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14歳で金メダル、突然の喧騒に「何が面白いの?」 今、10代半ばで活躍する五輪アスリートに「伝えたいのは…」――競泳・岩崎恭子

THE ANSWER / 2024年8月24日 11時43分

当時14歳でバルセロナ五輪金メダルを獲得した岩崎恭子さん【写真:産経新聞社】

■「シン・オリンピックのミカタ」#108 連載「私のスポーツは人をどう育てるのか」第14回

 スポーツ文化・育成&総合ニュースサイト「THE ANSWER」はパリ五輪期間中、「シン・オリンピックのミカタ」と題した特集を連日展開。これまでの五輪で好評だった「オリンピックのミカタ」をスケールアップさせ、4年に一度のスポーツの祭典だから五輪を観る人も、もっと楽しみ、もっと学べる“新たな見方”をさまざまな角度から伝えていく。「社会の縮図」とも言われるスポーツの魅力や価値の理解が世の中に広がり、スポーツの未来がより明るくなることを願って――。

 今回は連載「私のスポーツは人をどう育てるのか」。現役アスリートやOB・OG、指導者、学者などが登場し、少子化が進む中で求められるスポーツ普及を考え、それぞれ打ち込んできた競技が教育や人格形成においてもたらすものを語る。第14回は、1992年バルセロナ五輪競泳女子200メートル平泳ぎで優勝した岩崎恭子さん。14歳で手にした金メダルを振り返り、10代選手にとっての五輪舞台、水泳、スポーツの魅力、そして現在14歳の娘との接し方についても語った。(取材・文=荻島 弘一)

 ◇ ◇ ◇

 バルセロナ五輪の競泳チームは若かった。特に女子は平均年齢が過去最年少。最年長選手は19歳で中学2年生が3人いた。競技年齢が上がった今では考えられないが、岩崎さんら中学2年生が3人いて「中2トリオ」とも呼ばれていた。

「当時は年齢層が高くなかったら、特に自分が若いとかは思っていなかったですね。(200メートル平泳ぎ世界記録保持者の)アニタ・ノール(米国)も16歳だったし、世界的にも若かったから、何がそんなにすごいことなのかなあ、って思っていました」

 14歳での大舞台。年長者でも緊張する舞台で、プレッシャーはなかったのか。どんな思いで大会に臨んだのか。

「昔は『大会を楽しむ』とか絶対になかった。それが、少しずつ変わっていった時代でした。ただ、先輩やコーチたちの動向をみていると、いつもと違う気合の入り方。『戦いに行く』というのは14歳でも分かっていました。たぶん、二人(中2の稲田法子と春名美佳)も同じ気持ちは持っていたと思います」

 選考会でも2番手で、持ちタイムでも上位とは差があった14歳の岩崎さんは、レース前にどんな目標を立てたのか。そして、予選を泳いでどんな気持ちになったのか。32年経って、冷静に振り返った。

「決勝に残るのは目標だったけれど、オリンピックで泳ぐのだから出せる力はすべて出そうと。ただ、泳いでみて驚きました。そんなにタイムが伸びると思っていなかった」

 決勝ではさらにタイムを伸ばし、予選1位だった世界記録保持者のノールを逆転して優勝。その後のインタビューでの「今まで生きてきた中で、一番幸せです」と合わせて国民的ヒロインになった。

「日本に帰ってきてからです、騒ぎを知ったのは。何がおもしろいのかなあ、って不思議でしたね。特別なことを言ったわけではないし、ただ思ったことを言っただけなのに。それを面白がっている大人たちが面白いな、と思っていました」


14歳の金メダリストとなった岩崎さんは今、14歳の娘の母になっている【写真:中戸川知世】

■14歳の金メダリストは14歳の娘の母に

 帰国してからは大変だった。中学はもちろん大歓迎、あいさつ回りもあった。必ず聞かれるのが、あの名言。意図せぬ周囲の騒動に苦しみ、水泳から離れようとしたこともあったと伝えられた。ただ、32年経った今は少し違った言葉も出てきた。

「昔から人の話、大人の会話を聞くのが好きで、あいさつ回りは嫌じゃなかった。こんな言われ方をするんだとか、こんなになっているんだとか。わりと冷静に聞いていました。それに、私が行くことで喜んでもらえるなら。その後の水泳のためになるんだったら、行くことも悪くない。私にとっては(騒動になったのは)必要な時間だったのかなと。今はそう思っています」

 岩崎さんは大人びた14歳だったのかもしれない。今、その岩崎さんの娘さんも14歳になったという。自分が金メダルを獲得し、大人たちの騒ぎを冷静に見ていた年齢。周囲から見れば、14歳の金メダリストの子どもは、どんな14歳だろうと気にもなるが、本人は笑う。

「比べるものでもないし、比べたこともない。どんな14歳かと言われると、のほほーんとしていますね(笑)。自分が14歳で体験できたことは、やっぱり普通じゃなくて。そういう意味では、自分はラッキーだったと思いますけど」

 超有名人を親に持つと、いい面もあるかもしれないし、嫌な面もあるかもしれない。どんな感情を持つかは、その子の性格によってもバラバラ。だから、岩崎さんは自然体で子どもと接している。

「小さいころから代表選手に会ったりするし、話も聞いている。ママすごいじゃん、と言われることもあるし、ママは金メダル1個だけでしょと言われることもあって(笑)。ただ、いつも言うのは『ママはすごいかもしれないけれど、偉いわけじゃない」ということ。いろいろと言われることもあるかもしれない。今はSNSもあって大変ですから。知らない人の意見は聞かなくていいとは言っています」

 岩崎さんは自然体だ。自身が14歳で金メダルをとり、娘が14歳になった。とはいえ、年齢に関しても自然体。こだわりがないところが、岩崎さんらしい。

「年齢でどうこうではないですよね。人によって成長ぶりは違うし。伸びる時期は違う。子どもの能力は無限大だし、子どもだからとか制限もつけたくないですね」

 スポーツに関しても同様だ。東京五輪ではスケートボードで西矢椛が13歳で金メダルを獲得。岩崎さんの最年少記録を抜いた。今大会も10代半ばの選手が活躍した。多くの競技で選手の競技年齢が上がる中、トップレベルで戦う選手もいる。記録を抜かれて残念な気持ちはあるのだろうか。

「残念なんて気持ち、あるわけないじゃないですか(笑)。そんなこと、まったく思っていない。当たり前ですよ。若いころは、水泳に限らず急に伸びることがある。大学生や社会人では難しいかもしれないけれど、中高生にはありますよね。私は、それがたまたまバルセロナ五輪の時だった。子どもたちに伝えたいのは、必ず伸びる時期、旬があるから、その時に一生懸命やってほしいということです」


今なお岩崎さんが関わり続ける水泳が人を育てることとは【写真:中戸川知世】

■5歳で水泳を始め、9年で世界一「スポーツをやることで悪いことがない」

 では、大人のスポーツについてはどう思っているのか。14歳で頂点に立ちながら、今も水泳にかかわり続けている岩崎さんにとって、水泳の魅力、スポーツの魅力とは。自然体だからこそ、ストレートな返事が返ってきた。

「自分がスポーツをやってきて、スポーツやることで悪いことがないと私は思っています。精神的にも肉体的にも、いいことばかりだと思うんです。コミュニケーション能力もつくと思うし、健康にもいい。ストレス発散の仕方が分かったり、筋肉をつけることは大人になっても大切。水泳はいいですよ。100歳の人が泳いでいる。何歳になってもできる。だから、生涯スポーツなんです」

 5歳で水泳を始め、9年で世界一になった。それから32年、今も水泳にかかわり続けている岩崎さん。若くして貴重な経験をしたからこその岩崎さん言葉には、あの名言にも負けない力がある。
 
■岩崎 恭子 / Kyoko Iwasaki

1978年7月21日生まれ、静岡県出身。沼津市立第五中時代の92年バルセロナ五輪に出場し、女子200メートル平泳ぎ決勝で2分26秒65の日本新記録となる五輪新記録(ともに当時)で優勝。14歳6日で日本選手史上最年少の金メダリスト(当時)となった。レース後のインタビューで「今まで生きてた中で、一番幸せです」と答えたのが話題になり、一躍国民的なヒロインとなった。その後低迷したものの、96年アトランタ大会で2大会連続五輪出場。98年に引退しメディアなどで活躍した後、2002年から米国にコーチ留学。10年にシンガポールで行われたユースオリンピックでは、日本代表のコーチも務めた。(荻島 弘一 / Hirokazu Ogishima)

荻島 弘一
1960年生まれ。大学卒業後、日刊スポーツ新聞社に入社。スポーツ部記者としてサッカーや水泳、柔道など五輪競技を担当。同部デスク、出版社編集長を経て、06年から編集委員として現場に復帰する。山下・斉藤時代の柔道から五輪新競技のブレイキンまで、昭和、平成、令和と長年に渡って幅広くスポーツの現場を取材した。

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