18歳以下のスポーツは賭け禁止も… 米国とスポーツ賭博の実態、取り締まりが届かぬ「抜け道」が存在
THE ANSWER / 2024年7月12日 10時33分
■「Sports From USA」―今回は「米国の高校・大学スポーツと賭け」
「THE ANSWER」がお届けする、在米スポーツジャーナリスト・谷口輝世子氏の連載「Sports From USA」。米国ならではのスポーツ文化を紹介し、日本のスポーツの未来を考える上で新たな視点を探る。今回は「米国の高校・大学スポーツと賭け」について。
◇ ◇ ◇
日本人向けに選抜高校野球大会の試合結果などを予想させるスポーツ賭博サイトが10以上、海外を拠点に開設されていたことがわかったという。読売新聞が4月3日付で報じた。記事によると、運営者側は、中米のオランダ領キュラソーや英王室領マン島で賭博事業の免許を取得していると説明しているそうだ。
米国では現在、38州がスポーツ賭博を合法化しているが、それぞれの州の法により18歳以下のスポーツに賭けることは禁止している。つまり、高校の運動部や、18歳以下の学校外の競技チームの試合に賭けることは違法行為である。各州の高校体育協会をまとめるNFHS(全米連合)では、「我々は各州に対し、今後、どのような法案が提出されたとしても、高校スポーツの試合での賭博を認めないように要請する」と声明を出している。しかし、国外を拠点にした賭博事業者を通じて、アメリカの高校スポーツに賭けられるという抜け道がある。日本と同じように、アメリカでも、これらの海外を拠点にした賭博の取り締まりまでは手が届かない。
大学スポーツは賭けることができるとしている州と禁止している州があるが、大学スポーツに賭けることができる州でも、選手の個人パフォーマンス成績に賭けるようなプロップベットは禁止している州もある。プロップベットは試合の勝敗以外のさまざまなことを賭けの対象にするもので、その試合の最初に得点を決めるのは誰か、バスケットボールの特定の選手のアシスト数やアメリカンフットボールのQBのパス獲得ヤード数などの個人のパフォーマンスに賭けることができる。NCAAでも大学生選手を対象にしたプロップベットを禁止するように各州に働きかけており、現在、大学スポーツのプロップベットを禁止していないのは、カンザス、ルイジアナ、ミシガン、ワイオミングとワシントンD.C.だけである。
プロップベットは賭けに外れたギャンブラーから特定の選手が嫌がらせを受けることだけでなく、八百長に巻き込まれるリスクも高まるからだろう。オハイオ州は、スポーツ賭博を合法化したときには、大学生選手のプロップベットは禁止していなかったが、選手が脅迫を受けたことが明らかになり、大学生の試合の勝敗に賭けることはできるが、大学生の試合のプロップベットを禁止とした。ここでも、オッズメーカー側はプロップベットを禁止しても、海外の賭け屋、地元の違法な賭け屋からは賭けることができるという裏道もあるとしている。
■若くからスポーツに賭ける行為に広がりも…
また、若くからスポーツに賭ける行為も広がっている。アメリカで合法的な賭博が認められている州でも、18歳以下の子どもをターゲットにスポーツ賭博を広告・宣伝することはできない。子ども向けのテレビ番組でスポーツ賭博のコマーシャルは流れていないが、子どもも見ているだろうスポーツ中継では頻繁に流れるし、子どもの観客を取り込もうとしている球場、スタジアム、アリーナでも、スポーツ賭博の広告や看板は目立つところに掲示されている。これらの広告がどのくらい賭ける人の増加につながっているのかはわからないが、スポーツに賭けることの気持ちのハードルを低くする効果はあるだろう。それは、子どもにとっても同じように働いているのではないか。
多くの州では21歳未満は賭けることができないが、オンラインによるスポーツ賭博では親の名前や個人情報を使ってアカウントを偽造するなどして、21歳未満の青少年が違法な状態でスポーツ賭博を行っているケースがいくつも報告されている。
ニューヨークポスト紙は、高校生による記事を募集し、5月に受賞者を発表した。最優秀賞記事は、高校におけるオンラインスポーツ賭博の実態と若年でスポーツ賭博を始めた人が将来的に依存症になるリスクを訴える内容だった。記事では、一部の高校生たちが日常的にスポーツ賭博していることや合法的に無料で遊べるスポーツ賭博のゲームのアプリがあることを伝え、保健の授業では、喫煙、飲酒のリスクを教えているが、ギャンブルのリスクについてはほとんど教えられていないとしている。
タバコと比較してスポーツ賭博は広告の規制は緩く、未成年の子どもたちへリスクを伝えることも十分になされていないのが現状だといえるだろう。アメリカではタバコ業界と政府・州の規制、健康被害を訴える訴訟との長い歴史がある。オンラインの時代に合法化されたアメリカのスポーツ賭博の広告にも今後、何らかの規制がかかるかもしれない。(谷口 輝世子 / Kiyoko Taniguchi)
谷口 輝世子
デイリースポーツ紙で日本のプロ野球を担当。98年から米国に拠点を移しメジャーリーグを担当。2001年からフリーランスのスポーツライターに。現地に住んでいるからこそ見えてくる米国のプロスポーツ、学生スポーツ、子どものスポーツ事情を深く取材。著書『帝国化するメジャーリーグ』(明石書店)『子どもがひとりで遊べない国、アメリカ』(生活書院)。分担執筆『21世紀スポーツ大事典』(大修館書店)分担執筆『運動部活動の理論と実践』(大修館書店)。
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