3戦全敗、3P不発…女子バスケ日本に訪れた曲がり角 ホーバス流から「戦い方を見直す時期か」【渡邉拓馬の目】
THE ANSWER / 2024年8月5日 6時53分
■「シン・オリンピックのミカタ」#58 女子バスケットボール解説・渡邉拓馬
スポーツ文化・育成&総合ニュースサイト「THE ANSWER」はパリ五輪期間中、「シン・オリンピックのミカタ」と題した特集を連日展開。これまでの五輪で好評だった「オリンピックのミカタ」をスケールアップさせ、4年に一度のスポーツの祭典だから五輪を観る人も、もっと楽しみ、もっと学べる“新たな見方”をさまざまな角度から伝えていく。「社会の縮図」とも言われるスポーツの魅力や価値の理解が世の中に広がり、スポーツの未来がより明るくなることを願って――。
大会期間中、各競技のスペシャリストによる試合解説を随時展開する。今回は女子バスケットボール。1次リーグB組最終戦が4日に行われ、世界ランク9位の日本が同6位のベルギーに58-85で敗れ、3戦全敗で敗退が決まった。この試合とともにパリ五輪を元日本代表・渡邉拓馬氏が総括。トム・ホーバスヘッドコーチの下、列島を沸かせた東京五輪の銀メダルから後退した理由を分析し、今後の女子バスケットの強化を見据えて「課題や収穫の継承を」と訴えた。(構成=藤井 雅彦)
◇ ◇ ◇
58-85というスコア、27点差が示す通りの完敗です。決勝トーナメントに進出するためには勝利が必須なゲームで序盤からリードを許す展開になってしまった焦りなのか、攻守両面で力みが先行してミスが頻発。少しもったいないターンオーバーも多かった。どこか空回りしている印象は拭いきれず、自分たちのリズムのバスケットではありませんでした。
対戦相手のベルギーは自分たちがやりたいバスケットを徹底してきました。ローテーションしながらフリーを作って3Pシュートを確実に決め、落とした場面でもオフェンスリバウンドを拾ってセカンドチャンスにつなげていく。日本は悪い流れを断ち切れないまま、インサイドでのサイズの差を埋めきれないまま点差を詰めることができませんでした。
ドイツ戦同様に山本麻衣選手の欠場も大きく影を落としました。苦しい展開で林咲希選手の3Pシュート以外に打開策を見つけられなかった。山本選手は替えの利かないスコアラーとしてチームを支えてきた中心選手。同じように負傷で離脱した男子の八村塁選手の例と比べても、チームに与える影響は大きかったかもしれません。
今大会の3試合を通して3Pシュート成功率が上がらなかったのは大きな誤算でしょう。あれだけ決められない日本は珍しいと思います。ベルギー戦では外角から打てそうな場面なのに躊躇して打たないシーンがありました。チームとしてアウトサイドシュートを決める流れを作れていなかった証拠です。
相手からのスカウティングは前回大会とは比べものにならないほど厳しかった。乗せてはいけない存在として世界に認められたからこそ、対戦した3チームは丁寧なオフェンスを仕掛けてきました。サイズの差を徹底的に突き、確実に優位性を保てる部分で勝負を仕掛けてきたのです。ここでもう少し踏ん張れていれば違った展開になったかもしれませんが、現状ではその域に達していませんでした。
サイズ差に関しては男女ともに付きまとう問題で、一朝一夕で解決することはできません。この壁をどうやって打開していくかはナショナルチームだけのテーマではなく、日本全体で考えていかなければいけない。アメリカ、ドイツ、ベルギーの3チームは片手でボールを扱える選手も多かった。ワンハンドシュートやワンハンドパスをきっちりと使える差は、積み重ねると大きな差になります。そのあたりは育成や強化に遡っての話にもなります。
ベルギー戦、ドリブルで切り込んでいく町田瑠唯【写真:FIBA提供】
■東京五輪メンバーが12人中9人「チーム作りを見直す時期に」
トム・ホーバスヘッドコーチ時代からこのスタイルで戦い、結果を残してきたチームです。ただし対戦相手のバスケットを見ていると、戦い方を見直さないといけない時期に差し掛かっているのかもしれません。これまでは平面的でスピードを生かしてきましたが、高さで圧倒された3試合だった。
日本の場合、ポイントガードに関しては世界に対抗できるスキルがありますが、世界に目を向けるとスモールフォワードやパワーフォワード、センターの選手もスキルが高く、シュートも上手い。ここは日本との明確に差がありました。
それに加えて、五輪という舞台はやっぱり難しく、厳しい。試合が終わると、ベルギーの選手たちはまるで優勝したかのように喜びを爆発させていました。彼女たちは日本と同じ0勝2敗でこの試合を迎え、27点差以上の勝利で決勝トーナメント進出を決められる条件でした。そして実際に27点差で勝利を掴んだ。ただの1勝ではない、大きな価値があったわけです。
どの国もそれぞれ特別な想いを懸けて戦っています。それを上回るのは本当に大変なこと。ましてや前回大会で銀メダルを獲得したチームは警戒の対象となり、その状態で勝ち続けるのはさらに高いハードルです。この苦い経験が肥やしとなって強くなっていく。強豪国が通ってきた道を歩んでいると考えるべきでしょう。
3年前の東京五輪メンバーが12人中9人いました。今後は世代交代も含めてチーム作りを見直す時期に差し掛かるはず。ですが、日本女子バスケットとしての課題や収穫は引き継いでいく必要があります。大会ごとに区切るのではなく、継続的な線の上で強くなっていかなければいけません。(藤井雅彦 / Masahiko Fujii)
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