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40歳シーズンで果たした“NPBデビュー” 不惑のレジェンドが一塁ヘッスラを敢行する理由「年齢は関係ない」

THE ANSWER / 2024年8月23日 7時13分

一塁へ迷わずヘッドスライディングを敢行、内野安打をもぎ取った稲葉【写真:羽鳥慶太】

■オイシックス・稲葉大樹、18年目の40歳が初めて触れたNPBの世界

 40歳を迎えるシーズンに初めて、憧れのプロ野球選手に――。そんなマンガのような野球人生を送っている選手がいる。今季からNPBの2軍イースタン・リーグに参加しているオイシックスの稲葉大樹内野手だ。昨季まで独立リーグで17年間、NPB入りを目指しプレーしてきた。チームがNPB2軍に“昇格”した今季も現役で迎え、8月22日には40歳に。夢の世界に飛び込んで何を感じているのか聞いてみた。(取材、文=THE ANSWER編集部 羽鳥慶太)

 8月17日、蒸し暑いベルーナドームで行われた西武戦。兼任コーチの稲葉は途中まで1塁コーチャーとしてグラウンドに立っていたが、試合中盤に姿を消した。バットを握って打席に向かったのは、3-7と劣勢の7回。先頭で代打として出場すると、一塁線へ強烈な当たりを放った。ためらうことなくヘッドスライディングで一塁に飛び込み、内野安打をもぎ取った。

「闘争本能が出たんじゃないですかね」と笑う稲葉に年齢のことを聞くと、何ともすがすがしい答えが返ってくる。

「ヒットにしたい、塁に出たいというのに年齢は関係ないです。春の段階で橋上(秀樹)監督に『ファームにベテランも若手もないから』と言われていますから。そりゃ、NPBで実績のある選手は違うのかもしれませんけど、僕なんかは日本の野球界になんとかくらい付いていっている選手。ヒットを打ちたい、出塁したいという思いは若い選手と変わりませんよ」

 稲葉は2007年から昨季まで、独立のBCリーグに所属していた新潟でプレーを続けてきた。兼任コーチとなってからのキャリアも10年に及ぶ。NPBが2軍への新規参加球団を公募し、そこに新潟も手を挙げた時は胸が高鳴った。

「ずっと独立リーグでやってきて、ついにNPBでできるチャンスが来た。僕からしたら信じられない、夢のような動きでした。やっぱり小さなころからの夢でしたから」


稲葉は独立リーグでレジェンド級の打撃成績を残してきた【写真:羽鳥慶太】

■20歳に翻弄され感じた不安「このレベルでできるのかな?」

 そして今季は、遠征に連れて行ける選手数が限られるチーム事情から、本拠地での試合を中心に出場してきた。初めて戦うNPBのシーズン、試合数は独立リーグの倍近い。季節が進むとともに、若い選手と同じ驚きを感じながらのシーズンだ。

「1軍の夢はかなわないかもしれないけれど、ここにいさせてもらえた感謝が、僕が今でもプレーを続ける原動力です」

 開幕前の3月、日本ハムの本拠地エスコンフィールドで行われた教育リーグ。稲葉は6回に代打で打席に立った。マウンドには、後に支配下登録されることになる福島蓮投手。この時点ではまだ20歳の右腕に、挑む世界の奥深さを突きつけられた。

「真ん中に150キロが来て、フォークもありました。あっという間に三振です。『このレベルでできるのかな?』と思い知らされましたね」と苦笑いする一方で、40歳になっても自身の課題に気づき、克服を目指せるのは幸せでしかないことも知っている。

「だから死に物狂いですよ。どんな形でも“H”のランプがついてくれればいい。年齢もあるんでしょうけど、みんな速いボールで攻めてきます。それをどう打ち返すかが今の課題です」

 世間のおじさんと同じハードルも感じている。「若いころと比べて、試合の前にやることが増えました。ヤクルトの石川(雅規)さんも言っていましたが、自分の時間がないくらい準備に時間をかけないと、本当に動けない。朝起きてストレッチして、関節を一つ一つ動かしてという感じです。他にも交代浴とか。疲労を抜く努力をしないと、体をあてにできないんです」。肉体を“起動させる”ための徹底的な準備は、若いころと変わった点だ。


体を思うように動かすため、徹底的な準備を怠らない【写真:羽鳥慶太】

■独立リーグで残した大記録…積み重ねて目指す1000安打

 重ねた年齢が、さまざまな意味で立ちふさがることがある。だからこそ、ここまで現役を続けられたことへの感謝は強い。「いつ切られてもおかしくなかったと思うんです。周りの人、球団の人がここまで残してくれたことに感謝しかない。僕の年齢では、ふつうこのレベルで野球をできません」。稲葉はBCリーグでまさに“レジェンド”と言える成績を残してきた。

 昨季までの17年で、通算933試合に出場し958安打。年間の試合が70試合ほどという、NPBのちょうど半分の規模のリーグでは、まさに大記録だ。

 参加するリーグが変わったことで、稲葉がこれから重ねる通算安打は2つのリーグにまたがった“参考記録”となる。それでも残り34本まで迫った「1000」は譲れない。同学年で、今も群馬に在籍する井野口祐介が、史上初のBCリーグ通算1000本安打を達成したのも、心を奮い立たせる原動力となっている。

 稲葉の打力は、独立リーグでは突き抜けていた。2011年には72試合で100安打、打率.370を残して首位打者とMVP。それでもNPBからのお呼びはかからなかった。「やっぱり、実力がなかったんですよ。走攻守でどうしても波があった。あと、何か一つ突き抜けないと」。2軍とはいえ、NPBの選手と当たり続ける今季。自分に足りなかったものも見えてくる。

 橋上秀樹監督にとって、稲葉は安田学園高(東京)の後輩でもある。2011年に、初めてこのチームの指揮を執ったときと比べ「丸くなった感じはするかな。性格も体も」と笑いながら、チームに与える影響の大きさを口にする。

「独立で、ずっといつかはNPBと思ってやってきた選手。ここでやらせてもらえることへの思い入れは、稲葉が一番強いんじゃないかな。自分の集大成だと思ってやっていると思いますよ」

 記録に挑める喜びと、チームへの感謝を胸に打席に立つ。「レベルが上がった投手と当たって、残り30何本は大変ですよ。1打席が本当に大切」。絞り出す言葉に重みと、喜びがにじむ。(THE ANSWER編集部・羽鳥 慶太 / Keita Hatori)

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