1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. スポーツ
  4. スポーツ総合

選手村に口コミで広がる日本人の技術 世界的に珍しいワザで…海外選手230人と向き合い触れた五輪の裏側

THE ANSWER / 2024年8月8日 13時3分

マーシャル諸島共和国代表の競泳選手をケアする伊藤唯人さん(左)【写真:伊藤唯人さん提供】

■「とにかくみんな体がガチガチでした」オセアニアチームを魅了した日本の手技

 パリ五輪にはスタッフや裏方として海外チームを支える日本人もいる。東京都在住の伊藤唯人さんは、柔道整復師としてオセアニア国内オリンピック委員会(ONOC)のケアを担当。滞在中、約230人の選手やスタッフに施術を行った。選手村のメディカルルームで見たのは、重圧と戦うトップ選手の姿。伊藤さんが思うこととは――。(取材・文=水沼 一夫)

 ◇ ◇ ◇

 伊藤さんはNPO法人オセアニア地区スポーツ支援機構からONOCに派遣され、7月23日にパリ入り。凱旋門近くのホテルに宿泊しながら連日選手村に通い、オセアニアチームのメディカルルームで選手やスタッフのケアを行った。

 ONOCはオセアニアの17の国・地域が加盟。五輪で別行動のオーストラリアとニュージーランドを除いてメディカルルームを共有していた。

 日本特有の柔道整復師は世界的にも珍しい資格と言われている。アスレチックトレーナーや理学療法士と異なり、骨折・脱臼の応急処置として整復もすることができる。メディカルルームには医師や看護師も常駐したが、伊藤さんは午前9時から部屋で待機し、選手のコンディショニングに携わった。

 施術室は6畳ほど。2台のベッドで、もう1人の日本人とともに対応にあたった。オープン後はまだ開会式前ということもあり、なかなか選手に来てもらえなかったというが、技術はすぐに評判になった。「口コミで広まってどんどん人数が増えていきました」。キャリアは4年目で、「手技はわりと得意」という伊藤さん。国内ではトップアスリートの施術経験を持つものの、五輪の帯同は初めてだった。

 施術を始めると、まず実感したのは日本の選手との違いだった。

「とにかくみんな体がガチガチでした。全身の人もいるし、局所的に硬くなっている人もいる。基本触ると全部硬かったです」

 太平洋に散在する小さな島国では、日常的にストレッチやマッサージをする習慣がない。入念にもみほぐし、試合への準備をサポートした。

 柔道に出場したグアムの選手は首の痛みと腕の痺れがあり、伊藤さんを頼ってきた。また、トライアスロンに出場した選手はバイクの途中で落車。軽い脳震盪を起こし、首を負傷した。処置が終わると、「首の動きが良くなった」と笑顔に。担当した選手が好成績を出したり、パーソナルベストを更新したりすると、仕事が報われる思いがした。

 気づいたことがもう一つ。マッサージを受けることができる施術室は、選手にとって安らぎの空間でもある。しかし、選手に体調を聞くと、返ってくるのは「なんか緊張する」という言葉だった。

「『普段は緊張しない』と言っている選手も緊張している選手が多かったです。やっぱり会場の独特の雰囲気だったり、4年に一度の大会で国を背負うプレッシャーがあると感じました」

 どんなに準備していても、母国の期待が入り混じり、人知れず重圧と格闘していた。「トップの選手になればなるほど、繊細な人が多い印象」。伊藤さんは日本での経験をもとに、英語で「good luck」と言ったり、応援の言葉をかけて和ませた。


選手村のオセアニアチームのエリアに掲示されたセーフスペースの案内【写真:伊藤唯人さん提供】

■重圧と闘う選手たち、誹謗中傷がメンタル面に与えるダメージは“世界共通”

 今大会はネット上での誹謗中傷がたびたび問題となった。日本オリンピック委員会(JOC)は1日、書面で注意喚起し、選手の人権保護を呼びかけた。侮辱、脅迫などの行き過ぎた内容には、法的措置も検討する構えを示した。

 それは、海外でも同じ状況だと伊藤さんは語る。「選手村にはメンタルケアのスタッフもいて、その案内がオセアニアのところにも掲示されていた。不安を抱えている選手はたくさんいます。今大会で写真の規制が強化されたのも、SNSにアップすると加工されて出回ってしまうから。選手のメンタル面への影響を含めての対応だと思います」と続け、配慮の必要性を訴えた。

 今後は五輪で得たことを国内で還元していく。ケアの場において、言葉の使い方、意思疎通の大切さも身を持って学んだ。

「伝えたい言葉が通じない。日本に帰っても、簡単な言葉で通じるように意識しないといけないと思いました。今回オセアニアに初めて帯同させてもらって、(7人制)ラグビー以外は競技レベルは高くない国がほとんどなのですが、頑張っている選手が多かった。貴重な経験をさせていただきました」

 スポーツだけでなく、地震や災害現場でも必要とされる柔道整復師。再び技術を生かせるように、伊藤さんは腕を磨いていく。(THE ANSWER編集部 / クロスメディアチーム)

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください