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「オリンピック貴族が潤うためではいけない」 平和思想を担う五輪で考えるべき商業主義と勝利至上主義

THE ANSWER / 2024年8月9日 10時45分

オリンピックムーブメントと普遍的価値について考える【写真:Getty Images】

■「シン・オリンピックのミカタ」#78 改めて考えるオリンピックの歴史と意義・第3回

 スポーツ文化・育成&総合ニュースサイト「THE ANSWER」はパリ五輪期間中、「シン・オリンピックのミカタ」と題した特集を連日展開。これまでの五輪で好評だった「オリンピックのミカタ」をスケールアップさせ、4年に一度のスポーツの祭典だから五輪を観る人も、もっと楽しみ、もっと学べる“新たな見方”をさまざまな角度から伝えていく。「社会の縮図」とも言われるスポーツの魅力や価値の理解が世の中に広がり、スポーツの未来がより明るくなることを願って――。

 オリンピックは言うまでもなく、単にメダルを争うスポーツの競技会ではない。オリンピック憲章によればオリンピズムとは「肉体と意志と精神のすべての資質を高め、バランスよく結合させる生き方の哲学」であり、「スポーツを文化、教育と融合させ、生き方の創造を探求するもの」である。その目的は「人間の尊厳の保持に重きを置く平和な社会の推進を目指すために、人類の調和のとれた発展にスポーツを役立てること」。パリオリンピック開催中の今だからこそあらためてオリンピックの歴史を学び、オリンピックの意義をあらためて噛みしめたい。

「オリンピックは平和の祭典」などオリンピックに関する多数の著作を持ち、オリンピック研究として知られる東京都立大・武蔵野大客員教授の舛本直文さんにインタビューした。最終回のテーマは、オリンピックムーブメントと普遍的価値について――。(全3回の第3回、取材・文=二宮 寿朗)

 ◇ ◇ ◇

――オリンピズムを世界に広めていく活動が、すなわちオリンピックムーブメントです。その点において今回のパリオリンピックをどのように見ていますか?

「パリオリンピックは『開かれた大会』をコンセプトにして競技会場の多くをスタジアム外にし、開会式もセーヌ川で行う、と。オリンピック憲章では開会式はスタジアム内でやると明記していますから、国際オリンピック委員会(IOC)総会でこの項目を今回改定しています。ただテロのセキュリティの関係上仕方ないとしても、当初案から半減の約30万人の観客ということに制限しました。このことを含めてパリ市民にとって本当に『開かれた大会』なのかどうかという疑問はあります。セーヌ川の水質問題もそうですが、オリンピックを機に環境改善につながっていけばいいとは思いますが。

 スポーツ、文化、環境がオリンピックムーブメントの三本柱。1994年のIOC創立100周年記念のコングレスにおいて、環境に負荷を掛けない、サステナブルな大会にしていこうとなり、環境改善にスポーツ界も取り組んでいこう、と。パリが取り立てて新しい取り組みを行っているわけではありませんが、選手村にエアコンを設置しないというのも環境対策の一つ。ただ、自前で持ち込めるなら意味がない。資金力のある国はできて、資金力のない国はできないというならフェアでありませんよね」

――近年、オリンピックムーブメントとSDGsが重なっていくような印象を持ちますが、いかがでしょうか?

「貧困をなくそう、飢餓をゼロに、人や国の不平等をなくそう、などと人間が幸せに生活していくにはどうしたらいいかという17に及ぶ大きな目標ですよね。その一つに平和も掲げてあって、これは“積極的平和”と呼んでいいでしょう、ただ単に環境という取り上げ方よりはSDGsとして活動していくほうが、もっと幅広い取り組みができ、かつ意義深いオリンピックムーブメントになるように感じます」

――今回のパリでも、スポーツを通じた平和を願う「休戦の壁画」が選手村に設置されています。

「やはりアスリートのみなさんがオリンピズムを理解し、休戦の壁画に一人ひとりがどんなメッセージを書き、どう発信していくかが大切だと思いますね。競技に向けて自分のコンディションを合わせていくのはもちろん重要ですが、同様に選手村でほかの国のアスリートと交流していくことも大切ですから。試合では全力を尽くすエクセレンス、相手選手を尊重するリスペクト、競技を終えた後のフレンドシップ。これらの3つはオリンピックの価値と呼ばれ、はオリンピズムの平和思想における根本的なあり方であり、こういったものをバランスよく身につけておくことで国際平和につなげようというところに結びついていくと考えます」

■改めて考える商業主義と勝利至上主義

――5大陸をつなぐ国際聖火リレーの復活は、今回もありませんでしたね。

「2004年のアテネ大会で初めて実施され、大成功を収めましたよね。翌2008年の北京大会では私も採火式のリハーサルを見ることができました。古代ギリシャの巫女に扮した女優が太陽神アポロンに祈りを捧げ、“世界の人々に平和を伝えよ”と大陸を回って平和メッセージを伝えていくよう願います。ただ、国際聖火リレーが出発した矢先、オリンピア市と姉妹都市の提携関係にある愛知県稲沢市の中学生たちが走っていたところ、中国政府に抗議して『フリー・チベット』を叫ぶ人たちが妨害する場面に出くわしました。国際聖火リレーでは、世界各地でこのような混乱が起こったため、IOCはその後“国内ルートを推奨する”と決定を下して、止めてしまいます。とても残念でしたし、オリンピックムーブメントにおいても非常に意義深いものだと思うので、いずれ再開してもらいたいですね」

――舛本さんには「オリンピックと平和」をベースに話をうかがってきました。最後に、現代オリンピックからのぞく側面についてお聞きしたいと思います。まず今の商業主義についてはどのように感じていますか。

「スポーツに限らず大きなイベントをやるにはお金が掛かりますよね。ですからお金を全否定しているわけではありません。要は、IOCが集めたものを誰のために使うかを見ていく必要があるでしょう。使うべきは選手のため、競技のため、あるいはSDGsを支援していくため。決してオリンピック貴族が潤うためであってはいけない。私の意見としてはたとえばオリンピックに資金を出すスポンサーも、SDGsのこの目的で使ってほしいなどと“ひも付き金”すればどうか。どう使うかというところは詰めていく必要があるでしょうね」

――ドーピングなど勝利至上主義における負の部分も問題として挙げられます。

「勝利主義と、勝利至上主義は違います。勝利主義は、フェアプレーのもとに勝利を目指す主義。一方の勝利至上主義は、アンフェアな行為をやってでも何としてでも勝とうとする行き過ぎたものです。フェアプレーの精神のもとに競技するという精神を失ってはいけません。勝利至上主義というものはオリンピズムに反したものです」

――これからのオリンピックはどうあるべきだと考えますか?

「アテネの恒久開催がいいとは思いますが、開催国側の視点に立てばいかに負荷が掛からない大会運営ができるかでしょうね。また選手側の視点に立てば、オリンピズムを正しく理解して行動していただきたい。勝つことを目指すだけなら世界選手権とそう変わらない。選手村に入って交流する、オリンピック休戦の壁画にきちんとメッセージを残していく、そして試合ではフェアプレーの精神をもとに、エクセレンス、リスペクト、フレンドシップというオリンピックの価値を大切にする。選手に対するオリンピック教育もしっかりやっていくべきだと考えます」

(終わり)(二宮 寿朗 / Toshio Ninomiya)

二宮 寿朗
1972年生まれ、愛媛県出身。日本大学法学部卒業後、スポーツニッポン新聞社に入社。2006年に退社後、「Number」編集部を経て独立した。サッカーをはじめ格闘技やボクシング、ラグビーなどを追い、インタビューでは取材対象者と信頼関係を築きながら内面に鋭く迫る。著書に『松田直樹を忘れない』(三栄書房)などがある。

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