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スポーツでよく聞くフィジカルトレーナーはどんな仕事? 第一線で活躍する2人が知る魅力とやりがい

THE ANSWER / 2024年8月2日 10時43分

マラソン神野大地を指導する中野ジェームズ修一さん【写真:中戸川知世】

■トップアスリートに関わるフィジカルトレーナー対談 前編

 アスリートやスポーツ愛好家、そしてボディメイクや健康維持の目標を持つ人たちまでをサポートするスポーツトレーナー。近年は一般の人々の健康志向の高まりにより、活躍の場も拡大。将来、トレーナーを目指す学生も増えている。「THE ANSWER」では様々な現場で活躍するトレーナーたちをフィーチャー。今回はトップアスリートに関わる二人のフィジカルトレーナーの対談を前後編で届ける。前編の今回は、フィジカルトレーナーとはどんな仕事なのかを、これまでの経験から現状、そして2024年のパリオリンピック・パラリンピックへの期待などを語ってもらった。(前後編の前編、聞き手=長島 恭子)

 ◇ ◇ ◇

――今回、スポーツの現場でのトレーナーの仕事について伺います。まずは、お二人のトレーナー歴と、どのようにしてトレーナーの仕事を始められたかを教えてください。

中野「私は初めて運動指導を行ったのは学生時代、18歳のときです。そこから数えると、キャリアは30年以上になります。最初はフィットネスクラブで働き、その後、アメリカのトレーナーの資格を取得。帰国後、パーソナルトレーナーを始めました。アスリートを見るようになったのはアメリカ時代からです」

泉「私はスポーツトレーナーになって約25年になります。学生時代、陸上をやっていたのですが、15歳のときに教師をやりながらオリンピックの強化スタッフをされている方がいると知りました。それをきっかけに『スポーツ選手のフィジカルトレーニング指導』や『健康づくりを通じた教育』を行う仕事を目指すようになりました」

――現在、仕事はどんな現場が多いのでしょうか?

泉「私はフィジカルトレーナー(S&Cコーチ、フィジカルコーチ)として、ナショナルチームやプロスポーツをみています。この十数年ほどで、ジュニアからシニアまで複数の競技を担当。今は2024年パリ五輪、2028年ロサンゼルス五輪世代に向けた強化指導や運動教育が中心です。その他にプロスポーツ育成機関や、ナショナルトレーニングセンター強化拠点の医・科学プロジェクトをサポートしています。ほか、地元の関西では街のスポーツ応援プロジェクトの教育アドバイザー、公共事業や大学と協力し小学生からの運動教育やオリパラの指導などを行っています」

中野「私もフィジカルトレーナーとして仕事をしていますが、泉さんと異なり、民間の法人格のトレーナーとして仕事を請け負っています。クライアントは、ビジネスパーソンや高齢者の方から、学生アスリート、トップアスリートまでと幅広い方だと思います。依頼を受けるトレーニングの目的も、健康管理、ダイエット、ボディメイク、スポーツパフォーマンスの向上など様々です」

――今、お二人からフィジカルトレーナーという言葉が出ましたが、一般的に浸透している『スポーツトレーナー』との違いは?

泉「フィジカルトレーナー(SC、S&Cコーチ、フィジカルコーチとも呼ぶ)は『スポーツトレーナー』という職業のなかの一つの職種です。一口にスポーツトレーナーといっても、専門分野、活動する場によって職種は幅広い。例えばアスリートに関わる主な職種としては、フィジカルトレーナーほか、コンディショニングトレーナー、アスレティックトレーナー、メディカルトレーナーなどがあります」

中野「わかりやすく説明するならば、スポーツの現場に関わるトレーナーは、大きく二つに分けられると思いますよ」

――二つとは?

中野「一つは『マイナスの状態からゼロにする』仕事。こちらは故障から復帰までを支えるリハビリテーションの領域や、日々の健康管理、ケアなど、体を回復させることが主な仕事になります。医療従事者である『メディカルトレーナー』や、ケガの救急対応やテーピング、マッサージ、鍼灸などを行う『アスレティックトレーナー』『コンディショニングトレーナー』はこちらにあたります。

 もう一つは選手を『ゼロの状態からプラスにする』仕事。体力の向上やフィジカルの強化など身体能力を上げることが主な仕事で、こちらが泉さんや私のような『フィジカルトレーナー』の仕事です。競技スポーツでは勝つために、技術、戦術が重要です。戦術を機能させ、かつ技術の精度を落とさないための土台がフィジカル。私たちはその土台作りを行います」


泉建史さんは日本代表の多くの競技に携わってきた【写真:中戸川知世】

■新しい競技をみるとはどう取り組む?

――お二人が現在に至るまで担当した競技を教えてください。

泉「私は主に審美系競技(体操・トランポリン他)、ウエイトリフティング、陸上、水泳、アーチェリー、アーバンスポーツなどの日本代表にかかる個人競技、団体競技ではラグビー、サッカー、バスケット、アメフトなどです。また、競技を問わず、女性アスリートや高地トレーニングのプロジェクトも医科学支援をする立場で担当しています」

中野「テニス、卓球、陸上、 バスケットボール、バレーボール、トランポリン、クライミング、トライアスロン、ボート、パラ卓球、パラ車椅子陸上、バレエ……。多くの競技は自分自身でプレーした経験がなく、オファーを受けてから勉強するケースがほとんどですね」

――スポーツトレーナーはお二人のように、様々な競技をみるのが一般的なんでしょうか?

中野「いえ、例えばサッカーや野球など、一つの競技に絞り、活動する方ももちろんいます。私の場合、オファーを受けた際に、その競技や選手に興味があるか否かで仕事を受けるかどうかを決めるため、自然と、競技種目が増えた、という感じです。ちなみに、学生時代は水泳の選手でしたが、水泳を担当したことは一度もありません(笑)」

泉「中野さんは水泳でしたか! 私は陸上競技出身ですが、縁あって経験していない競技を担当する機会にも多く恵まれました。その度に、一人ではできないことを痛感することの連続(笑)ですが、コーチ、トレーナー、医科学専門家の皆様に助けていただいています」

――新しい競技をみるときはどのように取り組みますか?

中野「私は最初の1か月間でルールや競技を学び、その後、プレースタイルや動作、関節の状態などを見て、動作分析をしながら選手の課題を洗い出します」

泉「私も同じです。あとは都度、コーチにヒアリングをしたり、関連する文献を読み込むなど、競技を学びながら取り組んでいます。この仕事を初めて20年以上になりますが、いまだに日々、勉強です。ただ、競技種目や年代に関わらず、すべての運動は一つにつながっている。年々、その感触が強くなっていますが、中野さんはどう思われますか?」

中野「泉さんが言われる通りだと思います。何に重きを置くかは競技や種目によって異なれど、人体の構造は同じ。新たに担当する競技のトレーニングを構築するうえで、過去の経験がヒントになりますよね」

泉「そう、例えストレッチ一つをとっても、他競技で得た知識や経験は参考になります」

――初めて担当する競技でも結果を出さなくてはいけない。かかるプレッシャーは非常に大きいですね。

中野「最近はトレーナーもメディアに取り上げられ、注目されるようになりましたが、トレーナー業も他の仕事と同様、華々しい話はほんの一握りです。私もこれまで、自分のトレーニングが原因で選手にケガをさせたことも、成績が下がったこともたくさん経験しています。選手との信頼関係を、一度、失ったこともあります。どの仕事も同じだと思いますが、優勝した、メダルを獲った、などの嬉しい経験は1%。99%は大変な、苦しい経験です」

泉「トライ・アンド・エラーはとてつもなく多い仕事ですよね」

中野「頭を痛めることもありますし、改善策を模索していく過程は苦悩です。しかし、そこで回答を見つけ、セッションの中で活かし、回復していい結果が出せた日の喜びは何物にも代えがたいほど、たまらないですよ」

泉 「何事にも代えがたいという気持ち、よくわかります。ある人の人生において、体が改善したり、変化することで、その方の自信につながったりすることを何度も観ています。取り組みには気持ちが動かないと、体も変わらない。そう思うとやりがいを感じますね」


対談した泉さん(左)と中野さん【写真:中戸川知世】

■ナショナルチームを担当する場合のやりとりは?

――泉さんは競技スポーツでは主にナショナルチームをみています。元々、外部のトレーナーがみている選手が加入した場合、そのトレーナーともやり取りをするのでしょうか?

泉 「はい、出来るだけ選手の要望に添うようヒアリングをしながら、個人で契約しているトレーナーや各方面の専門家と協力しながら強化を進めます。逆に、私から、選手にマッチングする新たな外部のトレーナーに、選手のトレーニングをお願いする場合もあります。例えば私は中野さんと東京2020の準備期間に初めてお会いしましたが、色々とお話するなかで、運動環境の確保や新たなアイデアなど個別戦略のプラン立てをご相談させていただくことにしました。我々にとっても貴重な時間になりましたね」

中野「思うのですが、ここ数年で、『色んな方法を試してみたい』と、外部のトレーナーをつける代表選手が増えましたよね。代表クラスになると、皆、個人でトレーナーをつけていると思われますが、以前は個人契約をするのは、ほんの一部のプロ選手ぐらいでしたから」

泉「そうですね。やはり、競技者としては限られた時間を有効に使い、さらに強くなりたい、と考えます。それには、計画的にフィジカルを向上させたり選手自身も様々なスポーツ科学の情報を得てより効果的にチャレンジしたりすることが必要だと気づいたのだと思います。一方で、プロ選手や日本代表選手でも試合や遠征に強化、ケア、メディカルとすべてのトレーナーを帯同出来る選手はほんの一握り、というのが実情」

中野「これは難しい問題。泉さんのおっしゃるとおり、例え五輪や世界選手権のような大きな大会でも、一人のトレーナーが複数の役割を兼任しているのが現実です。私たちフィジカルトレーナーも、ケアの知識はあるし、選手に求められればマッサージを行う人も行います。でも、毎日、何十人もの人のマッサージ行っている鍼灸師や柔道整復師のほうが、当然、経験値も技術も高い。逆にメディカル系のトレーナーもトレーニングをみることが出来ますが、内容の質はフィジカルトレーナーのほうが高くなる」

――それは大事な遠征や大会ほど、頭を悩ませますね……。

泉「ですから、強化に強い人、ケアに強い人のどちらを入れるかは、その時々の需要や戦略によって決めていくしかありません。それだけに、トレーナーを含めた医科学チームは、最終的に誰が帯同しても問題ないよう、常に連携することが大切です。同時に選手自身も、セルフマネージメントの力(自分で身体をコントロールする力)が早い段階で必要になってくるといえます」

――パリオリンピック・パラリンピックも開幕。お二人が担当、あるいは関連する競技や選手たちも本大会に出場します。トレーナーとして今回の大会では、どんなことに注目していますか?

中野「私は2012年ロンドン大会、2016年リオ大会で現地に入りましたが、この3大会で段階的に大きく変わってきているのが、AIによる分析能力の向上です。私たちフィジカルトレーナーも分析士からデータをもらいトレーニングに反映していますが、この傾向は日本だけではなく世界的にあります。また、今や科学的なトレーニングを行うことは当たり前ですが、さらにそれらの練習やトレーニングが正確に反映されているかを、アセスメント出来るようにもなってきている。各国がどのような機材と規模で分析チームを編成してくるのかが楽しみです」

泉「ここ10年間、チームJAPANは医・科学スタッフを含め、セルフコンディショニングに力を入れ取り組んできましたが、パリ大会はその成果をみる一つになります。というのも、チームJAPANとしてコロナ禍を境に、睡眠や免疫、食欲などの管理アプリなどを使ってのコンディション管理や教育がより発展し、以前よりも緻密に取り組んできた感があります。日々、セルフコンディショニングを積み重ねてきた結果、時差を含めた体調管理、ピーキング等、どのような成果が得られるのか。ロス2028大会や次の世代に向ける意味でも大切な情報になります」

――お二人とも過去、アーバンスポーツにも関わってきました。今大会唯一となる新競技「ブレイキン」について一言お願い致します。

泉「とても楽しみですね。例えばスポーツクライミング、スケートボードが参入したとき、各国の選手やコーチとフランクにコミュニケーションをとり楽しむ姿は、これまでのオリンピック競技と異なり、本来あるべきスポーツの楽しむ形を確認する機会となりました。新しい競技の参入は他競技にとっても学びになり、スポーツの価値を上げることにもつながります。そして、ブレイキンをきっかけにオリンピックを観てくれた方々が、他のスポーツにも興味を持って観てくれることを期待しています」

■中野ジェームズ修一 

 フィジカルトレーナー、(株)スポーツモチベーション 会員制パーソナルスポーツクラブ『CLUB100』最高技術責任者、PTI 認定プロフェッショナルフィジカルトレーナー、米国スポーツ医学会認定運動生理学士(ACSM/EP-C)。フィジカルを強化することで競技力向上や怪我予防、ロコモ・生活習慣病対策などを実現 する「フィジカルトレーナー」の第一人者。オリンピアンを始め、多くのアスリートから絶大な支持を得る。2014年からは青山学院大学駅伝チームのフィジカル強化指導も担当。早くからモチベーションの大切さに着目し、日本では数少ないメンタルとフィジカルの両面を指導できるトレーナーとしても活躍。『世界一 伸びるストレッチ』(サンマーク出版)、『青トレ 青学駅伝チームのコアトレーニング&ストレッチ』(徳間書店)、『医師に「運動しなさい」と言われたら最初に読む本』(日経 BP)などベストセラー多数。

■泉 建史

 フィジカルトレーナー/フィジカルコーチ、日本オリンピック委員会(JOC)医科学強化スタッフ、ナショナルチーム・フィジカルコーディネーター、米国スポーツ医学会認定 運動生理学士(ACSM/EP-C)。2019年年、NSCAジャパン最優秀指導者賞受賞。ナショナルトレーニングセンター競技別強化拠点施設の医・科学サポートプロジェクト委員、近年は東京2020、パリ2024、ロサンゼルス2028世代を強化。採点系競技、審美系競技をはじめ複数のスポーツ強化を歴任、プロスポーツではWILLING所属JRA日本中央競馬会・競馬学校・トレーニングセンター騎手実践課程フィジカル育成を担当。東大阪市ではスポーツ教育アドバイザーとして活動、国際的な組織のNSCAジャパンのエリアディレクターとして後進の教育に力を注ぐ。『1252女性アスリートコンディショニングエキスパート検定』(東洋館出版社)運動処方パート執筆、『W-ANS ACADEMY』情報支援、SDGs活動など多数。(長島 恭子 / Kyoko Nagashima)

長島 恭子
編集・ライター。サッカー専門誌を経てフリーランスに。インタビュー記事、健康・ダイエット・トレーニング記事を軸に雑誌、書籍、会員誌で編集・執筆を行う。担当書籍に『世界一やせる走り方』『世界一伸びるストレッチ』(中野ジェームズ修一著)など。

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