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部活の恋愛禁止ルールのなぜ 日本「ダメだ、無駄だ」海外「もっと恋をしろ」異なる価値観の理由――女性アスリートと恋愛

THE ANSWER / 2024年7月30日 10時44分

対談を行った荒木絵里香さん(左)と伊藤華英さん【写真:松橋晶子】

■「シン・オリンピックのミカタ」#26 女性アスリートの今を考える――伊藤華英×荒木絵里香対談

 スポーツ文化・育成&総合ニュースサイト「THE ANSWER」はパリ五輪期間中、「シン・オリンピックのミカタ」と題した特集を連日展開。これまでの五輪で好評だった「オリンピックのミカタ」をスケールアップさせ、大のスポーツファンも、4年に一度だけスポーツを観る人も、五輪をもっと楽しみ、もっと学べる“見方”をさまざまな角度から伝えていく。「社会の縮図」とも言われるスポーツの魅力や価値が社会に根付き、スポーツの未来がより明るくなることを願って――。

 スポーツ界で近年、急速に変化が起こりつつあるのが、女性アスリートの環境だ。夏季五輪に初めて女子選手が参加したのは今回と同じ1900年パリ大会。1964年の東京大会は出場選手5151人のうち女子は678人で全体の13.2%だったが、「ジェンダー平等の推進」がテーマに掲げられた2021年の東京大会で48.8%とほぼ半数に。こうしてスポーツで女性が活躍するとともに、月経とコンディショニング、結婚・出産とキャリアプランなど、女性アスリート特有の課題が注目され始めた。

 こうした課題を先進的に取り上げてきた「THE ANSWER」はパリ五輪に合わせ、競泳・伊藤華英さんとバレーボール・荒木絵里香さんの対談を企画。五輪出場経験を持つ2人は引退後、伊藤さんは部活生や指導者らに月経にまつわる情報発信や講演を行う教育プログラム「スポーツを止めるな 1252プロジェクト」のリーダー、荒木さんは実際に出産または出産を考えている女性アスリート、関係者らの支援を行う団体「MAN(ママ・アスリート・ネットワーク)」の代表理事を務める。

 そんな彼女たちが、2024年の今、スポーツ界の最前線で感じている女性アスリートの課題とは――。第6回は「女性アスリートと恋愛」。近年、部活の在り方が問われ、理不尽な規則が見直されつつある。そんな中、未だ少なくない「恋愛禁止」というルールから見えるものとは。(取材・構成=THE ANSWER編集部・神原 英彰)

 ◇ ◇ ◇

 女性アスリートの生理や結婚・出産、彼女らを取り巻く報道などについて展開された対談は、最後に今の教育の領域に話が及んだ。

 日本は部活がスポーツの基盤となっている競技が多く、その中で体罰の禁止、脱・スポーツ根性論といったムーブメントが起こりつつある。しかし、競技や学校によって旧態依然とした規則が残っている場面も多い。最近、議論に挙げられるものの一つに「恋愛禁止」というものがある。

 競技の普及や次世代の教育に取り組んでいる2人の立場から語り合った。

――この話題はぜひ伊藤さんにお聞きしたいと思っていました。高校時代から日本代表に入り、海外のコーチから印象に残る言葉をもらったそうですね。

伊藤「中学生の時に周りに彼氏ができ始めましたが、高校生になると、コーチに『恋愛はするな、無駄だ』『男に費やしている時間はない』と言われ、私も『嫌だな。彼氏、いちゃいけないんだ』と思っていました。でも、そう言われることで逆に競技に打ち込めない時期があった。彼に対して『付き合っちゃダメだって言われた。だから、別れよう』という話には、やっぱりならない。先生も私の将来を考えて管理したかったと思う。すごく大変だったけど、意外だったのが海外のコーチでした。

 フランス人やスペイン人のコーチから『どんどん恋愛しろ』と。『恋愛の何がダメなの? やる気、出ないじゃないか』『彼氏がいなかったら、いい結果を出して誰が褒めてくれる? 褒めてくれる人がいるから、頑張れるんだろ』という感覚。日本では『ダメだ、するな』だったので、すごく新鮮だったし、救われました。日本のコーチは生理と一緒で、恋愛も踏み込んじゃいけない。競技という側面でしか付き合ってない。だから、選手も『言いたくない』と思ってしまう選手が多いのかな」

――荒木さんはバレーボール強豪校の下北沢成徳高校出身でしたが、いかがでしたか?

荒木「バレーボール部の場合は学校によりますね。下北沢成徳はそういうルールは全然なかった。彼氏がいる子はいるし、いることを隠すこともあまりなかったと思います。でも、当時は学校によっては携帯禁止や、他のチームの人と話したらいけないというルールを設けていた学校もあるから、チームによりますね」


伊藤華英さんが次世代に求めたい「人生のオーナーシップ」とは【写真:松橋晶子】

■次世代に求めたい「自分の人生にオーナーシップを」

――管理する側としては自分がコントロールできない領域で、選手をダメにしたくないという心理が働くかもしれません。荒木さんもバレーボール教室などで中高生と接することもあると思いますが、どんなふうに感じていますか?

荒木「さっき(第5回で)『ゼロ・ヒャク(0か100かの極端な考え方)』の話が挙がりましたが、部活や教育も同じで、良いかダメかの線引きをせず、最初から『これはダメ』と落とし込むと、考える力、学ぶ力、選ぶ力がついてこない。そういう意味で、長い目で選手の人生を見た時に、失敗しながらかもしれないけど、ある程度、自分で考えて決める力をつけさせることは大事だと思います。ただ、個人的な印象ですが、最近はあまり付き合うという恋愛に対して積極的な子は減っているかもしれません」

伊藤「大学で教員をやっていた時、女の子の学生に『なんで彼氏がいた方がいいですか?』と聞かれたことがあって、本人は『めんどくさくないですか?』と。何を言ったら傷つくとか嬉しいとか、いろんな勉強ができると伝えたんですが。もちろん、恋愛に積極的な子もいますが、人間関係を築くのに抵抗がある人も少なくないのかも」

――文化の違いかもしれないですが、海外のアスリートは交際段階からSNSでカップルであることを積極的にアピールする人が多いですよね。

伊藤「だから、別れた時はすぐ分かったりしますね(笑)。海外はカップルをオープンにしてスポンサーを取ってくるような勢い。日本人はそういうことしないですね。芸能人もそう。結婚して初めてオープンになる風潮。事実婚や別姓も認められてないし、そういう背景もあるかもしれないですね」

荒木「私が15~16年前にイタリアでプレーした時は、みんなパートナーが彼氏の段階でも試合が終わったら、真っ先に観に来ている彼氏のところに行って、お客さんがいても平気でチュッチュするんです、それが衝撃で……(笑)」

伊藤「それは海外ならでは(笑)。バスケットボールの富永啓生選手が婚約を発表したのは、凄いなと思いました。婚約の価値感が違うかもしれないけど、日本は婚約レベルは表に出さない。でも、あんな風に日本人がどんどんグローバルになって発信してほしい。嫌味がなく、凄く素敵だったし」

荒木「『それもありだよね』と、みんなが思えばいいんですよね。それもいいよね、これもいいよねって。互いに尊重して、いろんな形が見られるといいなと思います」

――かつて伊藤さんが「褒めてくれる人がいるから頑張れる」と言われたように、競技以外で心を許した人がいる、誰よりも応援してくれる人がいる点は競技のプラスになるかもしれません。荒木さんは現役中に結婚・出産しましたが、パートナーの存在は競技に影響しましたか?

荒木「私は、競技は競技、プライベートはプライベートで、2つを結びつけていなかったですね。付き合い始めた時も競技生活が最優先事項だったし、その後に出産して、いろんな優先事項のせめぎ合いに難しさを感じたけど、私はパートナーができたからパフォーマンス上がる下がるというタイプじゃなかった。ただ、人によっては変わる場合もある。(恋愛で)しんどいことがあったのかな、とか。それも人間らしくていいと思うんですけど、チームを管理する側は『NO』と言いたくなるのかな。自分は別物として考えたし、学ぶこと、エネルギーになることももちろんあった。それが競技にいろんな学びがあるから、スポーツだけやっているとリスクも感じますね」

伊藤「海外だとカップルでパーティーに参加しなきゃいけないというイベントがありますしね。日本にはカップル文化がない。どちらかというと、チームなら友達がいればいいし、楽しければいいという風潮。逆に、そういう場には行っちゃいけないし、やっちゃいけない。競技に影響が出たらいけないから。今の子どもたちは正直に生きないといけない考えが強い。ダメと言われたらダメなのだと、ピュアな生徒、選手も多いと感じます。もちろん、そういう生き方は素晴らしいこと。

 ただ、100%正直でなくてもいいと思います。今の大人世代は隠れてやっていることも普通でした(笑)。その代わり、言いたいのは『自分のことには自分で責任を持ちなさい』ということ。今は子どもが大人化している時代。選挙権は18歳まで引き下げられ、SNSで自分の意見を発信することもできる。自分の人生にオーナーシップを持ってほしい。自分の人生だから人が決めるものでも、決められるものでもない。ただ、人のせいにもできないということを自覚してほしいです」


荒木絵里香さんにとってパリ五輪は客観的に見る五輪は20年ぶりという【写真:松橋晶子】

■伊藤さんと荒木さんが今回のパリ五輪に願うこと

――オリンピックを通して「女性アスリートの今」を語ってもらいました。最後にオリンピアンである立場から今回のパリ五輪に期待することを教えてください。

荒木「私、オリンピックを客観的に見るのが20年ぶりなんです。2004年のアテネは最終選考でメンバー落ちをして、2008年の北京以降は出場し、何かしらで関わっていました。自分が五輪を見て、いろんな競技を応援できるのが純粋に楽しみだし、一緒にプレーした選手も多いので特別な気持ちになる。今はこうやって伝える側の立場。いろんな人が自分の頑張りや、それまでの過程を見てもらえるチャンス。スポーツそのものやバレーボールの魅力を伝えられる良い機会なので、社会全体にポジティブな影響を受け取ってもらえるように頑張りたいですね」

伊藤「今回のパリは新たな五輪になると思います。お金がかかる大会から、ミニマムな既存の施設を使ってサステナブルな大会の始まりになる。選手村に託児所ができたり、SDGsに関わる活動のコミュニティを作ったり、いろんな活動をしています。フランスという国自体、夫婦別姓を採用したり、子育ての手当が厚かったり、先進的に取り組んできた。競技ももちろん楽しみですが、これからのモデルになる大会として、ジェンダー平等の推進など、いったい何を作ってくれるのか、凄く楽しみです」

(終わり)(THE ANSWER編集部・神原 英彰 / Hideaki Kanbara)

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