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我が子と一緒にいられぬモヤモヤ 娘を置いて合宿1か月…「あなた子どもは?」悪気ない一言に葛藤――女性アスリートと出産

THE ANSWER / 2024年7月29日 10時33分

現役時代、荒木絵里香さんはママアスリートとして活躍した【写真:本人提供】

■「シン・オリンピックのミカタ」#20 女性アスリートの今を考える――伊藤華英×荒木絵里香対談

 スポーツ文化・育成&総合ニュースサイト「THE ANSWER」はパリ五輪期間中、「シン・オリンピックのミカタ」と題した特集を連日展開。これまでの五輪で好評だった「オリンピックのミカタ」をスケールアップさせ、大のスポーツファンも、4年に一度だけスポーツを観る人も、五輪をもっと楽しみ、もっと学べる“見方”をさまざまな角度から伝えていく。「社会の縮図」とも言われるスポーツの魅力や価値が社会に根付き、スポーツの未来がより明るくなることを願って――。

 スポーツ界で近年、急速に変化が起こりつつあるのが、女性アスリートの環境だ。夏季五輪に初めて女子選手が参加したのは今回と同じ1900年パリ大会。1964年の東京大会は出場選手5151人のうち女子は678人で全体の13.2%だったが、「ジェンダー平等の推進」がテーマに掲げられた2021年の東京大会で48.8%とほぼ半数に。こうしてスポーツで女性が活躍するとともに、月経とコンディショニング、結婚・出産とキャリアプランなど、女性アスリート特有の課題が注目され始めた。

 こうした課題を先進的に取り上げてきた「THE ANSWER」はパリ五輪に合わせ、競泳・伊藤華英さんとバレーボール・荒木絵里香さんの対談を企画。五輪出場経験を持つ2人は引退後、伊藤さんは部活生や指導者らに月経にまつわる情報発信や講演を行う教育プログラム「スポーツを止めるな 1252プロジェクト」のリーダー、荒木さんは実際に出産または出産を考えている女性アスリート、関係者らの支援を行う団体「MAN(ママ・アスリート・ネットワーク)」の代表理事を務める。

 そんな彼女たちが、2024年の今、スポーツ界の最前線で感じている女性アスリートの課題とは――。第3回は「女性アスリートと出産」。女性アスリートの台頭とともに、結婚・出産しても現役生活を続ける選手も増え始めている。子育てと競技をどう両立し、どんな苦労があるのか。(取材・構成=THE ANSWER編集部・神原 英彰)

 ◇ ◇ ◇

「ママアスリート」――。

 最近はそんな言葉を耳にする機会が増え、女性アスリートの環境を巡る一つのトピックになっている。荒木さんも当事者の一人。現役時代、2014年1月に29歳で出産し、半年後に競技復帰すると、36歳だった2021年東京五輪に主将として4度目のオリンピック出場を果たした。

 ただ、アスリートだからといって、育児と仕事の両立という課題が避けられるわけではない。社会で働く女性と同様に「子どもが熱を出したらどうしよう」「保育所がなかなか見つからない」「子どもの大切な瞬間を一緒に過ごせない」といった悩みや課題を抱え、過ごしている。

 引退後に出産し、育児と仕事を両立している伊藤さんとともに、今回はこの問題について考える。

――近年、ママアスリートという存在がクローズアップされやすくなりました。荒木さんはまさにその代表です。今回のパリ五輪にもそうしたアスリートが見られますが、そうした風潮をどう感じていますか?

荒木「ママになっても競技を続け、オリンピック選手になることが取り上げられるというのは変化を感じます。男性がパパとして戦うことは取り上げられにくいですが」

伊藤「『パパアスリート』もたくさんいますもんね」

荒木「でも、パリ五輪も選手村に託児所ができると聞くし、進化しています。今までは『ママでオリンピック選手!』というサプライズな風潮だったけど、『こういう選手も増えてきたね』という受け止めに変わりつつあり、階段を上っている途中。それはネガティブなことじゃありません。少しずつ、ママになっても競技を続けることが当たり前の選択肢の一つになっていくといいなと感じます。バレーボールでも今大会、出産して競技を続けている岩崎こよみ選手がいます。

 そういう選手を見ることで、次世代の選手が『自分もできるんだ』『こんな道があるんだ』と思ってくれたらうれしい。結局は(対談第1、2回の)生理から繋がっていると思っていて。出産するために生理は必要なものだし、自分の体を大事にして、健康な体を保つためのバロメーターの一つが生理。そういう意味で、一つ一つの女性アスリートの課題がどこかで全て繋がっているんだということを、今の選手たちにも意識として持ってもらいたいという気持ちが大きいです」


伊藤華英さん(右)と対談、荒木絵里香さんは現役時代に悪気ない言葉に傷ついたこともあったという【写真:松橋晶子】

■身も心も追い込まれ…何気ない言葉に傷ついたことも

――荒木さんは育児と競技を両立し、後輩たちから相談されることもあったと聞きます。実際にはどんな内容が多いですか? 肉体的負担はもちろん、保育園の少なさや、遠征で家を空ける時などの環境的負担も、社会で働くママワーカーと同じです。

荒木「大前提として、競技性によりますね。個人競技は練習ができなくても、見てくれるコーチには影響しますが、ほぼ自分の問題。でも、団体競技だと練習に穴をあけるわけにいかず、休めない。それぞれの課題はあります。いずれにせよ、サポートがないと練習にも遠征にも行けない。長期遠征の時にどうするかの問題もあります」

伊藤「私は引退後に出産し、仕事も続けていましたが、自分のモヤモヤとした気持ちがすごく大きくないですか? 誰かが見てくれていると楽なんだけど、そうじゃなくて、子どもといないというだけで、自分がそこに介入していないというだけで、謎の負の気持ちが生まれてしまう。子どものために何かやらなきゃという気持ちがお母さんは常に持っている。合宿になると、1~2か月会えないと聞くし、荒木さんはそれをどうやって乗り越えたんだろうと思っていました」

荒木「確かに。母性が働いてしまいますよね。でも、それも人それぞれですね。一緒にいたい人もいれば、やると決めたら会わない方がいい人もいる。私は後者でした。それぞれの形があるから一概には言えないけどけど、ふと考え込んでしまうことはありますね」

伊藤「そういう時に周りから言われたりすると、何気ない言葉でも、余計に気持ちが落ちてしまいますよね」

荒木「ホントにそう。母親が一緒にいてあげないといけないと自分自身も思う気持ちももちろんあります。例えば、合宿で1か月くらい同じ合宿所でいて、食堂のおばちゃんに毎日ご飯をもらっているけど、『あなた毎日来てるけど、子どもどうしてるの?』って。練習で追い込まれ、体も心も落ちている時にそう言われると、急に泣けてきて。悪気はないと分かっていても、その一言がすごくキツかった。年代は私の母より少し上で、自分で頑張って子育てをやられてきた世代はそう思うのかな……仕方ないと思いますが」

伊藤「そう言われると、ズシッと来ますね。まして体がきつい時に。著しいスピード感で社会の変化が起こる中で、荒木さんのように先駆者的にやられてる人はいっぱい苦い思いもされていると思う。でも、子育ても社会にサポートされて成り立つから難しい。ただ、パパアスリートが子育てを心配されない風潮は何なんだろう?」

荒木「『お子さんにコメントお願いします』とよく言われましたけど、それを男性アスリートに言いますか、と。何を言わされているんだろうと思う時はありました。でも、社会全体がそういう段階だから必要だと分かるし、求められて発信することで変わっていけばと思っていたので、ありがたい部分もありました。私自身は(両立は)やったら楽しかったし、私はいろいろな面で恵まれていました。サポートしてくれる母親や所属チーム……。金銭的な補助ももちろんないとできないので、恵まれて競技が続けられました」

伊藤「すごいお金がかかりますよね、保育園に入れるにしても、ベビーシッターさんをお願いするにしても」

荒木「私は母親にフルタイムで働いていた仕事を辞めてもらい、サポートしてもらったから。それでもお金はかかるのは変わらないですね」

伊藤「生理よりも現実的な問題ですね。実際に子どもという1人の存在がいるわけだから。生理はいろんな女性の環境を考えていく時の入口にある。なぜ女性には生理があるのか、なぜ一生あるのか。初経から閉経まであって、閉経後はどうなるのか。女性を対象にしたヘルスケアや健康課題って今まで言われてこなかった感じがしますね」

荒木「現役中って、生理が妊娠に繋がるとか、そこまで考えていない。だから、無月経や月経不順は問題みたいなことを言われても疎かにしてしまう選手も多い」

伊藤「考えたくなかったからね。競技のパフォーマンスにコミットしている分、そこに視点がない。『とにかく頑張ろう』と競技に集中することが良しとされるから」

 出産をめぐる女性アスリートの実情を語った2人。実際にママアスリートとして活躍した荒木さんはキャリアを考える上で24歳で移籍したイタリアでの経験が大きかったという。第4回では現地で刺激を受けたエピソードを明かし、パリ五輪に出場する岩崎こよみへのエールを送った。(THE ANSWER編集部・神原 英彰 / Hideaki Kanbara)

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