未だ「気合、根性」の指導現場に一石 山本由伸も輩出した古豪OB、動作解析アプリに込めた夢の一歩 子供は「つまらないと上手くならない」
THE ANSWER / 2024年8月1日 15時4分
■「NineEdge」代表取締役兼CEOの渡辺一矢氏に聞く
スポーツ界のデータ領域に、一石を投じている元高校球児がいる。ITを活用した支援を手掛ける「NineEdge(ナインエッジ)」代表取締役兼CEOを務める渡辺一矢氏だ。選手の投球、打撃フォームなどをスマートフォンで撮影し、人工知能(AI)を活用して動画解析するサービスを展開。多くの元プロ野球選手も携わり、アマチュア球界にもテクノロジーとデータ活用を根付かせようと試みている。
同社が4月にリリースしたアプリ「ForceSense(フォースセンス)」は、打者のスイング、投手の投球のフォームを解析。球速、スイングスピードなどを可視化し、軸線や残像を表示することで課題解決に繋げられる。さらに元プロ野球選手のフォームとも比較可能で、理想追求の一助となっている。
今後さらにサービスは改良される予定。ユーザーからの要望が強かった、自動的に何球でも解析してくれる「自動撮影オートモード」も導入。1球ごとに撮影する手間が省かれ、連続して分析することができるようになった。さらに今後はAIによるアドバイス、トレーニング提案の機能も実装を目指す。
「年代の骨格、筋肉量などによって全く変わってくるので、ユーザーさんの条件に一番合うであろうものをAIがアドバイスしてくれる。アプリを使えば使うほど、チューニングできるのがAIのいいところ。最終的には頼りたいときにすぐ相談ができて、改善したいポイントに合わせた提案ができるサービスを実現したい」
数多くの元プロ野球選手が関わっているのも大きな特徴の一つ。アプリでの結果をもとに、元西武・巨人の片岡保幸氏や元DeNAの寺田光輝氏らが動画で自ら技術的なアドバイス、トレーニングの助言を送ってくれるサービスもある。
小中学生に留まらず、高校、大学でプレーする選手まで幅広い利用者がいる。「小中学生でもデータ活用は大事だと啓蒙活動していきたい」と渡辺氏。映像を見て、自分で何かを気付く部分に関しては若い年代の方が優れていると実感している。
4月にリリースした「ForceSense」は球速、スイングスピードなどを可視化。軸線や残像を表示することで課題解決に繋げられる【写真:本人提供】
「小学生は自分で何か気づきを持つ部分が天才的。保護者、指導者の方にもデータ活用の重要性に気づいていただきたいですし、チームに可視化の手段がない高校生、大学生にも是非使っていただきたい」
元西武・巨人の片岡保幸氏(右)ら多くのプロ野球選手が携わるのも特徴だ【写真:本人提供】
■山本由伸を輩出した都城高での日々「理想の選手生活ではなかった」
スポーツのデータ領域に携わるきっかけは、高校時代にまでさかのぼる。ドジャース・山本由伸らを輩出し、夏8回、春1回の甲子園出場を誇る宮崎・都城高校の出身だが、振り返ると苦しい日々だった。
まだ「気合、根性」に重きが置かれていた1999年に入学。質より量の練習が祟り、肘を故障して満足にプレーできなかった。「2番・遊撃」だった最後の夏は2回戦敗退。涙も出ず、呆然とする中で試合終了のサイレンを聞いた。
「理想の選手生活ではなかったですね。だからこそ当時からテクノロジーに関心があって、どうやったら怪我が治るか、効率よく練習できるかばかり考えていました」
スマートフォンやYouTubeなんてない時代。できることと言えば本を読み漁り、テレビで流れるプロ野球選手の映像をお手本にするくらい。第一経済大(現・日本経済大)でも準硬式野球部でプレーしたが、とにかく闇雲だった。
卒業後は海外で働くチャンスに惹かれて岡三証券に入社。ただ、2年満たずで証券マンは辞めた。ベトナムで起業のチャンスを掴み、その後も中国、インドネシアなどで事業を展開。AI領域にも進出し、効率化されていく世界に触れてきた。
対照的に、高校球界や少年サッカーなどの現場でデータは全く活用されておらず、衝撃を受けることもしばしば。「今でも気合、根性。特に田舎ですけど、凄くもったいないなと思った」。ちょうど次の事業展開に頭を悩ませていた2020年。母校の実情なども目の当たりにし、「データを可視化、計測できて、分析しながら練習に活かせるものを作りたい」との考えからNineEdgeの設立に至った。
大谷、山本のようなアスリートの養成機関を地元・宮崎に作ることが夢だ【写真:本人提供】
■小学生のデータ活用も重要「効率的なら楽しく継続してくれる」
小学生にデータ活用はまだ早いという声もあるが、渡辺氏は「小さい頃からデータに触れる事は重要」と確信している。
「非効率な練習だと、上達のスピードは遅くなりますよね。逆に効率的であれば上手くなりますし、子供も楽しく継続してくれると思うんです。やっぱり、つまんないっていうのは上手くならない。
個人的には大谷翔平さんとか、メジャーの超一流で活躍する選手の輩出に繋がることをやりたい。そういう環境を整えていきたいと考えています」
将来思い描いている最大のゴールは「日本版IMGアカデミー」の設立。大谷、山本のような世界で活躍できるアスリートの養成機関を地元・宮崎に作ることだ。「日本人だけではなくて、ベトナムや中国などアジアでこれから一流のアスリートを目指した人が来る学校を作りたい」。野球に限定せず、スポーツ全般で考えている。
リリースした「ForceSense」もその第一歩。「世界中の選手に活用してもらえるような日本勢のプロダクトとして、海外にどんどん発信をしていきたい。いつか山本(由伸)くんと一緒にできれば」。米国で奮闘する後輩の姿にも刺激を受けながら、夢に向かっている。
■渡辺一矢(わたなべ・かずや)
1984年3月18日生まれ、宮崎出身の40歳。小学生から甲子園、プロ野球選手を目指し、地元の都城高校に入学。1年夏の甲子園はスタンドで応援。右ひじの故障で満足に練習できず、遊撃手として登録された3年夏は2回戦敗退だった。第一経済大に進学し、準硬式野球部で活動。卒業後は岡三証券に入社した。退職後に株式会社JPFを設立し、海外で事業展開。2015年10月にLeapMind株式会社の取締役COO就任。退任後、20年11月には株式会社NineEdgeを設立し、動画解析アプリ「ForceSense」で選手の支援を行っている。(THE ANSWER編集部・宮内 宏哉 / Hiroya Miyauchi)
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