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不評続く選手村の食事の裏側 “残り物100%回収”など約束する組織委、アスリートと環境への配慮の両立に課題

THE ANSWER / 2024年8月9日 11時44分

選手村の食事から見えるオリンピックと食の課題とは【写真:Getty Images】

■「シン・オリンピックのミカタ」#80 オリンピックを通して考えるスポーツと食・後編

 スポーツ文化・育成&総合ニュースサイト「THE ANSWER」はパリ五輪期間中、「シン・オリンピックのミカタ」と題した特集を連日展開。これまでの五輪で好評だった「オリンピックのミカタ」をスケールアップさせ、大のスポーツファンも、4年に一度だけスポーツを観る人も、五輪をもっと楽しみ、もっと学べる“見方”をさまざまな角度から伝えていく。「社会の縮図」とも言われるスポーツの魅力や価値が社会に根付き、スポーツの未来がより明るくなることを願って――。

 今回はサッカー・Jリーグやラグビー・リーグワンのクラブを担当し、「THE ANSWER」で食事・栄養に関する連載を担当している公認スポーツ栄養士・橋本玲子氏とともにオリンピックを通して食の課題を考える。後編ではパリ五輪の組織委員会がフード・ヴィジョンに関して打ち出した6つのコミットメントから、アスリートのパフォーマンスと地球環境の配慮への課題が浮かび上がる。(前後編の後編、取材・構成=長島 恭子)

 ◇ ◇ ◇

 4年に1度のオリンピックは、スポーツ栄養にとっても非常に重要な大会です。というのも、スポーツや社会、経済などあらゆる面で影響を及ぼす世界最大規模のイベントで提供される食事は、今後、スポーツの世界におけるスタンダードな食事の考え方になるからです。

 実はスポーツ栄養の歴史は浅く、盛んになったのは1980年代。元々は、「競技力向上のために何をどのように摂取すべきか」を解決するための、運動生理学の研究学問として始まりました。

 そのきっかけとなったのが、1984年のロサンゼルス五輪です。

 それまでのオリンピックの食事は、たんぱく質や脂っこいメニューが多く、科学的根拠に基づいた食事や文化的、宗教的配慮はほとんど行われていませんでした。そこで、大会前、海外のスポーツ栄養に携わる栄養士等が中心となり、アスリートに適した基本的なメニューを確立する目的で、非公式で選手村の食堂のメニューについての調査を実施。これにより、栄養の重要性が認知され始めました。

 続く92年のバルセロナ大会ではオリンピック史上初めて、選手村で提供される食事メニューに栄養表示がされるようになります。96年のアトランタでは、選手たちが気軽に栄養相談が出来る「Nutrition Information Center」というブースを設置。そして2000年のシドニーでは選手村で提供されるメニューに関する、初の栄養学的研究プロジェトが行われ、メニューの見直しや分析、選手からのヒアリングなどを基に、アスリートの栄養、文化的、宗教的ニーズに即したメニューが確立されます。

■今大会掲げられた6つのコミットメントの中身

 次の転換期は、12年のロンドン大会です。大会組織委員会は飲食の提供に関する指針をまとめた「フード・ヴィジョン」を策定します。

 ロンドン大会のフード・ヴィジョンで新しかったのは、「持続可能性を『食』の側面からどのように実現するのか」という社会への配慮を打ち出したことです。

 例えば、大会期間中に提供する飲食物は、高基準で環境に配慮した地域産又は旬の食材を使用する。食器類や食品包装は再使用又はリサイクル可能なものを使用し、CO2排出量を最小限にとどめるなど。それまで、「アスリートたちのパフォーマンス向上のために何を提供するのか」という栄養面にフォーカスされてきたオリンピックの食が、提供する食事が環境や社会にどのような影響を与えるのか、という視点を持って語られるようになりました。

 ロンドン大会で誕生したフード・ヴィジョンは、2021年の東京大会、そして今回のパリオリンピック及びパラリンピックにも引き継がれています。

 今大会では「すべての人が環境や社会に対する責任を果たしながらも、美味しく食べることを目指す」というテーマの下、組織委員会は以下の6つのコミットメントを掲げました。

<1>4週間の大会期間中に、提供される1300万食(※)の平均二酸化炭素排出量を半減させる。
<2>使い捨てプラスチックを半減させる
<3>すべての食材はサステナビリティ認証食材を使用する
<4>消費されなかった資源を100%回収する
<5>すべてのケータリング設備を再利用する
<6>ケータリングの仕事の10%(選手村では15%)は、障がい者や恵まれない背景を持つ人々の雇用を確保する

 ※観客用のスナック、スタッフとボランティア用、競技者用、メディア用、ホスピタリティ用、オリンピック・パラリンピックコミュニティ用の食事を含む

 提供される食事の内容は、1~3の公約に沿って、フードマイレージを低くする国産の食材を使用します。その結果、食材の80%がフランス産、また食材の30%が有機栽培または有機栽培に移行中の農産物を使用。動物性たんぱく質や揚げ物を減らし、野菜や果物、豆類、全粒穀物を増やしました。

 また、大会期間中、選手村ではフランス料理、アジア、ワールド、アフリカ&地中海の4カテゴリーにハラールのオプション、計500種類のメニューの提供を決めます。

■選手のパフォーマンス発揮を大前提に地球環境に配慮した食事を考える必要性

 実は大会前、IOCからは「9つのテーマで1000種類のメニューを出してほしい」という要求があったそうですが、今大会では最終的に品数約半分に減らしたことになります。そうなった理由は恐らく、フード・ヴィジョンの公約に基づき、出来るだけ無駄を出さないための配慮からではないかと推測します。

 しかし、環境によい食事と、パフォーマンスの向上につながる食事というのは、同一線上で語れる話ではありません。例えば、動物性たんぱく質のメニューが減ったことへの影響。ベジタリアンやビーガン料理では力が出ない、口に合わないという選手もいると思います。

 安全かつ美味しく、栄養に配慮した食事を用意することは基本。さらに、食文化や嗜好の異なる選手たちが集まる国際大会で、だれもが安心して食べられるものを揃えることは最低限の準備だと思います。食べ慣れたものが適切なタイミングで手に入らない状況は、不安やストレスの要因となり、体重コントロールが思うように出来ず、心身ともによいコンディションを維持することを難しくします。

 大会も後半になりましたが、SNSや各国のニュースを通して聞かれる選手村の食事に対する反応は、「必要なたんぱく源が足りない」「メニューの選択肢が少ない」「自分たちで用意したものを食べた」という声が多く、今のところ芳しくありません。

 その影響なのか、フードセクションの担当者はテレビのインタビューで、「今大会は様々な面で環境に配慮している。これをきっかけに世界中の人たちに環境のために出来ることを考え、実践してほしい」とコメントをしました。

 スポーツ界として、オリンピックという場で地球環境に配慮した食事を模索し、世界に示すことは非常に意義があります。

 しかし、スポーツの大会である以上、「環境に配慮しながらいかに選手たちがパフォーマンスを発揮できる食事を提供するか?」という姿勢は大前提であると考えます。

 現在、選手村ではアスリートたちの要望に可能な限り応える努力をしているようですが、この日のために努力を積み重ねてきたアスリートたちが全力を発揮できるよう、メニューの改善等、今できる対応に努めて欲しいと思います。そして、今大会の食事を単においしい・おいしくないで片づけるのではなく、パフォーマンスと環境の両面から食について考えるレッスンにしなければならないのだと思います。(長島 恭子 / Kyoko Nagashima)

長島 恭子
編集・ライター。サッカー専門誌を経てフリーランスに。インタビュー記事、健康・ダイエット・トレーニング記事を軸に雑誌、書籍、会員誌で編集・執筆を行う。担当書籍に『世界一やせる走り方』『世界一伸びるストレッチ』(中野ジェームズ修一著)など。

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