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「ナプキンかタンポンか」オリンピック選手の月経対策 最近は「生理○日目」も記入→チームと共有・管理――女性アスリートと生理

THE ANSWER / 2024年7月28日 10時34分

荒木絵里香さんは2021年東京五輪まで現役生活を続けた【写真:Getty Images】

■「シン・オリンピックのミカタ」#13 女性アスリートの今を考える――伊藤華英×荒木絵里香第2回

 スポーツ文化・育成&総合ニュースサイト「THE ANSWER」はパリ五輪期間中、「シン・オリンピックのミカタ」と題した特集を連日展開。これまでの五輪で好評だった「オリンピックのミカタ」をスケールアップさせ、大のスポーツファンも、4年に一度だけスポーツを観る人も、五輪をもっと楽しみ、もっと学べる“見方”をさまざまな角度から伝えていく。「社会の縮図」とも言われるスポーツの魅力や価値が社会に根付き、スポーツの未来がより明るくなることを願って――。

 スポーツ界で近年、急速に変化が起こりつつあるのが、女性アスリートの環境だ。夏季五輪に初めて女子選手が参加したのは今回と同じ1900年パリ大会。1964年の東京大会は出場選手5151人のうち女子は678人で全体の13.2%だったが、「ジェンダー平等の推進」がテーマに掲げられた2021年の東京大会で48.8%とほぼ半数に。こうしてスポーツで女性が活躍するとともに、月経とコンディショニング、結婚・出産とキャリアプランなど、女性アスリート特有の課題が注目され始めた。

 こうした課題を先進的に取り上げてきた「THE ANSWER」はパリ五輪に合わせ、競泳・伊藤華英さんとバレーボール・荒木絵里香さんの対談を企画。五輪出場経験を持つ2人は引退後、伊藤さんは部活生や指導者らに月経にまつわる情報発信や講演を行う教育プログラム「スポーツを止めるな 1252プロジェクト」のリーダー、荒木さんは実際に出産または出産を考えている女性アスリート、関係者らの支援を行う団体「MAN(ママ・アスリート・ネットワーク)」の代表理事を務める。

 そんな彼女たちが、2024年の今、スポーツ界の最前線で感じている女性アスリートの課題とは――。前回に続き、第2回は「女性アスリートと生理」。かつて口に出すことがタブーだった月経の話題も変わりつつある。オリンピック選手はどう付き合い、競技生活に励んでいるのか。(取材・構成=THE ANSWER編集部・神原 英彰)

 ◇ ◇ ◇

――第1回ではお二人の月経の経験やコンディショニングについてお聞きしました。今回は現場レベルでの具体的な対策についても触れられればと思いますが、そもそも月経は女性同士でも生理痛が重い人、軽い人がそれぞれ。つらい時期も異なるし、どんな風に管理しているのでしょうか。

荒木「最近は『ONE TAP SPORTS(※)』というアプリでチームに報告します。月経に限らず、体重・体脂肪、体温、脈拍、痛みがある箇所や疲労具合など。その中に『生理○日目』などの情報も記入します。毎朝、練習前に5分くらいかけて、それが1年中ずっとです。それによって練習メニューも考慮されます。メリットとしては自分で毎日記入することで、自分の体が昨日と比べてどうか変化を感じられる。手間はかかるけど、すごく大事です」

※株式会社ユーフォリアが運営するアスリートのコンディションやトレーニング負荷、ケガの状況などのデータを一元管理できるアプリシステム

伊藤「本当にそう思います。以前はそんなアプリがなかったから。今はラグビーなどいろんな競技に『ONE TAP SPORTS』が普及し、いろんな企業もそうしたサービスを作っている。コンディション管理をしっかりする温度感はできてきた。監督・コーチとしても会話がなくても、今の状態を把握できるのは一番いいですね」

荒木「もう何年もその生活をしていたから。引退したら『ああ、もう記入しなくていいのか』と思ったくらい(笑)。そのくらい習慣になってます」

伊藤「そういう影響もあってか、最近のトップアスリートは生理に対しての認識を持っていると感じるようになりました。なぜ女性の体に月経が定期的に来るのか、こういう症状になったら良くないという本質的なことまでは分かっていなくても、月経を対処できるという理解は持っている。トップ層のアスリートはほとんどそうです」


スポーツ界からもたらした変化を伊藤さんは喜ぶ【写真:松橋晶子】

■スポーツ界発信で社会に変化をもたらした月経の意識 伊藤さん「そうだったらうれしい」

――第1回で「私たちが10代の頃は耐えて、我慢するのが当たり前。今みたいに月経を口に出せない時代だった」と荒木さんが言っていましたが、ここまで変わりました。20年という歳月が長かったか、短かったかの評価は分かれるにせよ、大きな変化ですね。

伊藤「いいと思います。ただ、言いやすいことではないのは変わらないので、メンタル的なケアは必要。競技ごとによる対策・体制もそうです。バレーボールのような団体競技ならスタッフに女性がいて、監督の間に入って、コミュニケーションを取りやすい環境かもしれない。でも、個人競技になると個々の対策になってしまうので」

荒木「ひと昔前はこういうトピックをメディアに取り上げられもしなかったですよね。それ自体が大きく変わったところ。選手も『生理痛がつらい』と言いやすくなっている。こんな意識が社会全体に広まれば、生理休暇が取りやすくなるなど、変化が生まれ、さらに理解が進みそうですね」

――最近は月経の話題を口にするのも珍しくないですが、その風潮を作ったのがスポーツ界ではないかと感じます。特に伊藤さんは2016年頃から積極的に発信。強くて、勇ましいアスリートが世の女性と同じ課題を持って戦っているというのは大きなインパクトで、社会的な関心に広がるきっかけになったのではないでしょうか。

伊藤「そうだったらうれしいし、スポーツ界はそこを目指したいですよね。『スポーツは社会の縮図』と言われ、社会の課題を置き換えやすい。それにアスリートは有名な方が発信するのは目につくし、ソーシャルインパクトはあるかもしれない。今後もそうした流れができていったら、一人の元アスリートとしてはうれしいですね」

――時代の変化とともに、女性特有の健康課題をテクノロジーで解決する製品やサービス「フェムテック(フィメール・テクノロジーの略語)」が生まれ、フェムテック産業は2025年までに5兆円規模になるとも言われています。

荒木「ここ数年じゃないですか、急に」

伊藤「すごい勢いですね。フェムテックのイベントに行ってみると、驚くほどいろんな製品が展開されています。アスリートもナプキンやタンポンなどの生理用品、デリケートゾーンのクリームなど、一部でかかわってくる領域ですし、多くの人が着目して産業に入ってきていますね」

荒木「私は海外に行って初めて、日本の生理用品はめちゃくちゃ品質が高いなって気づきました。向こうで初めてタンポンを購入したとき、段ボール紙みたいなアプリケーターに包まれているのを見て、『え、ちょっとナニコレ!?』と驚きました(笑)。あと、生理用品で言えば、最近はタンポンとナプキンどっちがいいかを聞かれることもありますが、個人によりますよね。

 私は高校を卒業するまではナプキン派でした。母がタンポンを使わなかったので、タンポンについての情報が入ってこなかった。なので、私のなかではずっと、生理用品=ナプキンでした。でも、実業団に入ってから先輩たちがタンポンを使っているのを見て、試してみようと思い、使うようになりました。実際、使ってみたらすごく快適。以降、プレー中はタンポン派です」

伊藤「長期の遠征にナプキンを持っていくと、量が多くてかさばると悩む選手もいますね。タンポンや月経カップの方がコンパクトなので。あとはユニホームが白の場合、ナプキンだけだと心配になりやすいとも聞きます。(経血が)漏れたらタンポンを使ったり。競泳は水中なのでナプキンは使いようがなく、月経の場合はタンポンを使うしかない。でも、タンポンすらも重いと感じました。

 日本はナプキンが多く、海外はナプキン、タンポン、月経カップなど、いろんな選択肢がある印象です。海外も月経教育自体は日本と変わらないですが、避妊の方法など、性教育は進んでいるかもしれない。生理は意外とどの国もセンシティブ。海外の選手もチームメートで誰が生理か知らないというのが普通で、コーチと話さない選手も多い。生理は個人的な話と受け止められていますね」


小学生の娘を持つ荒木さんが願うこととは【写真:松橋晶子】

■小学生の娘を持つ荒木さん「子どもたちが正しい知識が得られる環境を」

――生理という切り口で女性アスリートの課題を聞いてきました。この領域において、お二人が今後課題に持っていることはどんなことでしょうか?

伊藤「この課題が注目されているのは、女性の社会進出も関連していると思います。女性は経済的に輪の外にいるという風潮から、女性が活躍することでこんな課題もあるよね、という認識が生まれている。一方で、生理を学校教育だけでやるのは限界がある。今は学校の教員負担も大きく、科目担任制も進んでいるし。そこに外部指導者も取り入れていく必要もあると感じます。毎日顔を合わせる先生に生理のことを教わったり相談したりするのは、どうしても恥ずかしさがあるもの。

 小学生も月経が来ている、来ていないはそれぞれ。中学生になってから来ることもある。その中で、学校の外部から来た方に話してもらった方がやりやすいかもしれない。また、保健の授業を受けたからといって、子どもが実際に生理が来た時にその内容を覚えているかわからない。保護者も一緒に受けるのも手かもしれないですね。そのくらい小学生に月経を教えるのはすごく難しいと感じます。荒木さんは実際に小学校の娘さんがいますが、お母さんとしてはどう感じていますか?」

荒木「小学校でそういう勉強をしてきたという話は娘もしますね。男の子も一緒に受けたことも話してくれました。それは良いことだと思います。家に帰って来て、親に話すことで、学校で終わりじゃなく、自分が疑問に思ったことを親なり先生なり話しやすい人に投げかけることで、認識や理解が深まることも多くあると感じます。今は小学生もパソコンをするし、携帯でなんでも検索できてしまう。うちはまだスマホを与えてないですが、(検索して)何を見ているかは親としても心配。子どもたちが正しい知識を得られるような環境があると安心ですね」

 ここまで生理について語ったが、荒木さんは「生理から繋がって、女性がキャリアを描く上で考えていかなければいけない」と考えることがある。それが、女性アスリートの出産。第3回では荒木さんも実際に現役時代に経験した結婚・出産と育児との両立について語られた。(THE ANSWER編集部・神原 英彰 / Hideaki Kanbara)

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