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関係者が頭を抱えたスケボー五輪採用 かつて君が代が流れてもお喋りした“子供たち”が世界で通用したワケ

THE ANSWER / 2024年8月7日 19時54分

スケートボード女子パークの表彰台に上がった開心那、アリサ・トルー、スカイ・ブラウン(左から)【写真:ロイター】

■「シン・オリンピックのミカタ」#72 連載「OGGIのオリンピックの沼にハマって」第14回

 スポーツ文化・育成&総合ニュースサイト「THE ANSWER」はパリ五輪期間中、「シン・オリンピックのミカタ」と題した特集を連日展開。これまでの五輪で好評だった「オリンピックのミカタ」をスケールアップさせ、4年に一度のスポーツの祭典だから五輪を観る人も、もっと楽しみ、もっと学べる“新たな見方”をさまざまな角度から伝えていく。「社会の縮図」とも言われるスポーツの魅力や価値の理解が世の中に広がり、スポーツの未来がより明るくなることを願って――。

 今回は連載「OGGIのオリンピックの沼にハマって」。スポーツ新聞社の記者として昭和・平成・令和と、五輪を含めスポーツを40年追い続けた「OGGI」こと荻島弘一氏が“沼”のように深いオリンピックの魅力を独自の視点で連日発信する。

 ◇ ◇ ◇

 初めてストリート日本選手権が行われた都内のパークで、日本ローラースポーツ連盟(現ワールドスケートジャパン)の幹部は頭を抱えながら言った。「開催国として、せめて恥ずかしくない成績を残さないと」。東京五輪での実施が決まり、慌てて日本選手権を開催したのは17年夏、今から7年前のことだった。

 関係者が不安になるのも無理はなかった。小学生も少なくない大会の選手平均年齢は14歳。開会しようにも遊びをやめず、君が代が流れても友だちとのおしゃべりは続く。まるで小中学校の運動会。スーツ姿の大会役員とテレビカメラの放列が、あまりに不似合いだった。

 開催都市提案の追加種目とはいえ、野球・ソフトボールや空手と違って日本側が実施を望んだわけではなかった。サーフィンやスポーツクライミングは前向きだったが、競技の統括を押し付けられた連盟は困惑するばかり。「五輪でスケボーやるなんて無理。絶対に問題が起こるし、すぐに撤退になるよ」と吐き捨てる関係者もいた。

 この年に堀米雄斗は米国に拠点を移したし、中村貴咲や西村碧莉など世界で活躍する選手はいた。しかし、それは一握り。世界選手権はもちろん、オープンな国際大会もない。米国やブラジルなどが強いのは分かっても、日本の世界での立ち位置を知る物差しがなかった。

 もっとも、日本側の心配とは裏腹に、視察した国際連盟の幹部は子どもたちのレベルの高さに驚いていた。「日本のスケーターは素晴らしい。特に女子は世界のトップレベルにある」。ただの社交辞令だと思ったが、すぐにそれが事実だということが分かった。

■「もともと強かった。ただ、世界と戦う場がなかっただけ」

 五輪によって世界への扉が開かれると、日本の「子どもたち」が大活躍した。もともと日本のレベルは高かったが、それを知らないだけだったのだ。日本代表の早川大輔コーチは「以前は力はあっても世界に出られなかった。強くなったわけじゃなく、もともと強かった。ただ、世界と戦う場がなかっただけ」と話した。

 日本の子どもたちの技術が高いのは、年間を通してツアー戦をやるなどコンテストがあるから。もともとストリート(街中)の遊びだが、日本は街中で楽しむ環境には恵まれない。だから、子どもたちをパークに集めて大会を開催する文化が生まれた。大会とはいえ、遊びの延長。ゲーム感覚で自分たちの技を磨いていった。

 ツアー戦が終わると、主催者の一人が1000円札や1万円札を手に声をかける。「ワンメークやるよ!」。大会参加者も応援していた仲間たちも、次々と自慢のトリックに挑み「賞金」を目指す。一番「ヤバい」技を決めた子が「お小遣い」とともに仲間の羨望を浴びてヒーローになる。次の大会ではその技が真似られ、さらに「ヤバい」トリックが生まれる。そんな「ゲーム(遊び?)」の繰り返し。日本にしかない環境のもとで、うまくならないはずはない。

 しかも、日本には男子とともに女子の大会も以前からあった。もともとは「不良の遊び」。海外では「女の子がやる遊びじゃない」という考えが根強かったが、日本は少し違った。女子でも男子と一緒に遊べる環境があったから、日本は女子のレベルが自然と高くなった。小柄で俊敏、同じことを何度でも繰り返せるメンタルなど日本人に合うのも強さの秘密だが、大きなアドバンテージは環境にある。

 スケボーが「追加種目」として行われるのはパリが最後。次のロサンゼルスからは陸上や競泳と同じように「五輪正式競技」となる。スノーボートのようにフラットランドやバート、ビッグエアーなど新たな種目が増える可能性もある。五輪によってスケボーは変わる。

 それでも「遊び」として社会に受け入れられてきた日本。特に女子の強さは、しばらく続くような気がしてならない。(荻島 弘一 / Hirokazu Ogishima)

荻島 弘一
1960年生まれ。大学卒業後、日刊スポーツ新聞社に入社。スポーツ部記者としてサッカーや水泳、柔道など五輪競技を担当。同部デスク、出版社編集長を経て、06年から編集委員として現場に復帰する。山下・斉藤時代の柔道から五輪新競技のブレイキンまで、昭和、平成、令和と長年に渡って幅広くスポーツの現場を取材した。

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