1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. スポーツ
  4. 野球

プロを「クビになった僕」が“優勝請負人”に 元オリ武田健吾、30歳の今も社会人野球で続く進化

THE ANSWER / 2024年8月20日 7時13分

準決勝でダメ押し弾を放ち、武田は雄たけびを上げながらダイヤモンドを1周【写真:羽鳥慶太】

■社会人入り3年目、ついに味わった歓喜に号泣

 社会人野球の頂点を決める都市対抗野球は7月30日、東京ドームで決勝戦を行い、三菱重工East(横浜市)が初優勝を飾った。このチームの「5番・中堅」として、日本一に大きく貢献したのが武田健吾外野手だ。元々は、オリックスと中日で計9年間プレーしたプロ野球選手。それが社会人野球の世界に来て3年目で、念願のタイトルをつかんだ。本人の言葉を借りれば「クビになった僕」はなぜ、今もうまくなり続けることができているのか。30歳を迎えた武田に、変身の秘密を聞いた。

 JR東日本東北(仙台市)との決勝戦、9回2死から最後の打球は、中堅を守る武田に向かって飛んできた。フライを大事につかむと、大きく両手を上げてガッツポーズ。マウンドにチームメートが集まる中、外野手は武田のもとに3人が集合。人知れず喜びをかみしめた。

「守っていて、最後飛んできそうだなというのはあったんです。去年はベスト8で終わった悔しさと、チームで全員野球を掲げる中で副キャプテンにしてもらったのもあったので、感情が出てしまって……」。整列に戻り、ウイニングボールを佐伯功監督に渡すまで、涙があふれ顔はぐちゃぐちゃ。それほど願い続けた勝利だった。

 武田個人にとっては2回目の頂点だ。前回は中日を自由契約になり、三菱East入りした2022年。チームは予選で敗れたものの、同じ地区から選手を補強できる大会独特の制度で強豪ENEOSに加わり、頂点に立った。「あの時はみんなについていった感じで。プレッシャーをかけながらも楽しんでましたね」。社会人野球に飛び込み、いきなりの優勝はもちろんうれしかった。プレーの上でも大きなヒントを得た。一方で、自分のチームで勝ちたいという思いがより強くなった。

「クビになった僕を拾っていただいたので……。一番はまた野球ができるんだという思いでしたから。都市対抗で恩返しするしかないと思っていました」


今年からは副主将。チームを代表しトロフィーを受け取る武田【写真:羽鳥慶太】

■プロでは守備の人…今年打撃で感じた「初めての感覚」

 プロ野球時代とはプレースタイルも大きく変わった。大舞台を駆ける喜びなのかもしれない。都市対抗野球では、この世界でキャリアを重ねてきたベテランも感情をむき出しにする。そんな空気感が合った。

「周りのプレーを目にすると自分もノってくるというか、オラーッと叫んだり。プロではあまりやらなかったんですけど、30を過ぎたおじさんが雄叫び上げてて、カッコいいなと。今はむちゃくちゃ好きですね」。そして、プレーの中身でも日々、新たな自分を発見できているという。

「社会人に来てから、年々バッティングには手ごたえが出てきているんです。今が一番いい状態というか。でももっともっと進化したいな、できるなとも思っていて……」。

 東京ガスとの準決勝、3-1とリードした8回に放ったダメ押し弾はその結晶だった。カットボールにバットを合わせると、打球は右翼席の中段まで飛んだ。「初めて打ったくらいの感覚でした。これまであっちの方向に飛ぶことはなかったんですが、打感も打球も入ったなという手ごたえがあったんです」。逆方向に自分でも驚く打球が飛んだ。思わず飛び跳ねながら、右手を突き上げダイヤモンドを一周した。

 プロでの武田は守備の人だった。オリックスでレギュラーをつかみかけた年もあったが、通算403試合出場で打席は530しかない。高い身体能力を生かした好守は今も大きな武器で、この大会でも何度も投手を救った。それが打撃でも“優勝請負人”のような働きを見せられているのは、これまで本格的に取り組むことがなかったウエートトレーニングの成果だという。


ついに自チームで味わった優勝。武田はメダルとトロフィーを手に笑顔【写真:羽鳥慶太】

■戦力外になって考えた「何かを変えないとそのまま」

「何かを変えないとそのままじゃないですか。三菱ではみんな、すごくウエートをするんです。僕もイチから変えてやろうと思って」。効果はパワーアップだけではない。体のキレが増し、ボールをより引き付けて打てるようになった。対応力が増すと、凡退の内容も変わった。

 プロでも打撃が課題だと頭にはあった。ただ取り組みとしては「マシンをたくさん打とうとか、そんな感じでした」と、技術にばかり目が向いていたという。その土台となる肉体の改造に思い至ったのは、年に2回の全国大会とその予選に向けてピークを作っていく社会人野球のカレンダーが性に合ったからだ。「プロでは毎日が、勝たないといけない試合です。そんな中でトレーニングに力を入れて、体を張らせるわけにはいかないという考えもありました」と、当時の苦悩を口にする。

 プロアマの関係改善もあり、プロ野球を去った武田のような選手が社会人野球に飛び込むのはもはや珍しくなくなった。今大会でも、昨年までは巨人のスカウトだった桜井俊貴投手(ミキハウス)や、阪神でプレーしていた北條史也内野手(三菱重工West)が話題を集めた。今後も続く選手が現れるはずだ。

「僕はこれからの選手にも社会人野球を勧めたいと思っています。プロにはなかった面白さもありますし、もっと来てほしいなと」

 プロを離れてからも、野球がうまくなれる場所があるのが日本野球の深み。実は晩成型だったのかもしれない武田の歩みは、そんなことを思わせてくれる。(THE ANSWER編集部・羽鳥 慶太 / Keita Hatori)

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください