ紙で1995年からラグビー担当となり、担当記者1人の時代も含めて20年以上に渡り365日欠かさずラグビー情報を掲載し続けた。1996年アトランタ五輪でのサッカー日本代表のブラジル撃破と2015年ラグビーW杯の南アフリカ戦勝利という、歴史に残る番狂わせ2試合を現場記者として取材。2019年4月から、フリーランスのラグビーライターとして取材を続けている。長い担当記者として培った人脈や情報網を生かし、向井昭吾、ジョン・カーワン、エディー・ジョーンズら歴代の日本代表指導者人事などをスクープ。ラグビーW杯は1999、2003、07、11、15、19、23年と7大会連続で取材。

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