開会式を見て改めて考えた東京五輪 「新しい五輪」発信譲っても「もし放棄していたら…」揺るがぬ功績
THE ANSWER / 2024年7月27日 18時33分
■「シン・オリンピックのミカタ」#8 「OGGIのオリンピックの沼にハマって」第3回
スポーツ文化・育成&総合ニュースサイト「THE ANSWER」はパリ五輪期間中、「シン・オリンピックのミカタ」と題した特集を連日展開。これまでの五輪で好評だった「オリンピックのミカタ」をスケールアップさせ、4年に一度のスポーツの祭典だから五輪を観る人も、もっと楽しみ、もっと学べる“新たな見方”をさまざまな角度から伝えていく。「社会の縮図」とも言われるスポーツの魅力や価値の理解が世の中に広がり、スポーツの未来がより明るくなることを願って――。
今回は連載「OGGIのオリンピックの沼にハマって」。スポーツ新聞社の記者として昭和・平成・令和と、五輪を含めスポーツを40年追い続けた「OGGI」こと荻島弘一氏が“沼”のように深いオリンピックの魅力を独自の視点で連日発信する。
◇ ◇ ◇
五輪のたびに開会式は楽しい。その国、都市ならではの演出が、大会本番への期待感を駆り立てる。今大会は斬新だった。夏季大会で初の競技場外。セーヌ川での水上パレードも新しかった。レジェンドたちがつないだ聖火をリネールとペレクが巨大な気球に点火する演出、セリーヌ・ディオン復活の「愛の賛歌」も感動的だった。
斬新すぎて正直、頭が追いつかないところもあった。テレビ映像はパレードからパフォーマンス、聖火リレーと次々と視点が変わる。同時多発的にいろいろなことが起こるから、資料が手元にあるはずの実況アナウンサーも混乱していた。従来の開会式に慣れ過ぎて「定形外」に戸惑った部分もあったが、これが「新しい五輪」へのスタートなのだろう。
何よりも良かったのは、観客の存在があったこと。セーヌ川沿いには80もの大型モニターが用意され、有料の観客席だけでなく多くの人が生で見た。川沿いの建物のベランダから身を乗り出して船上パレードを見ている人も大勢いた。
大きな拍手の音に、うらやましさを感じた。3年前、東京大会は無観客だった。華々しい演出の後ろには無人のスタンド、選手の背中に歓声は届かなかった。新型コロナのパンデミックという非常事態に、すべてが吹き飛んだ。「安心安全な開催」が最優先。「勝つこと」でも「参加すること」でもなく「開催すること」に意義があった。
新しい五輪への試みは、数多くあった。廃棄スマホを材料にしたメダル、リサイクルプラスチックの表彰台、東日本大震災での仮設住宅の廃材で作られた聖火トーチ……。選手や観客への「お・も・て・な・し」も、選手の行動が制限され、無観客で空振りに終わった。
スケートボード、BMXフリースタイルなど新しいスポーツは大会の目玉だった。チケットがなくても競技を楽しめ、選手とも触れ合える「アーバン・クラスター」を湾岸エリアに設ける計画があった。もちろん、中止。人々が密に触れ合う「賑わいの場」として呼んだ「クラスター」は、新型コロナ禍で負のイメージになった。
■第32回大会があったから第33回のパリ大会がある
IOCは2014年、五輪の改革案である「アジェンダ2020」を採択した。男女の平等や実施競技の見直しなど40項目を盛り込んだもので、20年東京大会を「新しい五輪」のスタートに位置付けた。ところが、東京ではスタートが切れず。パリが仕切り直しのスタートになった。
東京大会は終了後もネガティブなイメージがついた。世界的にも五輪反対運動は収まらない。パリ大会での仕切り直しは、0からではなくマイナスからのスタートといってもいい。だからこそ、IOCも組織委員会も五輪と開催都市パリのポジティブな発信に力を入れる。
本来なら東京大会が、この先に向けて「新しい五輪」の「手本」になるはずだった。それを思うと本当に残念でならない。それでも、東京大会の果たした役割は大きい。無事に開催したからだ。
大会前のゴタゴタや、その後の不祥事発覚などで、東京大会組織委員会そのものがネガティブに見られる。ただ、すべてが止まってしまうという想像もできない困難に直面しながら、規模を縮小し、描いていた夢を断念してまで大会開催にこぎつけた。「東京でなければ、できなかった」というIOCバッハ会長の言葉は、本音だろう。
もし、東京大会が開催を放棄していたら、パリ大会への影響は小さくなかったはず。東京大会の間に不測の事態が起きたとしても同様だ。「新しい五輪」発信はパリに譲ったが、第32回大会があったから第33回のパリ大会があるのは間違いない。これでもかとばかりにパリを詰め込み、アピールする開会式を見ながら、改めて東京大会を開催したことを考えた。(荻島 弘一 / Hirokazu Ogishima)
荻島 弘一
1960年生まれ。大学卒業後、日刊スポーツ新聞社に入社。スポーツ部記者としてサッカーや水泳、柔道など五輪競技を担当。同部デスク、出版社編集長を経て、06年から編集委員として現場に復帰する。山下・斉藤時代の柔道から五輪新競技のブレイキンまで、昭和、平成、令和と長年に渡って幅広くスポーツの現場を取材した。
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