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暴言、差別、虐待…取り締まれぬ五輪アスリートへの誹謗中傷 期間中「5億件SNS投稿」にAIも苦戦か

THE ANSWER / 2024年8月2日 13時33分

パリ五輪、SNSを通じた誹謗中傷が発生している【写真:ロイター】

■「シン・オリンピックのミカタ」#42「Sports From USA」特別版

 スポーツ文化・育成&総合ニュースサイト「THE ANSWER」はパリ五輪期間中、「シン・オリンピックのミカタ」と題した特集を連日展開。これまでの五輪で好評だった「オリンピックのミカタ」をスケールアップさせ、4年に一度のスポーツの祭典だから五輪を観る人も、もっと楽しみ、もっと学べる“新たな見方”をさまざまな角度から伝えていく。「社会の縮図」とも言われるスポーツの魅力や価値の理解が世の中に広がり、スポーツの未来がより明るくなることを願って――。

 今回は在米スポーツジャーナリスト・谷口輝世子氏の「Sports From USA」特別版。米国ならではのスポーツ文化を紹介し、日本のスポーツの未来を考える上で新たな視点を探る連載で、オリンピックについて考える。テーマは「IOCの選手に対するオンライン虐待対策」について。今大会は日本選手をはじめとするアスリートに対する誹謗中傷問題が表面化。選手自身や競技団体などが声明を発表する事態になっている。こうした問題について、IOCはこれまでどう対策してきたのか。

 ◇ ◇ ◇

 国際オリンピック委員会(IOC)はパリ五輪を控えた6月、オリンピック・パラリンピックに向けて、AIを活用したSNS新しい監視システムを導入することを発表した。このAIシステムは、IOCの「セーフスポーツ(安全なスポーツ環境)」の一環でもある。セーフスポーツは、敬意と公平性を重んじ、安全なスポーツ環境を作り、あらゆる形のハラスメントや虐待を止める目的で設置されているものだ。コーチから選手への暴力、虐待的なトレーニングを強いる指導などを止めることも含まれており、SNSを通じての暴言、誹謗、脅迫などからアスリートやスタッフを守る役割も担う。

 大会期間中には5億件のSNS投稿が予想されている。ドイツメディアの「ASB Zeitung」は、IOCのセーフスポーツ部門の責任者であるハロウズに取材しており、それによると「有害コンテンツはこの業界の平均でおおよそ4%。大会期間中には5億件の投稿が予想されているので、有害投稿は2000万件になる」と算出していた。しかし、対象は公開されているコンテンツだけで、ダイレクトメッセージやチャット機能によって非公開で送られてくるメッセージは監視できない。また「脅威の対象が明確になっているものではない」ので、エアリプや仄めかした投稿には、アクションを起こすことはできない。

 IOCが導入したシステムは、主要なSNSプラットフォーム上で数千のアカウントをリアルタイムで監視し、35以上の言語に対応している。識別された脅威は即座にフラグが立てられ、選手が虐待を目にする前に対応が取られるとしていた。大会前のテストでは、1万7千件以上の公開投稿を分析し、199件の潜在的に虐待的なメッセージにフラッグをつけた。そして、49件の投稿が専門家チームによって虐待的と確認され、関連するSNSプラットフォームにアクションを要求した。また、ASB Zeitung によると、IOCにシステム面の協力をしているのは、ロンドンに拠点を置く会社で、これまでにもラグビーやテニスなどの種目でアスリートらを、SNSを通じての暴言や脅しから守ってきた実績があるという。しかし、大会が始まってみると、女子20キロ競歩の日本代表2選手が出場を辞退したことについて中傷が広がるなどがあった。

■SNSを通じた投稿がアスリートのメンタルヘルスに悪影響が明らかに

 オンライン上での暴言やいやがらせは、誰もがターゲットになるリスクがあるだろうが、何人かのアスリートが集中的に攻撃されることがある。東京オリンピックの期間中、世界陸連は161人の選手の旧Twitter(現X)アカウントを対象に調査を実施し、24万件の投稿を分析した。その結果、132件の差別的な投稿が119人の作者から発信されていた。ターゲットにされたアスリートは23人だったが、そのうち女子アスリートは16人、その女子選手のなかでも、2人の黒人アスリートに対する差別的投稿が多かったという。投稿の内容は性差別、人種差別だけではなく、トランスフォビア、ホモフォビア、根拠のないドーピング疑惑など多岐にわたった。2023年の世界陸上では人種差別とみなされる投稿が増え、全体の3分の1以上を占めていた。男性アスリートへの虐待的投稿が大幅に増えて51%、女性アスリートへは49%。そして、モニターされた1344人のアスリートのうち、2人をターゲットにした虐待的投稿が44%を占めていたという。

 東京大会での調査結果を踏まえて、2023年に実施された研究では、SNSを通じた差別、虐待、ヘイト投稿がアスリートのメンタルヘルスに悪影響を与えることも明らかになった。そして、SNS上で差別や虐待の対象となるのはアスリートだけではなく役員などにも及ぶことがわかったとしている。

 それぞれの競技組織で起こった虐待行為は、行動規範に則って、虐待の被害に遭った人を守り、虐待行為を罰するようになっている。リアルなスタジアムやアリーナでは、観戦する全ての観客の安全を守るために、主催者や施設側が規則を設けており、これに沿って、虐待や差別を行った観客をその場から離れさせたり、退場させたりすることもできる。SNSは世界各国のオリンピックファンと距離を越えてつながり、興奮を共有できるツールだが、何らかのきっかけで特定の選手が集中的に差別されたり、暴言を浴びせられたりするやっかいなもので、AIを駆使すると発表した今大会でも、取り締まりは簡単なことではないようだ。(谷口 輝世子 / Kiyoko Taniguchi)

谷口 輝世子
 デイリースポーツ紙で日本のプロ野球を担当。98年から米国に拠点を移しメジャーリーグを担当。2001年からフリーランスのスポーツライターに。現地に住んでいるからこそ見えてくる米国のプロスポーツ、学生スポーツ、子どものスポーツ事情を深く取材。著書『帝国化するメジャーリーグ』(明石書店)『子どもがひとりで遊べない国、アメリカ』(生活書院)。分担執筆『21世紀スポーツ大事典』(大修館書店)分担執筆『運動部活動の理論と実践』(大修館書店)。

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