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「美人すぎる○○」に賛否 10代からアイドル化、盗撮問題も…「可愛い」報道は世界共通の課題――女性アスリートと報道 

THE ANSWER / 2024年7月30日 10時43分

パリ五輪に出場する陸上のアリカ・シュミットは容姿がスポンサー獲得の一助になっているという【写真:Getty Images】

■「シン・オリンピックのミカタ」#25 女性アスリートの今を考える――伊藤華英×荒木絵里香対談

 スポーツ文化・育成&総合ニュースサイト「THE ANSWER」はパリ五輪期間中、「シン・オリンピックのミカタ」と題した特集を連日展開。これまでの五輪で好評だった「オリンピックのミカタ」をスケールアップさせ、大のスポーツファンも、4年に一度だけスポーツを観る人も、五輪をもっと楽しみ、もっと学べる“見方”をさまざまな角度から伝えていく。「社会の縮図」とも言われるスポーツの魅力や価値が社会に根付き、スポーツの未来がより明るくなることを願って――。

 スポーツ界で近年、急速に変化が起こりつつあるのが、女性アスリートの環境だ。夏季五輪に初めて女子選手が参加したのは今回と同じ1900年パリ大会。1964年の東京大会は出場選手5151人のうち女子は678人で全体の13.2%だったが、「ジェンダー平等の推進」がテーマに掲げられた2021年の東京大会で48.8%とほぼ半数に。こうしてスポーツで女性が活躍するとともに、月経とコンディショニング、結婚・出産とキャリアプランなど、女性アスリート特有の課題が注目され始めた。

 こうした課題を先進的に取り上げてきた「THE ANSWER」はパリ五輪に合わせ、競泳・伊藤華英さんとバレーボール・荒木絵里香さんの対談を企画。五輪出場経験を持つ2人は引退後、伊藤さんは部活生や指導者らに月経にまつわる情報発信や講演を行う教育プログラム「スポーツを止めるな 1252プロジェクト」のリーダー、荒木さんは実際に出産または出産を考えている女性アスリート、関係者らの支援を行う団体「MAN(ママ・アスリート・ネットワーク)」の代表理事を務める。

 そんな彼女たちが、2024年の今、スポーツ界の最前線で感じている女性アスリートの課題とは――。第5回は「女性アスリートと報道」。ルッキズム(外見至上主義)が拍車をかける「美人すぎる」との形容詞がつく報道や、観客を含めた性的意図を持った撮影に警鐘を鳴らした。(取材・構成=THE ANSWER編集部・神原 英彰)

 ◇ ◇ ◇

――ここまで女性アスリートの結婚・出産について話してきましたが、その中に「パパアスリート」は使わないけど「ママアスリート」は使うなど、私たちメディアの在り方も課題があると感じています。「美人すぎるアスリート」という表現もまだ使われることもありますが、元アスリートの立場でどう受け止めていますか?

伊藤「2018年の平昌オリンピックではIOC(国際オリンピック員会)から女性アスリートに『美しい』という表現を減らしましょうという指針が出されました。また、報道内容もプライベートの話題が男性より女性の方が多く、逆にパフォーマンスに関連する話題は女性より男性に多いという統計が示されました。これは日本のみならず、国際的な認識です。女性アスリートはどうしても『綺麗』『可愛い』に報道の姿勢が流れやすい。男女問わず、アスリートとしてのリスペクトを持った報道が望ましいですね」

――近年はルッキズムという問題がスポーツメディアでも取り沙汰されています。男性目線で報じられることが多いメディアの課題でもあります。

伊藤「経済も回しているのは現時点では、まだまだ男性が多い。日本のスポーツ団体の役員クラスでは女性が全体の1%と言われ、意思決定する立場の女性が少ないです。日本のジェンダーギャップ指数は世界146か国で118位。そうした背景があり、ジェンダーバランスが叫ばれる日本スポーツ界は各競技団体の理事の4割に女性を入れることを求めています。ただ、仮に4割いなくても、男性のことも、女性のことも対等に考えてくれる人がいてくれたらいい。女性も経済的に進出していく必要もあります。そうするためには出産・子育てなど、いろんなことを解決しないと難しいですね」

荒木「そこは難しいですよね、本当に」

伊藤「現在、女性の人数を求められるものが多いですが、仕事としての責任もあるし、難しいですね」


荒木絵里香さんは「メグカナ」の苦労を間近で見続けてきた【写真:松橋晶子】

■荒木さんが見た「メグカナ」の葛藤「しなくていい苦労をしていた」

――荒木さんは女子バレー人気全盛時代を歩みました。特に、同い年だった栗原恵選手と大山加奈選手は「プリンセス・メグ」「パワフル・カナ」という愛称がメディアにつけられ、過剰な報道を肌で感じていたと思います。

荒木「『メグカナ』はアイドル化された存在で、仲間として近くで見ていた身としてはキツそうだなと感じていました。今なら『大人の事情もあるよね』『競技普及には必要かな』と理解しようとするけど、最初注目されたのが10代。試合に出ていない時もずっとカメラを向けられたりして、当時は2人ともかなり苦しかったと思います」

伊藤「若い子にはキツいですね。そもそも競技を見てくれない」

荒木「彼女たちも10代ということもあり、いろんなことに追いついてなかったから、本当にしなくていい苦労をしていたと思います。でも、今はバレーボールは『プリンセス・メグ』のようなキャッチコピーはつけない。報道の仕方も変わっていますね」

伊藤「今は小学校も呼び方が『くん』『ちゃん』じゃなくて『さん』にする傾向もあるくらいですしね」

荒木「ただ、当時は盗撮も今みたいに会場での規制もない時代でした。女性としていやらしい写真を撮られたり、それが週刊誌に載ったりするようなことも……。そういう意味ではすごく苦しそうで。自分はアスリートだから、競技に集中したいという想いがあるのに、そういった声や見られ方がたくさんあって酷だなと思っていました」

伊藤「私もありました。競技とは関係ない、プールから上がろうとしているところを写真に撮られて、それがそのまま週刊誌に載ってしまったりして」

――一方でSNSの普及もあり、「可愛い」「美人」と言われることを利用してスポンサー獲得につなげるなど、容姿を武器にしている選手もいます。実際、パリ五輪に出場する陸上のアリカ・シュミット選手(ドイツ)はモデルとしても活躍し、インスタグラムのフォロワーは500万人超。ドイツでは陸上選手の環境が恵まれているとは言えず、その知名度を生かして獲得したスポンサーが競技を助けていると話しています。

伊藤「美人と言われることが好きな人もいるし、嫌な人もいる。そこだけを見れば、どちらでもいいと思います。一方で、容姿にこだわる風潮がどこから作り上げられたのかを考えると、ふくよか、痩せているということでしか判断ができなかった社会の歴史がある。そう見る人は個人の自由だし、生き方もそれぞれ。だけど、『美人』がアスリートに必要なのかは疑問に思う部分がある。

 アスリートとして本当に大事なことは努力し、パフォーマンスにコミットして、自分の実力を上げていくこと。これも偏りがある考えかもしませんが、アスリートは何かを超越していくこと、そこに生き様が出ることに一番の魅力と価値がある。もちろん私も可愛いと思う女性アスリートがいるし、かっこいいと思う男性アスリートもいる。でも、『綺麗』『かっこいい』だけにならない魅力をアスリートの皆さんは持っている。どんな人がいてもいいけど、そこは忘れないでいてほしいなと思います」

荒木「きっかけにはなりますね。『あ、この人可愛い、競技を見てみよう』って。スポーツに関心がない人も世の中にたくさんいるので。『可愛い』がスポーツの魅力を伝える入口のひとつになることもあると思います」

伊藤「ファンになるのはいいですよね。男子のバレーは今、かっこいい選手が多いし、女性ファンが物凄く多い」

荒木「それが競技の普及になり、お金を落としてもらえると競技自体が盛り上がるし、人気に繋がるといいなと思います」

伊藤「ただ、選手本人が苦しまないでほしいですね。その人の人生だから。だから、そればっかりにならないようにとIOCもガイドラインを設けている。バランスが大事ですね」


伊藤華英さんは「0・100」の風潮に疑問を持っている【写真:松橋晶子】

■盗撮を含めた性的意図を持った撮影に広がる規制

――先ほどスポーツ現場における盗撮の問題が挙がりましたが、性的な意図を持った撮影は近年急速に変わっていますね。競技会場でファンの撮影を規制したり、あるいはスポーツメーカー側も下着が透けないようなユニホームを開発したり。

荒木「私の時代はバレーボールもここまでタイトなユニホームの作りにする必要はあるのかと思っていましたね。撮影に関していえば、素敵な写真を撮ってくださるファンの方もたくさんいるので、今は何を撮っているか係員が声をかけてチェックするなど、管理は厳しくなりましたね。選手に対しても『(撮影の対象になりやすい)ストレッチはフロアでしないでください』『ストレッチする時は(下半身に)タオルをかけましょう』と対策が呼びかけられています」

伊藤「でも、そんなことを意識してストレッチしたくないですよね。みんなカメラを持っている時代じゃなかったところから、今は1人1個のデバイスを持ってSNSでなんでも流せる時代になった。そこが問題をより難しくしていますね」

荒木「バレーボールはパンツが短いのは股下も何センチ以内という規定があるから。ビーチバレーは露出の多いビキニスタイルじゃなくてもいいけど、見せたい、動きやすいという理由で自ら選んでいる選手が多い。『自分の良いところを見せて応援してもらいたい』と。さっきの『綺麗』の話と同じ、いろんな価値観や事情があります」

伊藤「日本は社会全体の風潮として、何かが“いけない”という論調になったら、ゼロにしてしまう人が多い。『こんな風にしたら、できる可能性ありますよ』と言っても『そういうリスクを負うことはやめましょう』となる。『0・100(0か100かの極端な考え方)』な風潮はありますね。フロアでストレッチをやったら駄目というのも選手からしたら厳しい。床を触りながら雰囲気を感じながら集中する必要がある選手もいるので、考えていかなければいけないですよね」

 日本の「0・100」の論調が挙がった対談。こうした「良いか、悪いか」の二元論は日本の部活にも見受けられる。その一つが部活の恋愛禁止というルール。海外では見られることのない慣例について、第6回で議論の的になった。(THE ANSWER編集部・神原 英彰 / Hideaki Kanbara)

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