感動的で、面白かった「五輪ゴルフ」の面白さ 復活当初は懐疑論も…プロで成熟した競技を五輪で実施する意義
THE ANSWER / 2024年8月5日 19時20分
■「シン・オリンピックのミカタ」#62 連載「OGGIのオリンピックの沼にハマって」第12回
スポーツ文化・育成&総合ニュースサイト「THE ANSWER」はパリ五輪期間中、「シン・オリンピックのミカタ」と題した特集を連日展開。これまでの五輪で好評だった「オリンピックのミカタ」をスケールアップさせ、4年に一度のスポーツの祭典だから五輪を観る人も、もっと楽しみ、もっと学べる“新たな見方”をさまざまな角度から伝えていく。「社会の縮図」とも言われるスポーツの魅力や価値の理解が世の中に広がり、スポーツの未来がより明るくなることを願って――。
今回は連載「OGGIのオリンピックの沼にハマって」。スポーツ新聞社の記者として昭和・平成・令和と、五輪を含めスポーツを40年追い続けた「OGGI」こと荻島弘一氏が“沼”のように深いオリンピックの魅力を独自の視点で連日発信する。
◇ ◇ ◇
シェフラーの涙、フリートウッドへの大歓声、そして松山の弾けんばかりの笑顔……。五輪のゴルフがこれほどおもしろく、感動的だとは思わなかった。
いつものトーナメントとは様子が違った。世界トップレベルの豪華メンバーだが、ウェアは各国おそろいのユニホーム。キャップには五輪マークや国名が入る。コースを取り囲んだギャラリーというか「サポーター」が騒々しいのも五輪ならでは。国旗が降られ、国歌が聞こえる。ゴルフが五輪競技になったことを実感する瞬間だった。
普通なら優勝だけが目標になるが、五輪の場合はメダルがある。いつもなら悔しいだけの2位にも、フリートウッドは「メダルは夢みたいだ」と喜んだ。3位の松山は東京大会でプレーオフの末メダルを逃しているだけに「メダルをとれたことがうれしい」と話した。
「史上初」や「悲願」という言葉に違和感があるのは、16年リオデジャネイロ大会からの新しい競技だから。正確には1900年パリ大会と1904年セントルイス大会でも行われたが、参加者が少なくてその後は廃止。プロの参加が認められ、112年ぶりに復活したばかりだ。
もっとも、リオ大会は流行していたジカ熱の影響もあって、松山ら多くのトップ選手が出場を辞退。前回の東京大会も新型コロナ禍で無観客となり、辞退する選手も出て盛り上がりも今ひとつだった。
もともと「五輪でゴルフってどうなの?」という声はあった。4大メジャーの優勝賞金は5億円にもなるのに、五輪はなし。各国オリンピック委員会や競技団体から出る場合もあるが。ケタが2つ違う。最も問題なのは過密日程。ギリギリの年間スケジュールに加えて五輪では、選手の負担が大きい。酷暑の中でのプレーだからなおさらだ。
選手たちからも疑問の声はあがっていた。「ゴルフは五輪を必要としない」と言い切る選手もいたし、松山自身も「どうなんだろう」と話したこともある。それでも国を代表して戦い、普段ゴルフを見ない人たちからも応援される喜びは、特別な感情も呼び起こす。4年後のロサンゼルス大会について、松山は「絶対に出たい」と言った。
■同じ日に行われたテニスにもかつてあった懐疑論
同じ4日、テニス男子ではジョコビッチが涙の優勝を果たした。アルカラスとの激闘を制して4大大会と合わせた「生涯ゴールデンスラム」を達成した37歳は「国のために戦い、金メダルをとれたことは誇り」と話し、表彰台で国歌を聞きながら号泣した。
テニスもまた、88年ソウル大会で五輪に復帰した時は「どうなんだろう」と言われたし、出場を辞退する選手もいた。すでにプロの競技として成功し、五輪の力も必要ない。過密日程も問題になった。それでも、女子最強のグラフが優勝して五輪テニスの魅力を発信。選手やファンの五輪に対する考え方も少なからず変わった。
98年冬季長野大会からのスノーボードも同じだ。統括団体同士のゴタゴタもあって、当初はXゲームなどで活躍する多くのトップ選手が出場を拒否。しかし、人気ボーダーのホワイトが「五輪は商業的にも魅力がある」と出場して活躍。多くのトップ選手が後に続き、それが夏季大会のスケートボード、サーフィンの実施にもつながった。
ゴルフやテニス、スケートボードやサーフィンなど、五輪が「最高峰」と言い切れない競技は少なくない。個人で争うプロのツアーとは違って国別の出場枠もあるから、必ずしもすべてのトップ選手が集まるわけでもない。「五輪は不要」の声は相変わらずある。
それでも、世界的な普及を目指す各競技にとっては。五輪の力は大きい。五輪にとっても、人気プロスポーツは集客や視聴率獲得のために重要なコンテンツになる。何よりも選手が五輪に出場して勝つことを目指し、楽しんでいることが大きい。
プロの世界で成功し、富も名誉も手にしている選手たちが、表彰台の上で見せる国を代表するアスリートとしての涙と笑顔。全世界の人たちに「五輪ゴルフ」の魅力を届けたことは間違いない。(荻島 弘一 / Hirokazu Ogishima)
荻島 弘一
1960年生まれ。大学卒業後、日刊スポーツ新聞社に入社。スポーツ部記者としてサッカーや水泳、柔道など五輪競技を担当。同部デスク、出版社編集長を経て、06年から編集委員として現場に復帰する。山下・斉藤時代の柔道から五輪新競技のブレイキンまで、昭和、平成、令和と長年に渡って幅広くスポーツの現場を取材した。
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