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第2次エディージャパン5試合の検証 若手起用も宿題山積み…対戦国の弁から透けた超速ラグビーの課題

THE ANSWER / 2024年7月25日 16時33分

テストマッチを3戦全敗で終えた新生ラグビー日本代表【写真:Getty Images】

■サマーシリーズはテストマッチ3戦全敗(ノンテスト戦1勝1敗)という結果に

 9年ぶりに復帰したエディー・ジョーンズ・ヘッドコーチ(HC)が率いた新生ラグビー日本代表の初めてのシーズンは、テストマッチ3戦全敗(ノンテスト戦1勝1敗)に終わった。7月21日に札幌で行われた最終戦では、イタリアに14-42と完敗するなど結果を残せなかった。指揮官が就任と同時に掲げた「超速ラグビー」で、母国オーストラリアが舞台となる2027年次回ワールドカップ(W杯)での8強突破というゴールへ辿り着けるのか。札幌までの戦いぶり、そして23日の総括会見から、第2次エディージャパンが、いま立たされている座標が浮かび上がる。(取材・文=吉田 宏)

 ◇ ◇ ◇

 山積みの宿題を残して、日本代表が“サマーシリーズ”を終えた。シーズンを総括する会見で、エディーが船出のシーズンを振り返った。

「非常に厳しいスタートになったのは否めません。負け試合(イングランド戦17-52)から始まると、どうしても厳しい戦いになってしまう。自分としても結果はとても悔しく思っているが、間違った方向に進んでいるとは思っていない。時間はとてもかかるものです。新しいチームへ変革していくという過程では、どうしても若い選手の育成は必要だし、そこに関しては時間と忍耐、根気強く続けていくことが大事だと思います」

 代表戦は結果が全てという観点では不満の残るスタートだが、チームの戦いぶりを見れば、完成度ではまだまだ足りないものが山積みなのも事実だ。エディーが語るように、大学2年生のFB矢崎由高(早稲田大)、入社1年目のPR為房慶次朗(クボタスピアーズ船橋・東京ベイ)や、今季が代表デビューとなったHO原田衛(東芝ブレイブルーパス東京)ら若手を積極的に起用する未来への“投資”にも取り組んできた。再始動まで2週間のオフを予定している、8月開幕のパシフィックネーションズ杯(PNC)への準備時間は潤沢ではないが、チームがどこまで“生みの苦しみ”を克服できるかが注目だ。

 あらためてイタリアとの最終戦を振り返ると、夏のシリーズで最も厳しい敗北だった。ジャパンXV(フィフティーン)戦も含めた全5試合に先発したHO原田がイタリア戦後に「イングランドより強かった」と呟いていたが、それもあながち誤りではない。世界ランキング5位の強豪イングランドだが、夏のシーズン初戦で日本まで移動して、暑さが厳しい東京で、未知数の多い新生日本代表と戦ったのに対して、敵地の厳しい環境でサモア、トンガとフィジカルゲームを続けてきたランク8位のイタリアほうが、チームの完成度、そして日本の「超速」対策も十分に準備して挑んできた。

 日本は、ここまで善戦をみせていたスクラムを強烈に押し込まれ、得点の起点としたい敵陣でのラインアウトで何度もクリーンキャッチに失敗。セットプレーの成功率はスクラム25%、ラインアウトは74%に止まった。接点での球出しでも、相手の重圧に自分たちの素早い球出しが出来ない。その結果、アタックのテンポが上がらず、ここまで苦闘の中でも見せてきたループやアングル変化を交えたアタックも影を潜めた。奪った2トライは、ともにインターセプトなどアクシデンタルな幸運からマークしたもので、イタリアにとっても自分たちの防御システムが崩された失点ではないため、深刻な痛手にならなかった。スピード感に溢れたゲームを見せたのは、むしろ対戦相手のほうだった。

「イタリアの一貫性が自分たちよりも何枚も上手だった。自分たちはハンドリングエラー、ラインアウトのミスなどでフィニッシュ(得点)に至らなかった。残念ながら、これがいまの現状です。正直なところ、まだまだ我々としては課題が多く積み重なっている。一貫性を積み上げることが重要だと思っています」

 負けず嫌いのエディーも、試合後の会見で潔く完敗を認めている。その一方で、快勝したイタリアのゴンサロ・ケサダHCのコメントからは、いまの日本にどう戦えば勝てるのか、言い換えれば日本の課題が浮かび上がる。

「(24-7と圧倒した)前半については、私たちの計画通りになりました。計画というのは、1つは、まず日本にボールを持たせないこと。持たせてしまうと日本はスピードに乗ってくる危険なチームです。だから、自分たちでボールをキープしようと考えていたのです。それが前半上手く出来ました。2つ目が日本にプレッシャーを与えることです。そうすることでボールの動きがスローになり、日本の流れを遅らせることも上手くいきました。コンタクト、コリジョンのシーンで、ボールがスローダウン出来たのです。自分たちがラインスピードをコントロールして、日本のプレーの流れを遅くしようという思惑を、しっかり実現出来ました」

■やられた日本側は苦戦をどう受け止めたのか

 これから日本と対戦するチームの参考書になるような言葉だが、やられた側は、苦戦をどう受け止めたのか。まさに、ケサダHCの裏返しのようなコメントだが、前体制では主将も経験したHO坂手淳史(埼玉パナソニックワイルドナイツ)は、イタリア相手に速いテンポで戦えなかった要因をこう振り返る。

「ブレークダウンはプレッシャーがかかっていましたね。ボールキャリアーに対してイタリアはダブルタックルをしてきて、そこで僕らのテンポを出させないというプランだったと思います。僕らの(速いテンポで攻める)プランと相手のプランとの戦いだったが、そこは相手のほうが上だった」

 イタリアは日本戦前に過去最高位の世界ランキング8位に浮上している。今冬の6か国対抗でも群を抜くタックル回数をマークしたFLミケーレ・ラマロ主将、フィジカル、機動力両面でクオリティーを見せるLOニッコロとNo8ロレンツォのカンノーネ兄弟、今年の6か国対抗で代表デビューを果たし、日本戦でも高い運動量が光った南アフリカ出身のFLロス・ヴィンセントらハードワーカーがコンタクトエリアに揃い、日本の球出しをスローダウンし続けた。

 ゲームを重ねる毎に進化を期待された「超速」だったが、イタリアの重圧で過去4試合よりも機能していなかった印象だ。それまでの試合で見せていたスピード感のある多彩なライン攻撃が見られず、単調なアタックに終始した。エディー体制で初めてSOに入った松田力也(トヨタヴェルブリッツ)は、どんな感触でプレーしていたのだろうか。

「ファーストキャリアーのところで持ち上げられてしまい、ちょっと返されながらプレーしていた状況がすごく多かった。そこはイタリアがしっかり準備したところかなと思います」

 松田の言葉を補足すると、イタリアがしっかりと日本の超速対策をしてきたために、アタックを仕掛けた日本選手がホールドされ、押し返されるようなタックルを受けるシーンが多かったということだ。坂手の指摘と共通するのは、イタリアに日本のテンポを寸断されたという現実だ。「返された」ことで前に出れず、日本のアタックに勢いが作れなかった。そのために、先に触れたように、ここまでの試合で見せてきた細やかなBKのムーヴを効果的に使えなかったのだろう。

 新生ジャパンの始動からの戦いぶりを見る中で、とりわけイタリア戦ではアタックを仕掛けるときのチームの「戸惑い」を感じた。エディーが唱えるように、「超速」が目指すのは、単なる動作のスピードだけではなく、考え、判断する速さであり、組織として連動する速さ、そして相手に考える判断をさせないほどのテンポでボールを動かすスタイルだ。だが、この日の日本代表のアタックをみても、常時相手を速さで揺さぶるほどのテンポでプレーは出来ていない。SOがボールを持った時には、すでに全員がどの方向に、どんなランコースで攻めるのかが共有されているのが理想だが、どのような攻撃がアタックラインにインプットされているのかが不明瞭なアタックもあった。

 ここまでの試合でも同様に、ゲームメーカーが「超速」の戦いを明確にオーガナイズ出来ていないような印象は見られた。これはおそらく組織としての連動性の低さも影響していると思われるが、松田は「超速」の課題をこう指摘する。

「超速ラグビーが難しいというよりも、どこでキャリー(ボールを持って前進)するか、どうやってボール運ぶかというところを考えてやっていますし、もちろん自分の前が開いたらいくという選択もありますけど、もっとボールタッチを増やさないといけないという感覚はあります」

 簡単に言い換えれば、パス、ランなどの判断を、状況を読みながら選択することが、このスタイルには重要であり、その判断力やチームでの相互理解などを上げていくためには、実戦でプレー経験を積んでいく必要があるということだろう。コンディション調整などで、イタリア戦以前はノンメンバーだった松田は、1歩離れた位置からチームの仕上がり具合を見つめていた。

「チームが始まって2か月くらいじゃないですか。実際、若い選手も多いし、練習は沢山していても、ゲーム経験というのは、やはり試合に出ないと身に付かないし、すごい必要だと思います。そこは、今回の負けも含めてどんどん良くなると思う。そして、若い選手のエナジーをどうやってコントロールするかが僕たちの勝負ですし、どうゲームをするかもそうです。言葉一つをかけるタイミングも含めて、考えていかないとなとあらためて思います。もちろん代表に選ばれればどんな状況でも頑張るんですけれど、頑張りどころってあると思うので、そこも含めて(司令塔役の)僕が思った通りに動いてもらうためにも、常にコミュニケーションを取り続けたいですね」

■日本ラグビーへの示唆に富んだイタリア主将のコメント

 選手の多くは勝てない現実を深刻に受け止める一方で、松田の言葉からもわかるように、熟成まで時間がかかるという現実も認識している。松田同様に帝京大、埼玉WKと常勝軍団でハイレベルな試合を何度も経験してきた坂手も、ここからのチームの取り組みに意識を切り替えている。

「次のPNCでは、もっと自分たちのやりたいことを明確にして、超速の中にもっとディテールを持って、自分たちがどういうアタックすればチームが上手く回るのか、トライを獲り切れるのかとうところにフォーカスしながらやっていきたいと思います。いままでの4試合は、スタートは良かった。でも今日の試合はスタートで、出鼻をくじかれています。自分たちのゲームプランを完全に潰されてしまった。そうさせないためにどうしていくかをフォーカスしてやりたい」

 代表系のチームで初めてマオリ・オールブラックスを倒した同カード第2戦で、チームは前週の試合までから大幅な修正を見せた。この勝利が、第1次エディー体制のウェールズ戦勝利のようにチームの転換点になると期待したが、その後はジョージア、イタリアと勝利を積み上げられなかった。坂手は「相手もディフェンス(システム)も違うので、いい試合を1つしたから、そのまま出来るかというと別のものになる。それを一貫性を持って出来るようになれば自分たちのほうに流れが来るかなと思いますけれど、そこでトライ取れないと相手が勢いを持ってしまう。イタリア戦ではそこの難しさを感じました」と、テストマッチレベルの試合の厳しさを指摘している。

 そして、快勝で日本をねじ伏せたイタリアのラマロ主将の、日本代表のプレースタイルに対する捉え方も示唆に富んだものだった。

「いまのラグビーというのは、エンタメの要素がないといけないと考えていますが、やはりバランスが大切です。例えば過去2回のワールドカップをみても、攻撃は正しいタイミングで、正しいプレーをしないといけない。闇雲に攻めても、ボールを失い、そこから修復が効かないような結果になってしまいます。そこで日本ですが、彼らがゲームをコントロールしているとき、良い状態の時はとても危険です。ですから、強みを生かしていくことができれば非常に大きな可能性あると思います。スピードのあるラグビーについては、自分たちもここ2年間いろいろなことを全部やろうと試みてきたが、速さが裏目に出ることがあった。強豪相手には、しっかりとどこを攻撃の起点にするのか、どういう風にプレーするのかを判断していく必要はある。ただ、日本が目指すような速いラグビーを本当に出来るようになれば、見ていてすごく楽しいですし、どんなチームにも勝てるのではないでしょうか」

 イタリア代表自体も、スクラムとタックルが信条のマッチョなラグビーから、いまではボールを華麗に展開してスピードで勝負するスタイルに転じて、昨季6か国対抗でも2勝1分け2敗という過去にない好成績を残した。闘将からみた日本の今の姿は、闇雲にスピードで勝負して、ミスから一気にピンチを招くハイリスク・ノーリターンなチームに見えているのかも知れない。

 ラマロ主将が指摘するように、この試合では日本の不用意なプレー選択が致命傷に繋がる局面が多かった。ゲームの主導権を握るためには重要な先制点は、前半3分のイタリアのPGによるものだったが、この失点は若手注目株のFB矢崎由高(早稲田大2年)のキックカウンターを、いとも容易くイタリア防御にジャッカルされたPKから奪われている。その後3連続トライを奪われた着火点としても、戦略上では日本にとって致命的な失点でもあった。

 矢崎が可能性に満ちた逸材であるのは間違いない。エディーがジャパンXV戦も含めて全5試合で先発起用したのも異論はない。実際にこの試合の日本側データでも、2度の独走トライをみせたCTBディラン・ライリー(埼玉WK)に次ぐ走行距離(70m)、攻撃回数(15)を記録している。だが、ピッチ上でのプレーのクオリティーを見れば、まだまだ思い切りの良さだけでプレーしている印象がある。今回のように、自分で攻め込んで簡単に攻撃権を奪われるシーンは、マオリ・オールブラックス第1戦などでも見受けられたミスだが、ボールをどうリサイクルできるかという課題は残されたままだ。

 代表歴の浅い選手をW杯経験者の中に混ぜ込んだ布陣で戦ってきた第2次エディージャパンだが、先に指摘した「戸惑い」や、若い選手が多いからこそ必要な、ゲームをオーガナイズする役割をベテランのリーダーに託すのも1つのやり方だ。総括会見では、エディーにこんな質問をしてみた。

「こういう若い選手をオーガナイズするときに、たとえば田村優(横浜キヤノンイーグルス、SO)のような経験値のあるSOという選択もあるのではないか」

■筆者の問いに返ってきたエディーの答えとは

 2015年までの第1次エディー体制では、小野晃征(現東京サントリーサンゴリアスアシスタントコーチ)らに次ぐ若手SOとしてプレーしていた田村だが、19年大会では中心選手として日本代表初のベスト8進出を牽引した。23年大会は選外だったが、所属する横浜Eでも、「超速」に通じるような速い展開でのアタックを指揮するゲームメーカーとして才覚を輝かせる。その判断力の高さは、とある代表経験も豊富なインサイドCTBが「優さんがゲームの中で、瞬間瞬間にみせる判断って、そのほとんどが正解なんです」と語るように、そのゲーム感覚や、相手の防御のギャップをラン、パス、キックを駆使して突く勝負勘はいまだ衰えを知らない。

 勝負所での防御、プレースキックの不安定さなどマイナスポイントもある田村だが、横浜Eでのプレーぶりをみても、自分の足りない部分を補おうという積極的な姿勢も見せてきた。そんな、円熟期に入った司令塔を、若いチームと“噛合わせる“ことで、いまだに迷走するシーンもある「超速」を加速する一助になるのではないかという意味で田村の名を挙げたのだが、指揮官は「田村個人へのコメントは差し控えるが」と選考外の個人名には触れない前置きをした上で、こんな考え方を示している。

「検討する余地はあると思う。正しい、適したシニア選手を呼ぶことに関しては余地は間違いなくあります。現状のチームの中でリーチはFWの替えが効かないようなシニア選手ですが、BKでも松田、立川(理道、クボタスピアーズ船橋・東京ベイ)がそういう形で、チーム内でも大きく貢献してくれてるし、存在感のある選手です。他のシニア選手を、そういう役割で呼ぶこともあると思います」

 エディーの指摘通り、リーチマイケルが名実ともピッチの上のリーダーを託されたのは、若いチームをオーガナイズするには適材だからだ。だが、5試合を実際にスタジアムで観てきて実感するのは、アタックに強みを持ちながら、攻撃を継続しながら仕留め切れない戦いぶりの中で、BKのアタックを状況を読み取りながらコントロールするゲームメーカーの物足りなさだ。

 リーチにBKラインのオーガナイズまで求めるのは無理な話ではあるし、BKで挙げた2人もイタリア戦では立川はメンバー外、松田も復帰したばかりで、まだまだ自分自身の判断力、プレー感覚を磨く段階だ。スコアまで持っていけるようにゲームを組み立てていくためには、やはりアタックラインをコントロールできる選手をBKラインの要に位置するSOに置くことが、若い素材のポテンシャルを引き出すためにも重要なはずだ。

 個人名は避けたエディーだが、インターナショナルプレーヤーへと成長を続けていた時代の田村を代表に呼び続けた経験から、この司令塔の持つ才能も欠点も、我々以上に熟知しているはずだ。サントリーのアドバイザー時代にも、成熟した田村のプレーぶりは見続けているだろう。指摘してきたように、第2次エディージャパンは生みの苦しみの最中にある。時間をかけて熟成させていく段階なのは明白だが、その未熟なチームを、より早い段階で戦闘能力の高い、いまの日本代表でいえば、確実にチャンスをスコアに繋げるチームに進化させるためには、豊富な経験とボールを動かす才覚を持つゲームメーカーの存在が大きなインパクトになるはずだ。(吉田 宏 / Hiroshi Yoshida)

吉田 宏
サンケイスポーツ紙で1995年からラグビー担当となり、担当記者1人の時代も含めて20年以上に渡り365日欠かさずラグビー情報を掲載し続けた。1996年アトランタ五輪でのサッカー日本代表のブラジル撃破と2015年ラグビーW杯の南アフリカ戦勝利という、歴史に残る番狂わせ2試合を現場記者として取材。2019年4月から、フリーランスのラグビーライターとして取材を続けている。長い担当記者として培った人脈や情報網を生かし、向井昭吾、ジョン・カーワン、エディー・ジョーンズら歴代の日本代表指導者人事などをスクープ。ラグビーW杯は1999、2003、07、11、15、19、23年と7大会連続で取材。

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