「五輪」が世界選手権やW杯と違うこと 球技で熱戦続出、選ばれし者たちが戦い「ギューッと凝縮」
THE ANSWER / 2024年7月28日 18時13分
■「シン・オリンピックのミカタ」#18 「OGGIのオリンピックの沼にハマって」第4回
スポーツ文化・育成&総合ニュースサイト「THE ANSWER」はパリ五輪期間中、「シン・オリンピックのミカタ」と題した特集を連日展開。これまでの五輪で好評だった「オリンピックのミカタ」をスケールアップさせ、4年に一度のスポーツの祭典だから五輪を観る人も、もっと楽しみ、もっと学べる“新たな見方”をさまざまな角度から伝えていく。「社会の縮図」とも言われるスポーツの魅力や価値の理解が世の中に広がり、スポーツの未来がより明るくなることを願って――。
今回は連載「OGGIのオリンピックの沼にハマって」。スポーツ新聞社の記者として昭和・平成・令和と、五輪を含めスポーツを40年追い続けた「OGGI」こと荻島弘一氏が“沼”のように深いオリンピックの魅力を独自の視点で連日発信する。
◇ ◇ ◇
本格的に競技が始まり、テレビの前から動けなくなった。基本的に競技を行わない開会式の26日が終わり、27日のパリは朝から五輪一色。時差のある日本でも、午後4時からのバレーボール男子にはじまり、次々と日本チームが登場した。
バレーボールがドイツに敗れると、今度はバスケットボール男子のドイツ戦が始まる。並行してハンドボール男子が過去五輪優勝2回の強豪で、今年2月まで日本代表監督だったシグルドソン氏が率いるクロアチアと対戦。さらに、28日の早朝にはサッカー男子でマリと戦った。
そのどれもが熱戦だった。バレーボールはフルセットの激闘。バスケットボールは最終的に点差をつけられたが、ハンドボールは終了1分前で同点という激戦。サッカーも1点を争う好ゲームだった。勝ったのはサッカーだけだったが、どれも見ごたえ十分だった。
驚くのは、テレビ画面からも感じる選手たちの熱量。その気迫は、まるでメダルを争う準決勝や決勝のようだった。誰もが口にする「オリンピックは違う」というフレーズ。23歳以下のサッカーは少し事情が異なるかもしれないが、他の球技にとって五輪は最高にして唯一の舞台。選手やファンの熱量が増すのも当然だ。
五輪が各競技の世界選手権(W杯)と違うのは、選ばれし者たちの大会だということ。出場チームは男子サッカーの16を除けば、それぞれ世界中から12チームだけ(水球女子は10チーム)。世界選手権の半分以下だ。当然、どこと当たっても強豪。試合内容は濃くなる。
この舞台に立っただけでも、素晴らしいこと。前回の東京大会は開催国として出場できたが、予選突破となるとバレーボール男子が16年ぶりだし、ハンドボール男子は88年ソウル大会以来36年ぶり、バスケットボール男子は実に48年ぶりの快挙だ。
対戦チームは、そんな予選を抜けてきた選ばれし強豪ばかり。ほとんどの国がメダルを目指して参加する。どの試合もハイレベルの熱戦になるのは当然。単一の大会に比べて日程的にも密で、試合数も少ない。世界選手権をギューッと凝縮したのが五輪なのだ。
■あらゆる「ジャパン」を応援して、その熱をパリへ
さらに「国を背負う」思いも、世界選手権以上に思う。競技によっても、国によっても差はあるかもしれないが、注目度は高くなるし、応援の声も大きくなる。他の競技から刺激も受けるし、ライバル意識も生まれる。それが、五輪だ。
だからこそ、五輪球技には記憶に残るものが多い。年配の方なら64年東京大会の「東洋の魔女」。女子バレーボール決勝のソ連戦は、テレビ視聴率66.8%で、それ以降破られていない。72年ミュンヘン大会の男子バレーボールは準決勝ブルガリア戦の逆転劇は今でも語り草。バレーボールは圧倒的な人気スポーツになった。
バレーボールだけではない。男子サッカーは68年メキシコシティ大会の銅メダルが伝説だし、96年アトランタ大会ではブラジルを破る「奇跡」を起こした。なでしこジャパンは12年ロンドン大会で前年のW杯の勢いに乗って銀メダルを獲得。08年北京大会ソフトボールの「上野の413球」も感動的だった。
近いところでは、12年ロンドン大会の女子バレーボールや前回東京大会の女子バスケットボール。感動的なメダル獲得は、その競技の魅力を発信する。「見に行きたい」というファンや「やりたい」という子どもたちも増える。それも「五輪」の大きな力だ。
球技は「続く」のも特徴。負けて大会が終わる他の競技と違い、すべての球技はリーグ戦→決勝トーナメントだから、特に序盤は負けても「次」がある。08年北京のソフトボールのように、2敗しても金メダルを獲得することができる(戦略でもあったようだが)。
今大会は球技全7競技で予選を突破するなど、日本にとっては「球技の五輪」。試合時間が長く、何試合もあるから、ボリューム的にも球技の割合が大きくなる。その中で、後世に語り継がれるような「ドラマ」も生まれるはずだ。
「ハンドボール見ちゃったよ。意外とおもしろいな」。サッカー仲間から連絡がきた。「推し」だけでなく、普段はあまり見ない球技を楽しめるのも五輪も魅力。あらゆる「ジャパン」を応援して、その熱をパリに送ろう。それが、「球技大国」日本を牽引する選手たちの力になる。(荻島 弘一 / Hirokazu Ogishima)
荻島 弘一
1960年生まれ。大学卒業後、日刊スポーツ新聞社に入社。スポーツ部記者としてサッカーや水泳、柔道など五輪競技を担当。同部デスク、出版社編集長を経て、06年から編集委員として現場に復帰する。山下・斉藤時代の柔道から五輪新競技のブレイキンまで、昭和、平成、令和と長年に渡って幅広くスポーツの現場を取材した。
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