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スポーツトレーナーの職業に求められる資格、能力 先輩2人が推奨「絶対に向いている」興味の中身

THE ANSWER / 2024年8月2日 10時44分

フィジカルトレーナーの第一線で活躍する中野ジェームズ修一さん(左)と泉建史さん【写真:中戸川知世】

■トップアスリートに関わるフィジカルトレーナー対談 後編

 アスリートやスポーツ愛好家、そしてボディメイクや健康維持の目標を持つ人たちまでをサポートするスポーツトレーナー。近年は一般の人々の健康志向の高まりにより、活躍の場も拡大。将来、トレーナーを目指す学生も増えている。そこで、THE ANSWERでは様々な現場で活躍するトレーナーたちをフィーチャー。今回はトップアスリートに関わる二人のフィジカルトレーナーが前後編で対談。後編では学生スポーツからトレーナーに求められる資格や能力などを中心に届ける。(前後編の後編、聞き手=長島 恭子)

 ◇ ◇ ◇

泉「話は変わりますが、私が中野さんを知るきっかけは、青山学院大学陸上部・長距離ブロックでの仕事です。今年の箱根駅伝も、大変感動しました! 中野さんが初めて青学を見るようになったとき(※)、準備運動から補強トレーニングまで一新され、注目を集めましたよね。私はその活動を拝見し、改めて我々の仕事の大切さを感じました」

(※中野氏は2014年4月、長距離ブロックのトップトレーナーに着任。15年1月の第19回箱根駅伝で青学大は初の総合優勝を飾った)
 
中野「そうだったんですね! 嬉しいです。ありがとうございます」

泉「今、中野さんは青学大に、どのぐらいの頻度でサポートに入られていますか?」

中野「現在、青学は1週間に3日間、フィジカルトレーニングを行っています。そのうち、我々がサポートしているのは2日間。主に主力選手や怪我をしている選手を中心にパーソナルトレーニングで、私だけでなく、弊社の2名のトレーナーと分担しています。パーソナルトレーニングがつかない主力以外の選手は、我々が選手個々に組んだメニューを自分自身でやってもらっています」

泉「おお、すごい。やはり主力選手ともなると、個別にサポートが入るんですね」

中野「ただ、私はいつも選手たちに『自分からストレッチやアイシングにしっかり取り組むことが何より大切だよ』と、口をすっぱくして伝えています。トレーニングの成果を出すためにもっとも大切なのは、日々のセルフコンディショニングです。青学にはケア専門のトレーナーさんもいますが、マッサージの予約はセルフコンディションを行っている選手しか入れられない、というルールを作っています」

泉「青学のセルフコンディショニングの方針は、私の見ている日本代表選手と同じです。自分の体は自分でケアし、そのうえでスタッフがサポートする流れが出来ています。

 今では、準備運動を怠るとケガの発生率が20~50%程度高くなるという研究結果も示されています。ただ、日本のスポーツ界で『セルフコンディショニング』という考え方が重要視されるようになったのは、ここ10年前後の印象です。スポーツ科学の発展とともに教育につぎ込める時間も増えてきたことで、一部だけでなく様々な競技でやっと浸透してきた、という状況です」

中野「そうですね。青学のトレーナーに着任した2014年当時は、大学に限らず、陸上界全体をみても、準備運動やセルフコンディションの重要性は浸透していませんでしたから」

――言われてみると以前は運動前後のケア=トレーナーにマッサージをしてもらうこと、という感覚が当たり前だった気がします。

中野「実際、選手にも『トレーナーはマッサージをしてくれる人』と思われていましたし、今でもそう思っている選手は多いですよ。特に学生の場合、学業が本分です。そのうえで、1日2部練習、3部練習をこなさなくてはならない。セルフコンディショニングを行わずに、これだけハードに練習やトレーニングを繰り返していれば、どんなに若く、頑丈な選手でもケガを引き起こします。それでは、よい結果を得られません」

泉「強度が増したりすると気づかぬうちに疲労が蓄積し、突然、動けなくなったり、ケガをしたりしてしまう。体が元気だからこそ、過信せず丁寧にセルフコンディションを行う時間が必要なんですよね。セルフコンディショニングが大切なのは、一部のトップ選手に限りません。スポーツを始めた頃から子どもたちに対し、自分で出来るケアをやっていこう、と意識づけを行っていく必要があると思います」


中野さんは「日本では特に資格がなくてもトレーナーの仕事は可能」と解説【写真:中戸川知世】

■フィジカルトレーナーを目指すならどんな資格が必要?

中野「泉さんがみているトップアスリートは、それこそ成長期から国際大会を経験しますよね。トレーニングの専門家がきちんと教育をしないと、ケガのリスクも高まりますし、競技生活が短くなる恐れがある」

泉「はい。ですから、フィジカルトレーナーの仕事は近年、選手の教育も含まれる傾向にあります。国内外の合宿や遠征では、いつもいるスタッフを帯同できないことも多いので、自分で考え、決断しなければならない場面も増えます。他力のケアに頼らず、主体的に体と向き合う必要があります。ですから選手たちも体力維持や体調管理の知識がある程度必要です。

 準備運動に限らず、クールダウンや休養、睡眠、栄養、メンタル、時差調整の方法など、自分で出来るコンディショニングについて学ぶことが当たり前になってほしいですね」

――これからフィジカルトレーナーになりたいと考えている方は、まずはどんな資格を取得するとよいですか?

中野「実は現在、日本では特に資格がなくてもトレーナーの仕事は可能です。また、フィジカルトレーナーの国家資格はなく、民間の資格のみとなります。しかし、国内の資格でも海外の資格でもいいので、何か一つ資格を取ると自信になると思います。また、資格ではありませんが、体育大学や専門学校で身体についてしっかり学ぶ道もよいと思います」

泉「国際的なライセンスで言うと、スポーツ医学やヘルスフィットネスを学ぶならば、中野さんと私に共通する国際的な資格として、ACSM(アメリカスポーツ医学会/※1)のライセンスが挙げられます。世界最先端のトレーニング科学やプログラムを学べるNSCA(全米ストレングス&コンディショニング協会/※2)が代表的です。あとは日本トレーニング指導者協会(JATI-ATI)、NESTA(全米エクササイズ&スポーツトレーナー協会)あたりもあります」

――アスレティックトレーナーやコンディショニングトレーナーを目指すなら?

泉「国際的な資格ではアメリカでの認知度が高く準医療従事者としてリハビリ・応急処置を学べるNATA(全米アスレティックトレーナーナーズ協会/※3)が扱うライセンス。国内資格であれば『柔道整復師』『はり師』『きゅう師』『あん摩マッサージ指圧師』といった国家資格を複数取得すると、仕事の場が広がります。民間のケアやリラクゼーション療法の資格を取得する方もいますよ。

 また、メディカルトレーナーは『理学療法士』『作業療法士』といった国家資格の取得が必要です。リハビリテーションの領域でも、国際的な資格、国内でメジャーな資格と色々あるので、自分がどの方向でトレーナーになりたいかを考えながら調べてみるといいですよ」

中野「ただ、若いトレーナーのなかには器用貧乏ならぬ『資格貧乏』になっている方もいますが、片っ端から資格を取りまくる必要はありません。なぜなら、クライアントが最終的に求めるものは、資格ではなく、『結果を出してくれるか、くれないか』です。ある監督が、『どんなに高学歴で立派な資格を持っていても、結果を出せないトレーナーは現場には必要ない』とおっしゃっていたのが印象的でした」

泉「私たち二人が共通して抱くのは、トレーナーを目指す方、若いトレーナー方は、資格を取って終わりにならないで欲しい、という気持ちですよね。何か一つ資格を取って終わりではなく、どんどんブラッシュアップを続けていけます。トレーナーのなかでも、方向転換できますし」

中野「体をみる、という点はどの職種も共通しているので、それが可能ですよね。実は私も、最初は理学療法士を目指して勉強していたんです。でも、途中で『ちょっと違うな』と思い、フィジカルトレーナーに方向転換したんですよ」


トレーナーの仕事は「社会を豊かにする可能性がある」と泉さん【写真:中戸川知世】

■人間の体の神秘さ、面白さに興味がある人は「絶対にトレーナーに向いています」

――では、トレーナーに必要な力とは?

中野「人間の体の神秘さや面白さに対して興味がある方は、絶対にトレーナーに向いています。人間は一つの骨をとっても、形状や角度がすべて決められ、そこには『なぜか』の理由があります。どうすればもっといい動作に変えることが出来るか、障害を起こさないように出来るか。私自身、そこを突き詰めていく面白さに魅了されています。逆に、学びを止めたら、我々の仕事はおしまいだと思います」

泉「学びの継続は同感です。それと、現状をありのままに『伝える力』、目的や気持ちを言語化してもらうために『話を聞く力』、よりよい体になるために段階的に身体を作るプランを『提案する力』も必要。そのベースとなるのが、コミュニケーション能力です。対アスリートだけでなく、コーチと、時にはご家族の方にも理解してもらうよう、説明する力やアテンドする力も我々の仕事には必要だと思います」

中野「コミュニケーション能力は基本です。我々は選手たちと時に、パーソナルに接することもある。それを含め、目標に向かって二人三脚で歩んでいくのが、トレーナーの仕事ですから」

泉「そうですね。スポーツトレーナーは、クライアントの人生に寄り添い、生活に根付くようなことを伝える仕事です。これは、相手が身体を鍛え、世界一を目指すアスリートであろうと、生涯健康でありたいと願う一般の方であろうと取り組む価値は同じ。トレーナーには、担当する相手に歩みより考えられる力はとても大切です」

中野「あとは……これは個人的な考えですが、やはり『好き』に勝る力はないかと思います。例えば私自身、身体やトレーニングに関わる新しい知識、情報は全部『面白い』と感じますし、『勉強をしよう』と思いながらトレーニングの専門書を開いたことは一度もありません。また、トレーニングのセッションは楽しくて仕方がない。

 朝起きたとき、『今日の仕事は1日中、パーソナルセッションだ』と考えるだけでワクワクしてしまう(笑)。自分でもいつか嫌だなと思うときが来るのだろうかと思っていましたが、30年経っても、思う日はありません」

泉「わかります。セッションによって一緒に体験し、熱を伝え、心動かすことのやりがいは尽きないですよね。実は今日、ジャンプトレーニングの見本を選手にみせるために私自身、実践シュミレーションしたのですが、これもトレーナーの現場の仕事では何歳になっても必要なスキルだなと感じました。砂浜で安定して走る見本をすることもありますし(笑)、いつでもスプリントが出来る状態でいたいので、アキレス腱に炎症を起こしたりしないよう、我々自身もきちんとメンテナンスをしていかないと!」

中野「いや、本当にその通りです(笑)」

――最後にスポーツトレーナーを目指す学生たちにコメントをお願いします。

中野「トレーナーの仕事は、誰かのためになる仕事ではなく、誰かと一緒に自分の夢を叶える仕事だと思います。大切なのは『あなたの夢を叶えあげる』ではなく、一緒に叶えていくという気持ちで取り組むことです。その過程で得た嬉しさや楽しさが、この仕事の醍醐味だと感じます。

 クライアントの夢を叶えることは、自分の夢にもなる。しかも、キャリアを積めば積むほど解決できるケースが多くなり、人々に必要とされる。その喜びや奥深さを、若いトレーナーやトレーナーを目指している方たちにも、是非、体験して欲しいと思います」

泉「私は人の人生において、目標を達成したり、体が少し変わったりすることで、その方の自信につながる瞬間を何度もみています。そこには継続させる熱や気持ちが動かないと、体も変わらない。ですから、私はそこで心の琴線に触れ心が動く瞬間を共にしたときに、この仕事の意義を感じます。

 トレーナーの仕事は学びの連続になりますが、社会を豊かにする可能性を持ちます。また、『運動や健康づくり』を通じて幅広い世代の方と関わり、喜びを実感できる仕事です。皆さんにも、それらを感じる未来が待っていることを願っていますしそんな皆さんとご一緒に礎を作れる日を楽しみにしています」

――ありがとうございました。

(※1)1954年創設のヘルスフィットネスやスポーツ医学の資格を認定する世界90か国会員がいる国際的な組織。(ライセンス:ACSM/EP)
(※2)1978年に設立されアメリカ・コロラド州に拠点を置く、National Strength and Conditioning Associationのストレングストレーニングとコンディショニングに関する国際的な教育団体。(ライセンス:CSCS、NSCA-CPT)
(※3)1950年に設立のアメリカのアスレティックトレーナー団体でアメリカでは準医療従事者として認められている国際的な組織。(ライセンス:NANA-ATC)

■中野ジェームズ修一 

 フィジカルトレーナー、(株)スポーツモチベーション 会員制パーソナルスポーツクラブ『CLUB100』最高技術責任者、PTI 認定プロフェッショナルフィジカルトレーナー、米国スポーツ医学会認定運動生理学士(ACSM/EP-C)。フィジカルを強化することで競技力向上や怪我予防、ロコモ・生活習慣病対策などを実現 する「フィジカルトレーナー」の第一人者。オリンピアンを始め、多くのアスリートから絶大な支持を得る。2014 年からは青山学院大学駅伝チームのフィジカル強化指導も担当。早くからモチベーションの大切さに着目し、日本では数少ないメンタルとフィジカルの両面を指導できるトレーナーとしても活躍。『世界一 伸びるストレッチ』(サンマーク出版)、『青トレ 青学駅伝チームのコアトレーニング&ストレッチ』(徳間書店)、『医師に「運動しなさい」と言われたら最初に読む本』(日経 BP)などベストセラー多数。

■泉 建史

 フィジカルトレーナー/フィジカルコーチ、日本オリンピック委員会(JOC)医科学強化スタッフ、ナショナルチーム・フィジカルコーディネーター、米国スポーツ医学会認定 運動生理学士(ACSM/EP-C)。2019年年、NSCAジャパン最優秀指導者賞受賞。ナショナルトレーニングセンター競技別強化拠点施設の医・科学サポートプロジェクト委員、近年は東京2020、パリ2024、ロサンゼルス2028世代を強化。体操競技をはじめ複数のスポーツ強化を歴任、プロスポーツではWILLING所属JRA日本中央競馬会・競馬学校・トレーニングセンター騎手実践課程フィジカル育成を担当。東大阪市ではスポーツ教育アドバイザーとして活動、国際的な組織のNSCAジャパンのエリアディレクターとして後進の教育に力を注ぐ。『1252女性アスリートコンディショニングエキスパート検定』(東洋館出版社)運動処方パート執筆、『W-ANS ACADEMY』情報支援、SDGs活動など多数。(長島 恭子 / Kyoko Nagashima)

長島 恭子
編集・ライター。サッカー専門誌を経てフリーランスに。インタビュー記事、健康・ダイエット・トレーニング記事を軸に雑誌、書籍、会員誌で編集・執筆を行う。担当書籍に『世界一やせる走り方』『世界一伸びるストレッチ』(中野ジェームズ修一著)など。

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