震災乗り越え初出場の鵬学園 「サッカーどころではなかった」3か月…初戦敗退も他校の支援に感謝
THE ANSWER / 2024年7月28日 16時26分
■石川県七尾市の施設すべてが被災、他県のライバル校も選手の練習参加に協力
全国高校総体(インターハイ)の男子サッカーは27日に福島県で1回戦を行い、初出場の鵬学園(石川)は日章学園(宮崎)と対戦し、2-2でもつれ込んだPK戦に1-3で敗れた。後半2分、35+1分と2度リードしながら、後半アディショナルタイムに追いつかれ、手につかみかけた勝利を逃した。PK戦では3人が失敗。あと1、2分守り切れれば……という悔しさが募る試合だった。
ただ、わずか1試合で挑戦を終えたが、1月に起きた能登半島地震の被災を乗り越え、たどり着いた価値ある舞台だった。
主将の竹内孝誠(3年)は「自分たちは、サッカーをできているのが当たり前じゃない。本当にたくさんの人の支えがあってプレーができた。感謝しかない。まだ充実した生活ができていない能登の方たちに、笑顔や明るいニュースを届けようと全員でやってきた。そういう気持ちは、出せていたと思う」と話し、活動のサポートに対する感謝と、まだ復旧し切れていない能登への思いを表した。
鵬学園は、元日に起きた能登半島地震により、石川県七尾市にある寮、校舎、グラウンドのいずれも被災。サッカー部が練習場としていた和倉温泉運動公園多目的グラウンドも被災し、年明けからしばらくは活動できなかった。帰省中だった県外生は、自習スペースだった建物を改修して寮として活用できるようになるまで、合流できず。一部の選手は、富山県の民宿で避難生活を送った。生徒が全員戻って活動できるようになったのは、4月だ。
その間、赤地信彦監督は選手に対して、中学生時代に所属していた、それぞれの地元のジュニアユースチームの練習に参加させてもらうように指示。学校の復旧を急ぐなか、選手の競技活動が止まらないように工夫をしていた。
そのなかで、以前から交流がある北信越地域のライバル校である帝京長岡(新潟)の古沢徹監督から、新潟県出身の子を預かると声をかけてもらったことを機に、高校サッカー界の力を借りようと考えた。
選手たちに「地元から近い高校は、どこか」と聞き取りを行い、地元の高校で練習に参加させてもらえるようにお願いをして回った。今大会に出場しているなかでも、東山(京都)や神戸弘陵(兵庫)が選手の練習参加に協力。まったく面識がない高校の協力も得られたほか、支援物資等でも多くのチームに助けてもらったという。
PK戦の末に初戦敗退となった鵬学園イレブン。悔しさを胸に冬の高校選手権出場を目指す【写真:平野貴也】
■現在も地元で活動できず、週2回金沢市まで移動して練習
多くの助けを得て届いた初舞台だっただけに、赤地監督は「3か月間は、本当に生活するのでいっぱいいっぱい。サッカーどころじゃなかった。全国のサッカーファミリーが、いろいろなサポートをしてくれた。それで、サッカーがもう一度できるというところで、選手もそれが当たり前じゃないとすごく実感できた。石川県の方々も、もう一度元気をと言って送り出してくれたので、勝ちたかったし、皆さんに笑顔を届けたかった。でも、悔し涙で終わってしまいました」と勝利の報告で恩返しをできなかったことを悔しがった。
復旧活動は、まだ終わっていない。サッカー部も、まだ地元で活動できる場所がなく、木曜、金曜に40~50分かけて金沢市内まで移動して練習。時間も1時間強しか取れないなかで活動に励んでいる。冬の高校選手権での全国再挑戦を狙うが、楽な道のりではない。
それでも、主将の竹内は「最後の部分で、勝負強さがなかった。プレッシャーがかかる舞台で、いつも通り落ち着いてプレーできる場面はもっとあったはず。練習時間が短い分、質にこだわらないといけない」と敗戦を糧に成長する意気込みを示した。最終ラインで体を張った生駒晟司(3年)も「短い練習時間で強度を上げないといけないし、常にみんなをリードするために、自分はもっと喋り続けて、試合のような雰囲気で練習に臨めるようにしたい」と巻き返しを誓う。
震災を乗り越え、初のインターハイを経験した。初戦敗退の悔しさが、さらなる成長につながったと冬に示すための戦いがここから始まる。(平野 貴也 / Takaya Hirano)
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