国立大学から公務員、超手堅いキャリアを手放して目指すNPB 150キロ右腕が悩んだ二刀流「本当にキツくて…」
THE ANSWER / 2024年9月6日 6時33分
■くふうハヤテの早川太貴、市役所職員からフレッシュ球宴へ
国立大学から地方公務員という手堅いキャリアを手放して、プロ野球への夢を追う150キロ右腕がいる。今季から2軍ウエスタン・リーグに参入したくふうハヤテの早川太貴投手は、7月のフレッシュオールスターにも出場するなど、10月のドラフト指名を目指し実績を積み上げてきた。安定を捨てて挑戦を続けるという選択の“裏側”を聞いた。(取材・文=THE ANSWER編集部 羽鳥慶太)
後悔しないための選択だった。公務員から2軍球団へという道を選ぶにあたっては「中途半端にしたくなかったんです。仕事をしながら野球もうまくなるというのが本当にきつくて……」という理由があった。一度は二兎を追おうとしたが、2年間の“二刀流”の末に、どちらのためにも良くないと悟った。
早川は高校時代、北海道江別市の大麻高でプレー。全道大会にも届かないチームの目立たない投手だった。国立の小樽商科大に進んだ時も、球速は最速で132キロほど。それが自主性を重視する野球部で、ウエートトレーニングに目覚めたのが転機となる。大学を出る時には最速147キロ。「もっとできるんじゃないのかな?」という欲が芽生えたが、その先も野球を続ける道がなかった。
大学は札幌学生リーグの2部に属している。社会人チームとのパイプもなく、誘いの声はかからなかった。さらに、3年生だった2020年から新型コロナウイルスが広がっていたこともあり、プレーを人に見てもらう機会が極端に不足していた。独立リーグに進むことも考えたが、家族の反対もありあきらめた。
「大学まで出させてもらって、親の気持ちもわからなくはないですから。野球は目指せるところまで目指して、無理ならあきらめよう」と選んだのが、公務員試験。狭き門を潜り抜けて北広島市役所入りし、福祉課に配属された。
同時にクラブチームのウイン北広島でプレーし、野球でも上を目指した。最速150キロまで伸びたボールはNPBのスカウトからも注目された。練習を見に来た球団もいくつかあったが、昨年10月のドラフト会議で指名はなかった。
器用さは早川の魅力であり、課題でもある【写真:羽鳥慶太】
■「職を捨てるのはもったいないかもしれないけれど…」
ここが大きな転機となった。「やっぱり野球をやりたいなと思ったんです。職を捨てるのはもったいないかもしれないけれど、1回しかないチャンスですから」。クラブチームの練習は高校のグラウンドを借り、市役所の仕事の前に行っていた。冬にはマイナス10度の室内練習場ということもあった。その後の勤務も当然フルタイム。体力的に両立が難しいと感じていた。
一大決心の下に、くふうハヤテのトライアウトを受け合格。市役所は今年1月、チームとの契約前日付けで退職した。「北広島は(日本ハムの本拠地)エスコンフィールドができたこともあって、野球が身近になっていて。頑張ってこいというか、応援してくれる感じでした」と、エールを送られての“移籍”になった。
クラブチームからくふうハヤテへ移り、大きく変わったのが試合数。2軍とはいえ、140試合に及ぶペナントレースを戦うのは初めてだ。登板機会も大きく増えたが、体への負担は気にならないという。
「今のほうが練習量も多いですが、(北海道より高い)気温にやられているだけですね。仕事と野球を両立させるほうがきつかった。野球に集中できるのでそこはあまり気になりません」。さらにNPBの選手を抑える経験を積むことで、自信も重ねている。
「元々ストレートの速さというか、スピードより速く感じると言ってもらえることが多かった。2軍相手でも序盤からファウルをとれたりとか。あとは変化球を練習できる時間が増えて、コントロールも使い方も含めてうまくなったかなと思います」
前半戦は主に先発で投げたが、後半戦からはリリーフでも起用されている。NPBのスカウトに様々な役割での姿を見てもらうことと、ここ一番での出力を上げるのが狙いだ。
元日本ハムの中村勝投手コーチは、かつてドラフト1位でプロの世界に飛び込んだ。その目から今の早川を見ると「意外と器用なんですよ。もっと真っすぐで押せばいいのにと思うところでも、変化球を使うことがある」と課題を挙げる。シーズンは残り1か月。最大の武器をどこまで磨けるかが、NPBへのカギになりそうだ。(THE ANSWER編集部・羽鳥 慶太 / Keita Hatori)
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