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3歳の子を持つ岩崎こよみへ「やり切って」 先輩・荒木絵里香から五輪で継がれるママアスリートの情熱――女性アスリートと出産

THE ANSWER / 2024年7月29日 10時34分

3歳の息子を持ち、パリ五輪の舞台に立った岩崎こよみ(左から5人目)【写真:Getty Images】

■「シン・オリンピックのミカタ」#21 女性アスリートの今を考える――伊藤華英×荒木絵里香対談

 スポーツ文化・育成&総合ニュースサイト「THE ANSWER」はパリ五輪期間中、「シン・オリンピックのミカタ」と題した特集を連日展開。これまでの五輪で好評だった「オリンピックのミカタ」をスケールアップさせ、大のスポーツファンも、4年に一度だけスポーツを観る人も、五輪をもっと楽しみ、もっと学べる“見方”をさまざまな角度から伝えていく。「社会の縮図」とも言われるスポーツの魅力や価値が社会に根付き、スポーツの未来がより明るくなることを願って――。

 スポーツ界で近年、急速に変化が起こりつつあるのが、女性アスリートの環境だ。夏季五輪に初めて女子選手が参加したのは今回と同じ1900年パリ大会。1964年の東京大会は出場選手5151人のうち女子は678人で全体の13.2%だったが、「ジェンダー平等の推進」がテーマに掲げられた2021年の東京大会で48.8%とほぼ半数に。こうしてスポーツで女性が活躍するとともに、月経とコンディショニング、結婚・出産とキャリアプランなど、女性アスリート特有の課題が注目され始めた。

 こうした課題を先進的に取り上げてきた「THE ANSWER」はパリ五輪に合わせ、競泳・伊藤華英さんとバレーボール・荒木絵里香さんの対談を企画。五輪出場経験を持つ2人は引退後、伊藤さんは部活生や指導者らに月経にまつわる情報発信や講演を行う教育プログラム「スポーツを止めるな 1252プロジェクト」のリーダー、荒木さんは実際に出産または出産を考えている女性アスリート、関係者らの支援を行う団体「MAN(ママ・アスリート・ネットワーク)」の代表理事を務める。

 そんな彼女たちが、2024年の今、スポーツ界の最前線で感じている女性アスリートの課題とは――。第4回は「女性アスリートと出産」。女性アスリートの台頭とともに、結婚・出産しても現役生活を続ける選手も増え始めている。子育てと競技をどう両立し、どんな苦労があるのか。(取材・構成=THE ANSWER編集部・神原 英彰)

 ◇ ◇ ◇

――第3回では、女性アスリートと出産について荒木さんの体験談を聞かせてもらいました。そもそも荒木さんはどうしてママアスリートとしてのキャリアを築こうと思ったのか。2012年ロンドン五輪後の2014年に結婚・出産し、現役復帰しましたが、それまでの経緯を改めて聞かせてください。

荒木「もともと長く競技生活を続けたかったし、選択肢の一つとして持っていました。(ロンドン五輪直後のタイミングは)今がチャンスと思って、家族と相談しました。その選択も24歳の時に移籍したイタリアでの経験が大きかったです。彼女たちのライフスタイルやアスリートとしての姿を見た時、こういう生き方があるんだと感じた。みんなプロのバレーボール選手であると同時に結婚している選手も、大学に通って勉強している選手、起業している選手もいた。モデルみたいなことをしている選手もいたんです。

 そういう姿を見た時、メリハリをつけて競技生活をしていて、バレーボール選手としてだけではなく、自分自身の人生を豊かに生きていることがすごく刺激的に映りました。日本だと『○○はこうあるべきだ』みたいな考えをバレーボール選手として勝手に作っていたし、なんとなくそういう風潮も(スポーツ界には)ありました。イタリアに渡ったことで、こういう選択肢もあっていいんだって思えたことがすごく大きかったです。バレーボールは団体競技なので、(妊娠・出産も)自分のタイミングで行うことはできない。所属チームとの契約の状況もあるし、(決断までの)期間は決めていました」

――もちろん、苦労も多かった。

荒木「(産後に復帰したら)初心者の方みたいに(レシーブで)腕が真っ青になって(笑)。授乳で(胸が)張って痛かったし、体はボロボロでした」

伊藤「それはすごく大変そう……」

――でも、プレーヤーとしては「出産前の自分に戻ろう」と思わなかったそうですね。

荒木「それは復帰する段階から決めて、新しい自分を作っていくつもりでした。そうすることで、選手としてまた面白さを感じることができた。今までの自分をイメージして追いかけたら、絶対にキツかった。出産による体の変化もあるけど、年齢による影響もアスリートなら誰でもある。ジャンプ力が下がったら技術の面で技の引き出しを増やせばいい。マイナスな部分ばかり気にしたらどうしようもない。違う部分で結果的に(トータルで)プラスを多く作れるように。そこに面白さを見い出すことができました」


伊藤華英さん(右)と対談、荒木絵里香さんが岩崎へのエールを送った【写真:松橋晶子】

■3歳の息子を持つバレー岩崎こよみへ「良い循環を…やり切ってほしい」

――ただ、出産から9か月で始まった2014年10月のリーグ開幕戦から大活躍で、翌年3月には代表復帰の打診を受け、再び日の丸のユニホームに袖を通しました。代表クラスは長期の合宿や遠征が頻繁にあり、物理的に離れ離れになる。娘さんはバレーボールが“ママを奪ってしまうもの”と認識していたとか。

荒木「カレンダーで私に会えない日に『×』をつけたり、家の中に子どもなりに罠を仕掛けて私を行かせないようにしたりで……。母として娘の大事な瞬間や見たかった瞬間、一緒に共有したかったものができなかったのは少し寂しい思いもあります。それが娘に今後どう影響していくかは分からないし、その難しさは今も続いています。それでも、娘に悲しそうな表情を見せないことだけは決めていました。自分が決めたことに後悔は何もありません。

 覚悟を持って決めた分、しっかりとやりきらないといけない。仕事として、自分の大好きなやりたかったことに夢を持ってやり遂げたいとずっと思っていた。なのに何か悲しそうにしていたら、きっと娘も『なんで、そんな想いをして行くの?』と思うじゃないですか。だから、自分は本当にやりたくてやっているし、そこに自分の夢や目標を見い出したから。ちゃんと良い顔で家を出ていかなきゃと思って、そんな風に過ごしました」

――荒木さんは出産または出産を考えている女性アスリート、関係者らの支援を行う団体「MAN(ママ・アスリート・ネットワーク)」の代表理事を務め、アスリートの子育てを含めた環境の課題を誰より感じていると思います。今後、「出産で競技を諦めるアスリート」が減っていくために必要なことはどんなことだと思いますか?

荒木「そもそも、出産しても競技を続けたいと思う環境がないと何も始まらない。でも、競技をやりたいから(一方的に)サポートしてくださいと要求するのも違う。アスリートである以上、結果が伴って必要とされる人材でないと給料をもらって競技を続けるのは厳しいので、難しいところでもあります。受け入れ態勢として今、ナショナルトレーニングセンター(NTC=日本オリンピック委員会が運用するトップレベル競技者用トレーニング施設)内にも託児所や産前産後のサポートプログラムができて、少しずつですが変化が起こり始めています。

 それに追随して各競技団体も動いて、環境がちょっとずつ整っていくと『もしかしたら自分もできるかもしれない』『自分だったら、どういう形でできるかな』と考えるきっかけになる。それにママアスリートとして実際に活躍する人の姿を見て、エネルギーもらって頑張れる部分がある。さっき(第3回で)遠征中に『子どもと一緒にいなくて大丈夫か』と何気なく言われて傷ついたことを話しましたが、そういうスポーツ界の風潮や社会全体の目線が選択しやすくなっていくのではないかと感じます」

――今回のパリ五輪は3歳の息子を持つバレーボールの岩崎こよみ選手が出場します。代表内定会見では「後の世代の子たちがそういう希望を持った時、それが実現できる環境を作っておきたい」と語っていましたが、パリで活躍する姿は世の中の女性の励みにもなると思います。荒木さんは彼女にどんな期待をしていますか?

荒木「私が出産して復帰した時、上尾メディックスで同じチームだったんです。当時をずっと見てくれて、私もそういう道に行きたいと話してくれました。今は彼女を見て『岩崎選手のようになりたい』と考える選手がたくさんいる。そんな良い循環が続いていくといいなと思うし、岩崎選手の頑張りもそうですが、ご両親や旦那さん、所属チームなど彼女を支える人たちの頑張りも私は近くで見ています。そういう支えがあって、彼女は選手を全うしている。心から応援したいし、やり切ってほしいです」

 生理などの健康課題や結婚・出産といったキャリアプラン。こうした女性アスリートの課題はメディア側がどう報じるかという側面も大きい。特に近年はルッキズムが問題視され、報道の在り方が問われている。第5回では実際のアスリートとの立場として、2人がメディアへの想いを語った。(THE ANSWER編集部・神原 英彰 / Hideaki Kanbara)

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