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「五輪はいつの時代も政治利用され続ける」 避けられぬ負の歴史に聖地アテネで“恒久開催”のアイデア

THE ANSWER / 2024年8月9日 10時44分

パリ五輪の採火式が行われたアテネ、この地で恒久開催をするべきか【写真:Getty Images】

■「シン・オリンピックのミカタ」#77 改めて考えるオリンピックの歴史と意義・第2回

 スポーツ文化・育成&総合ニュースサイト「THE ANSWER」はパリ五輪期間中、「シン・オリンピックのミカタ」と題した特集を連日展開。これまでの五輪で好評だった「オリンピックのミカタ」をスケールアップさせ、4年に一度のスポーツの祭典だから五輪を観る人も、もっと楽しみ、もっと学べる“新たな見方”をさまざまな角度から伝えていく。「社会の縮図」とも言われるスポーツの魅力や価値の理解が世の中に広がり、スポーツの未来がより明るくなることを願って――。

 オリンピックは言うまでもなく、単にメダルを争うスポーツの競技会ではない。五輪憲章によればオリンピズムとは「肉体と意志と精神のすべての資質を高め、バランスよく結合させる生き方の哲学」であり、「スポーツを文化、教育と融合させ、生き方の創造を探求するもの」である。その目的は「人間の尊厳の保持に重きを置く平和な社会の推進を目指すために、人類の調和のとれた発展にスポーツを役立てること」。パリオリンピック開催中の今だからこそあらためてオリンピックの歴史を学び、五輪の意義をあらためて噛みしめたい。

「オリンピックは平和の祭典」など五輪に関する多数の著作を持ち、五輪研究者として知られる東京都立大・武蔵野大客員教授の舛本直文さんにインタビューした。第2回のテーマはオリンピックの政治利用について――。(全3回の第2回、取材・文=二宮 寿朗)

 ◇ ◇ ◇

――ナチス政権下において開催された1936年のベルリンオリンピック。まさにオリンピックが政治利用された悪例ともなりました。

「オリンピックにおける負の歴史だと思います。パトリオティズム、つまりは愛国心を高めて国内を統合する一方で、我々の民族は優秀だというようなナショナリズムを世界に発信していく。その好機としてナチスは一大スポーツイベントを利用したわけです。これはアドルフ・ヒトラーのアイデアではなく、宣伝相のヨーゼフ・ゲッペルスのアイデアだったとは思いますね。のちに米ソ冷戦において1980年のモスクワ、1984年のロサンゼルスではボイコット合戦も起こります。オリンピックが政治家から利用されるというのは負の流れであるとともに、当然の流れと言っていいのかもしれません。いつの時代も政治家たちは、オリンピック開催を絶好のチャンスだと思っているわけですから」

――米ソの冷戦時代に入っていた1952年のヘルシンキオリンピックは、選手村が東西陣営で分かれるという措置が取られました。そういった分断はあったにせよ、ソ連も参加して「平和の祭典」の形が一応整ったとも言えます。

「オリンピックは平和希求運動だと理解すべきなんですね。平和が実現してないから、何とかみんなで努力しましょうよというメッセージを発する好機として、ということです。休戦は国連総会で決議したからといってすぐ実現するとも限らないし、そもそも国連総会決議には拘束力はありません。オリンピックを世界平和に向けて考えるきっかけにするということ。大会期間中の1か月間、休戦したらいろんな対話も起きるかもしれない。そういう願いですよね。

 ただし、それはあくまで理想。ロシアによるウクライナに対する軍事侵攻においてロシアのウラジーミル・プーチンにしても、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキーにしても今回のオリンピック期間中の休戦反対を明言しました。そんなことをしていたら、相手を利するだけだと。現実の立場に置かれた人々の素直な考え方だろうと思います。理想と現実のギャップはあるにしても、平和へ向けた対話あるいはきっかけの一つとして、何とかオリンピックを使えないかということですね」

■政治利用されないために「アテネの恒久開催にすればいい」

――政治に利用されないためにはどうすればいいと舛本さんは考えますか?

「いつの時代であっても、利用され続けるだろうとは思います。ただ一つ私のほうからアイデアを出すとすれば現在の持ち回り開催制度を止めて、聖地であるアテネの恒久開催にすればいい。そうすれば政治利用されることもない。スタジアム、アリーナといった運動施設は国際オリンピック委員会(IOC)のトップスポンサーによるネーミングライツなどで運営して、大会期間中以外はギリシャ国民が無料で使えるようにする。ただ開催時期は真夏からズラしたほうがいい。

 冬季オリンピックも、IOCのお膝元であるローザンヌでの恒久開催にすればいい。冬は広域開催せざるを得ないので、スイス、フランスにまたがって雪上競技、氷上競技を別々にやるほうがいいのではないでしょうか。一方で(15~18歳を参加対象とする)ユースオリンピックこそ世界を回っていく必要があると考えます。若い人たちがオリンピズムを理解し、それを世界各国に広めていくことになると思いますから。

 北海道の4市(旭川、富良野、名寄、士別)が2028年冬季ユースオリンピックの招致を検討しているという報道がありました。ただ個人的な意見を申せば、オリンピズムの観点からも夏冬通じて初めて日本にユースオリンピックを招致するなら、やはり広島か長崎でやるべきだとは思いますね。世界の若者たちに広島平和記念資料館、長崎原爆資料館に足を運んでもらえれば、平和希求運動としてははるかにインパクトがありますから」

――さて、今回のパリオリンピックに目を移すとロシア、ベラルーシの選手はIOCから個人資格の中立選手(AIN)という立場での出場になっています。

「2022年の北京冬季オリンピックでは組織的なドーピング違反による処分としてロシアの国内オリンピック委員会(NOC)であるロシアオリンピック委員会(ROC)での参加になりました。その後、ロシアのウクライナに対する軍事侵攻により、北京のパラリンピックでは出場禁止に。さらにROCは不法に併合するウクライナ東部4州のNOC組織を組み込んだため、IOCはガバナンス違反により資格停止にしました。パリ大会のAINとしての出場は、軍事侵攻ではなく、あくまでガバナンス違反というのがIOCの見解です。ならば(ガバナンス違反ではない)ベラルーシを締め出す理由は何かとなると、私が知る限りIOCはその根拠を示していませんよね」

――また、イスラエルとガザ地区を支配するイスラム組織ハマスの衝突において、パレスチナオリンピック委員会はイスラエルのガザ地区への民間人を含めた攻撃は国際人道法違反であるとして排除を要請したものの、IOCは拒否する姿勢を取りました。

「IOCの主張としては、世界の紛争地域は国連によれば規模の大小を問わず毎年70ほどあって、(イスラエルとハマスの衝突は)その一つであるこということ。イスラエルを締め出すなら、他の当事国も同様にしなきゃいけないと、逃げを打つようなスタンスなのです。民間人の被害者がこれほどまでに出ており、IOCの姿勢はダブルスタンダードだと各方面から批判を受けています」

――ロシアは自らが主導してスポーツの国際大会「フレンドシップ・ゲームズ」を開催する意向だと報じられています。今年9月から来年に延期される方向だとか。IOCはスポーツの政治利用だと批判している、と。

「フレンドシップ・ゲームズについてはかなり危惧しています。IOCを中心としたヨーロッパ主義的なオリンピックムーブメントと、それに対抗するロシアを中心にした勢力が広がっていけば世界の分断が促進されかねない。これからどのように展開していくか注視しなくてはなりません」

(第3回に続く)(二宮 寿朗 / Toshio Ninomiya)

二宮 寿朗
1972年生まれ、愛媛県出身。日本大学法学部卒業後、スポーツニッポン新聞社に入社。2006年に退社後、「Number」編集部を経て独立した。サッカーをはじめ格闘技やボクシング、ラグビーなどを追い、インタビューでは取材対象者と信頼関係を築きながら内面に鋭く迫る。著書に『松田直樹を忘れない』(三栄書房)などがある。

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