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井上尚弥、5階級制覇を視野に入れた62.7kg過去最重量 その地盤は「ゴム人間の孫悟空」の心身

THE ANSWER / 2024年9月4日 4時33分

TJ・ドヘニーと対戦した井上尚弥(左)【写真:中戸川知世】

■世界スーパーバンタム級4団体防衛戦

 ボクシングの世界スーパーバンタム級(55.3キロ以下)4団体統一王者・井上尚弥(大橋)は3日、東京・有明アリーナで元IBF世界同級王者TJ・ドヘニー(アイルランド)との4団体防衛戦で7回0分16秒TKO勝ちした。相手の負傷棄権というまさかの幕切れとなったが、いつも通り何もさせない展開。その地盤には「ゴム人間の孫悟空」という肉体と気概があった。戦績は31歳の井上が28勝(25KO)、37歳のドヘニーが26勝(20KO)5敗。(文=THE ANSWER編集部・浜田 洋平)

 ◇ ◇ ◇

 誰より、井上こそが不完全燃焼だった。ドヘニーが腰を痛めて棄権するまさかの幕切れ。「理想としていた終わり方ではない。見に来たファンもそうだったと思う」。会場では「えー!」と叫び声が漏れた。

「自分の出来が悪いとは思っていなくて、ドヘニーほどのキャリアのある選手がああいう戦い方をしたら仕方ない。試合運びのうまさがある。相手あってのボクシングだと皆さんわかっている。内容、結果としては満足、期待したような試合ではなかったと思いますが、長く試合をしていればこういう試合もあります。次に期待してもらえれば」

 モンスターにしては静かな前半だった。前戦にダウンを喫しただけに初回は手数も少なめ。後ろ重心で消極的な挑戦者を前に出させようと、3、4回はあえてガードを固めた。6回は上下の打ち分けやボディーで攻撃。「これから」と攻勢を強めた7回に強烈な左ボディーなど連打を与えた。しかし、腰を押さえながらノロノロと歩き出すドヘニー。ゆっくりと膝をついてダウンした。

 まさかの棄権。相手陣営によると、6回の時点で「腰の神経を痛めた。7回に悪化した」という。井上は「結果としてこうなってしまったのは仕方ない」と無念を滲ませ、相手が前日計量の66.1キロから11キロも増やした影響については「多少感じましたけど、そんなビックリするほどではなかった」と淡々と振り返った。

「これを言ってしまったら来てくださったファンの方々に申し訳ないけど、守備、守備に回る選手とやっても楽しくはなかったですね」

 とはいっても、そのまま試合が続けばKOも十分に期待できた状況。米興行大手・トップランク社のCEOを務める92歳の世界的プロモーター、ボブ・アラム氏に「世界のボクシング界の顔」と言わしめるほどの実力を示し、またも相手に勝ち筋を見せなかった。その秘訣の一つが下半身。実際に井上と対峙し、凄さを感じ取った人がいる。


ドヘニーをコーナーに追い込む井上(左)【写真:中戸川知世】

■井上が練習中に“対戦”要求「やりましょうよ」

 6月末、帝拳ジムの粟生隆寛トレーナーは大橋ジムにいた。愛弟子の出稽古で訪問中。突然、こんな声が飛んできた。

「粟生さん、やりましょうよ。ちょっと入ってきてくださいよ」

 声の主はモンスター。対面シャドーを求められた。同じボクサーとして痺れる誘い。グラブも着けず、向かい合ったまま互いにパンチを打つだけだったが、元世界2階級制覇王者の粟生氏は2ラウンド、計6分で“違い”を感じ取った。

「下半身がバネじゃなくてゴム。もの凄く上質なゴムです。バネは“ガシャン”と押して、1度離すと終わりじゃないですか。ゴムは手を離しても、バウンドが常に続いている感じ。優秀なゴムです。ふっとい、強い、もの凄く上質なゴムです」

 小学1年でボクシングを始め、アマチュア選手だった父・真吾トレーナーの指導を受けた。言われ続けたのは基礎、基礎、基礎。パンチの軌道、ガードの位置、各関節の角度まで細かく叩き込まれた。基礎の徹底は今もなお大切にしている。

 つま先でビョンビョンと飛び跳ねるため、練習の撮影ではレンズで追うのが難しい。粟生トレーナーは「とにかく足の使い方が超一級品。膝から下の使い方が特筆しています。それ(ゴムの下半身)でスピード、爆発力も違う」と惚れ惚れする。

「真吾さんにも聞いたんですよ。(ゴムのような動きを)教えているんですか?って。『基礎は教えているけど、自分で考えてやっている』と仰っていました。持って生まれたものと身につけたものがあるんでしょうね」

 なぜ、粟生氏は対面シャドーに誘われたのか。「孫悟空です。強さを求める人はみんな孫悟空なんですよ」。つえーヤツとは戦ってみたい。そんな気概だったと推測する。「久しぶりにヒリヒリする6分間でした」。引退から4年経つ元世界王者の心を揺さぶる“対戦”だった。


傷のない綺麗な顔で会見した試合後の井上【写真:中戸川知世】

■フェザー級を視野に入れた過去最重量

 井上がグラブをはめて24年。リングで相手に何もさせず、タイミングを見極めて放たれるパンチでなぎ倒す。ドヘニーが打ち返そうとしても、もうそこにはいない。長年の研鑽で達人の領域までつくり上げた姿をこの日も随所に見せつけた。

 世界戦通算23勝は井岡一翔を上回る日本人単独最多。しかも、元世界ミドル級3団体統一王者ゲンナジー・ゴロフキン(カザフスタン)と並ぶ現役世界最多でもある。自身が2019年5月に記録した8試合を上回る世界戦9連続KO勝ち。次戦は12月に国内でWBO&IBF1位サム・グッドマン(オーストラリア)との対戦が最有力だ。来年は米ラスベガス開催が候補に挙がる。

 ドヘニーが大幅増量した一方、井上の62.7キロも7.4キロ増の過去最重量。意図的に増やしたのは5階級制覇を見据えたものでもある。

「自分のボクシングスキルが落ちない程度に、どこまでリカバリーしてみようかと試してみた。その体重の作り方も踏まえて当日の適正体重を見極めていきたい。(この日は)若干、重たいかな。ここからしっかり自分の体をつくっていって(フェザー級を)視野には入れられるのかなと思う。もっともっと上を目指して頑張りたい」

 年々大きくなる体を支えるものこそ、「上質なゴム」の下半身だろう。本人の言う通り、長いキャリアにはこういう試合もある。でも、絶対に無駄にしないのが井上尚弥。この一戦は今後の爆発的飛躍になるに違いない。(THE ANSWER編集部・浜田 洋平 / Yohei Hamada)

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