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女子ゴルフ桑木志帆、2勝目の裏に「感覚」蘇らせる名トレーナーの提案「彼女はセンスの塊です」

THE ANSWER / 2024年8月27日 6時43分

デッドリフトで下半身を強化する桑木志帆。手前は小楠和寿トレーナー【写真:編集部】

■稲見萌寧らも指導した小楠和寿トレーナーが証言

 女子ゴルフの国内ツアー・ニトリレディスは25日、北海道・桂GC(6651ヤード、パー72)で最終日が行われ、21歳の桑木志帆(大和ハウス工業)が2か月ぶりのツアー通算2勝目を挙げた。4バーディー、2ボギーの70で回って通算12アンダー。17番パー4で値千金のバーディーを奪って混戦を制した。勝因の1つには、昨年5月から桑木と契約している小楠和寿(おぐす・かずとし)トレーナーの存在があった。(取材・文=柳田 通斉)

 小楠氏は千葉市内で桑木の2勝目を確認した。インターネット中継を見続け、桑木がウイニングパットを決めると言った。

「やっぱり、彼女はセンスの塊です。1つ伝えるとすぐにそれをものにしますから」

 桑木は6月末の資生堂レディスでツアー初優勝後、トップ10入りを逃し続けていた。2週前のNEC軽井沢72は予選落ち。理由は「ショットの感覚が良くない」だった。そこで、前週のCATレディースに帯同していた小楠氏は第2ラウンドが終わった後、練習場で桑木に1つのトレーニングを提案した。


2勝目を飾った翌日26日、クラブを使って“綱引き”トレーニングをする桑木志帆【写真:小楠和寿氏提供】

「アドレスに入った状態で綱引きのようにクラブを引っ張ってみて。先に左足で踏ん張ってから、右に引く感じで」

 桑木のスイングは左重心の左軸で回転した後、頭を右に残してインパクトを迎える。その際、右足はべた足状態だ。小楠氏はこのスイングの特徴を踏まえて桑木と話し合っていた。

「これは彼女が自分で作り上げた独特のスイングです。大きな体重移動はしたくないタイプですが、体重は先に左足側に乗ってインパクト時には右足側に乗る。ただ、長いシーズンの中では感覚的にズレが生じることもあるので、それを戻すためには何をすればいいのかを考えるのも私の役目です」

 このトレーニングを行った翌日のCATレディース最終日は、パーオン率100%で5試合ぶりのトップ10入り(9位)。ニトリレディスでは、4日間を通して同80.56%だった。部門別では天本ハルカに続いて2位の数値で、小楠氏は「本人がショット復調の要因をどう考えているか分かりませんが(笑)、足の動きは確実に良くなっていました」と振り返った。


小楠トレーナーは「とにかく運動神経がいいんです」と桑木の身体能力に驚く【写真:編集部】

■スタート2時間半前~ラウンド後の宿舎でもサポート

 昨年5月、小楠氏は当時ゴルフダイジェスト社の正社員だった中村修氏(プロライセンスを持ち、現在は桑木のコーチ)に紹介され、20歳の桑木と出会った。桑木は既に上位争いの常連だったが、本格的なトレーニングはせずにツアーを回っていた。小楠氏はすぐに「下半身と体幹を強化すべき」と提案した。

「上背もあるし、恵まれたフィジカルはありました。ただ、重心は体の後ろ側にあり、体重は股関節ではなく両ひざに乗るタイプなので、スイングを安定させるために長くて細い太ももを含めて鍛えていくべきだと思いました」

 以降、小楠氏は週に1度のペースで桑木のトレーニングを指導し、試合には隔週で帯同するようになった。かつては稲見萌寧と契約し、2021年の東京五輪銀メダル、賞金女王にも貢献した同氏は、当初から桑木のセンスに驚かされていた。

「とにかく運動神経がいいんです。新しい動きを伝えても、すぐにそれができてしまう。それは持って生まれたものだと思います。あのスイングもいろんなことを吸収しながら、必要な情報、いらない情報を取捨選択しながら自分で作り上げたようです」

 試合当日、小楠氏はスタートの2時間半前には桑木とコース入り。ストレッチ、軽いトレーニング込みのウォーミングアップをサポートする。そこまでに約1時間をかけ、ショット、パット、アプローチ練習も見た上でスタート時間を迎える。ラウンドが始まると18ホールをともに歩く。その後の練習も最後まで見た上で、宿舎で桑木をマッサージする。それが1日の過ごし方になる。

「ラウンド中は選手がルーティンで何をしているのか、ミスした時にどんな動きをしていたのかをチェックしています。朝のウォーミングアップの答え合わせという側面もあります。マッサージはスイング維持のためにも必要です。ゴルフスイングは偏った動きですし、まずは体をほぐさないといけない。疲れがたまってくると、楽をして体を逃がす動きが出てきます。調子も落とすし、逃がす時に使っている筋肉に歪みが出てくる。そこを締めて元に戻すケアも大事になります」


中高年ゴルファー向けのスクワットを披露する小楠和寿トレーナー。いすに尻がつく寸前まで腰を落として立を繰り返す【写真:編集部】

■高レベルの戦いで必須のトレーニング「若いうちから」

 桑木は20歳でトレーナーを付けたが、小楠氏は「トッププロであれば、トレーナーは欠かせない状況になっています」と話す。

「国内女子ゴルフツアーではここ数年で、帯同トレーナーがグンと増えました。それだけ、レベルが上がったということです。『若いうちは寝れば疲れが取れるから』と素材のままで試合に出ているプロもいますが、筋肉や関節の反応がいい若いうちからトレーニングを始めた方が、基礎筋量を蓄積できます。その貯金は年齢を重ねてからの財産にもなりますし、ケガをしない体作りにもつながります。プロゴルファーは車での長距離移動で腰痛を発症したり、重いキャリーケースを持って手首を痛めたりもしますが、トレーニングで体を鍛えていれば、筋肉や体幹の反応でケガを回避できたりもします」

 今季、国内ツアーでは20代前半のプロだけでなく、25歳、26歳になった「黄金世代」(1998年度生まれ)の活躍が目立つ。小祝さくらが2勝、河本結、大里桃子、新垣比菜が復活優勝、天本ハルカ、臼井麗香が初優勝を飾っている。米ツアーでは渋野日向子、畑岡奈紗、勝みなみが奮闘。アマチュアレベルから切磋琢磨し、意識の高いこの世代は、10代のうちからトレーニングを重ねており、体の強さも目を見張る。小楠氏はその事実を踏まえて言った。

「トップ選手の寿命は確実に伸びています。あと数年もすれば、30代で活躍する選手がさらに増えていると思います」

 今季は海外5大メジャーの全戦で日本人選手がトップ10入りし、全米女子オープンで笹生優花が優勝。エビアン選手権は古江彩佳が制した。世界で戦う面々もトレーナーにサポートされ、トレーニングとケアを繰り返している。アスリートに必要な「心技体」で最も大切とされる「体」のために、女子プロたちは投資と努力を続けていく。

▼悩める中高年ゴルファーへ 小楠氏「毎日、スクワットを」

〇…小楠氏は、桑木の試合に帯同しない週は千葉市内のパーソナルジム・J’s SPORTS BODYで勤務している。中高年ゴルファーも指導し、「下半身に粘りがなくなった」と相談されることがあるという。「なかなか若い時の感覚のままでスイングはできないのですが、毎日のスクワットである程度の対策はできます」。手を胸の前でクロスし、両ひざを曲げてイスに座る寸前まで腰を落とす動きだ。「これを10回で1セットとして3セットやれば、十分です。ただし、毎日続けてください」。トレーニングはプロ、アマ関係なく、「継続は力なり」のようだ。

■小楠和寿(おぐす・かずとし) 1983年12月9日、静岡・浜松市生まれ。東北文化学園大医療福祉学部卒。理学療法士の国家資格を取得し、2007年から千葉・季美の森整形外科に勤務。トレーナーとして埼玉栄高バドミントン部、千葉黎明高野球部などを指導し、17年から国内女子ゴルフツアーで選手に帯同。これまでにアン・ソンジュ、ペ・ヒギョン、全美貞、稲見萌寧、西郷真央らをサポートし、23年5月から桑木志帆と契約。(THE ANSWER編集部・柳田 通斉 / Michinari Yanagida)

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