敗れた柔道団体戦の裏で…メダル「1」競泳ニッポンも危機的状況、変わる日本の「メダル地図」
THE ANSWER / 2024年8月4日 18時26分
■「シン・オリンピックのミカタ」#57 「OGGIのオリンピックの沼にハマって」第11回
スポーツ文化・育成&総合ニュースサイト「THE ANSWER」はパリ五輪期間中、「シン・オリンピックのミカタ」と題した特集を連日展開。これまでの五輪で好評だった「オリンピックのミカタ」をスケールアップさせ、4年に一度のスポーツの祭典だから五輪を観る人も、もっと楽しみ、もっと学べる“新たな見方”をさまざまな角度から伝えていく。「社会の縮図」とも言われるスポーツの魅力や価値の理解が世の中に広がり、スポーツの未来がより明るくなることを願って――。
今回は連載「OGGIのオリンピックの沼にハマって」。スポーツ新聞社の記者として昭和・平成・令和と、五輪を含めスポーツを40年追い続けた「OGGI」こと荻島弘一氏が“沼”のように深いオリンピックの魅力を独自の視点で連日発信する。
◇ ◇ ◇
柔道の混合団体戦、決勝戦で敗れたのは残念だった。もちろん、選手たちは懸命に戦ったと思うし、圧倒的な地元の声援に乗ったフランスに勢いがあったのも事実。ただ、今回はたとえアウェーでも東京大会のリベンジは果たせると思っていたし、期待もしていた。
東京大会の追加種目として柔道界が熱望したのが団体戦。「男女平等」というIOCの意向も考慮し、それまで世界選手権などで行われていた男女別ではなく混合団体戦を提案した。
日本発祥の柔道の中でも、団体戦は日本独自の文化だった。町の道場や学校単位で先鋒から大将までチームを組んで争う。国際大会は体重別で、引き分けがなく、勝ち抜き戦でもないなどルールの違いはあるが「チームのために」というメンタリティーは変わらない。
日本は男女別時代から強かった。東京五輪での実施決定を受けて17年から混合になっても、強さは変わらなかった。当初は軽量級からだったが、あまりに日本の軽量級が強くて勝敗がすぐに決してしまうため、順番を抽選にしたほど。過去7大会すべてに優勝。過去6大会は決勝でフランスを破っている。唯一の黒星が東京五輪だったが、またも五輪で勝てなかった。
男女別のころは個人戦後の「エキシビション」色が強かったが、五輪種目となって「柔道の総合力」を争う場になった。軽量級、中量級、重量級ともに選手をそろえないと勝てないし、男子も女子も強くなければならない。だからこそ、日本は強いはずだった。
ところが、今大会は違った。日本の金メダルは3個で、銀と銅を合わせて8個。対するフランスは金こそ2個だが総数は10個に達した。64年の東京大会以来、日本が五輪柔道で最多メダルの座を譲ったのは初めて(最多タイはある)。団体戦で敗れる可能性はあった。
■競泳も危機的状況、変わる日本の「メダル地図」
総合力といえば、柔道と並ぶ日本のメダル量産競技の競泳も、危機的状況だ。獲得したメダルは銀1個。0に終わった96年アトランタ大会以来の低迷だ。もちろん、メダルの数だけで判断はできないが、男子400メートルメドレーリレーの予選敗退は低迷を象徴している。
背泳ぎ、平泳ぎ、バタフライ、自由形でつなぐメドレーリレーは、総合力がカギ。60年ローマ大会で実施されて以来。男子は不参加の80年大会と出場を見合わせた2000年シドニー大会を除いて決勝進出を逃したことがなかった。04年アテネ大会からは3大会連続表彰台。12年ロンドン大会での「(北島)康介さんを手ぶらで帰すわけにはいかない」の名言とともに、五輪を代表する人気種目になっていた。それが今回は予選14位という信じれらない成績に終わっているのだ。
「水泳ニッポン」は東京大会での低迷をきっかけに、強化の迷走が露呈。選手から強化スタッフへの不信感がもれたり、コーチ陣の人選で迷走したり。選手が力を発揮できなかった裏には、日本水泳連盟の責任もある。柔道もさらなる低迷を招かないために、強化方針や選手選考方法の見直しなど、やるべきことは少なくないはずだ。
大会も前半の9日目を終えて、日本の「メダル地図」は変わった。体操は男子団体総合、個人総合の2冠に輝いたが、柔道は苦戦、競泳も低迷している。対照的にフェンシングはフルーレ、エペ、サーブルで計4個のメダルを獲得し、総合力を発揮している。スケートボードは東京大会から変わらぬ力を見せ、馬術では92年ぶりのメダルを獲得した。五輪の見どころは、間違いなく広がっている。
大会後半は陸上が本格化し、日本が柔道、体操、競泳とともにメダルを量産してきたレスリングが始まる。スケートボードもパークがあるし、ブレイキンの五輪デビューも楽しみ。過去安定してメダルを獲得してきたアーティスティックスイミングもある。まだまだ続くパリ五輪。楽しみな瞬間が、たくさん待っている。(荻島 弘一 / Hirokazu Ogishima)
荻島 弘一
1960年生まれ。大学卒業後、日刊スポーツ新聞社に入社。スポーツ部記者としてサッカーや水泳、柔道など五輪競技を担当。同部デスク、出版社編集長を経て、06年から編集委員として現場に復帰する。山下・斉藤時代の柔道から五輪新競技のブレイキンまで、昭和、平成、令和と長年に渡って幅広くスポーツの現場を取材した。
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