1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. スポーツ
  4. スポーツ総合

エディージャパン熟成を加速させる2人 「まさに日本の9番に相応しい」23歳と25歳、若きHBコンビの奮闘を検証

THE ANSWER / 2024年9月10日 17時3分

カナダ、アメリカとテストマッチ2連勝を果たしたラグビー日本代表【写真:(C)JRFU】

■PNCプール戦1位通過の日本代表で進化を見せたSH藤原忍とSO李承信

 ラグビー日本代表は7日に埼玉・熊谷でアメリカ代表を41-24で下して、パシフィックネーションズカップ(PNC)プールB組を2戦全勝で1位通過。今週末の15日、東京・秩父宮で決勝進出をかけたサモア代表戦に挑む。エディー・ジョーンズ・ヘッドコーチ(HC)が掲げる「超速ラグビー」の完成へ課題を露呈しながらも、チームは段階的に精度、一貫性を高めて、前節でのテストマッチ初勝利、そして2連勝という結果を残した。熊谷で進化を見せたのがSH藤原忍(クボタスピアーズ船橋・東京ベイ)、SO李承信(コベルコ神戸スティーラーズ)のHB(ハーフバックス)団によるゲームコントロール。エディージャパンの熟成を加速させる平均24歳のコンビの奮闘を検証する。(取材・文=吉田 宏)

 ◇ ◇ ◇

 ワンステップずつ力を積み上げる第2次エディージャパン。ここまでのコラムで触れてきたように、まだ模索が続く「超速」というコンセプト、そして若手重用による試合運びやスキル精度の未熟さも響いて苦戦が続く中で、カナダ、アメリカとようやくテストマッチ2連勝を果たした。

「PNC2試合を望んでいた形で勝ち進むことが出来たと思う。もちろん、まだまだ修正点はあるし課題も山積みですが、アメリカ戦に関しては藤原、そして李がとてもいいプレーをして、チームを一歩前へ進める手助けをしてくれたと実感しています」

 この日の日本はFWを中心に取り組んできたダブルタックルで、アメリカの強みでもあるフィジカルの強さに対抗。攻めては、エディーが語ったように、25歳のSH藤原、23歳のSO李という若いHB団が、前節まで以上にラン、パス、キックと好判断でゲームを組み立てチームをテスト連勝へ導いた。

 第2次エディージャパンで初めて代表入りした藤原だが、この試合ではキックオフから常に密集近くにいち早く駆け寄り、素早い球出しを続けた。キックオフ9分のアメリカのオープン攻撃では、カバーディフェンスからファンブルボールを足にかけて切り返すなど高い機動力を披露。15分のチーム初トライでは、李が上がりすぎていた相手防御の背後に好判断のチップキックを上げてCTBディラン・ライリー(埼玉パナソニックワイルドナイツ)―ニコラス・マクカラン(トヨタヴェルブリッツ)の連携で仕留めたが、インゴールまでサポートランをしていた藤原の運動量が光った。38分には、敵ゴール前ラックからの高速パスアウトでトライを演出している。

 最終学年で大学選手権を制覇した天理大時代から速いパスさばき、ワークレートで定評のあった藤原は、日本代表でも試合を重ねる毎に「らしさ」を見せ始めている。新体制での初戦となった今年6月のイングランド戦に途中出場で代表デビュー。当初はベンチスタートが続いたが、初先発したカナダ戦から李とのコンビで連勝に貢献する。

「チームに(自分が)フィットしているというか、承信(李)にも助けられているところもあります。練習の映像を観たりとか、常に2人でいる時間が増えたからコンビネーション的には良くなっているのかなと思います」


素早い球出しを続けた藤原忍【写真:(C)JRFU】

■指揮官も称賛「まさに日本の9番に相応しい、正当派の日本のSHだ」

 チーム始動から、エディーは各ポジションで様々な選手を投入して、経験値を上げるのと同時に個々のポテンシャルを試し、競り合わせてきた。そんな中で2試合連続で先発、同じHBコンビで戦えたのは、同じSHの齋藤直人の選択が結果的にプラスに働いている。昨秋のW杯も経験している齋藤は、エディーも「一番手の9番」と公言する存在だが、今季フランスの名門スタッド・トゥールーザンと契約。エディーも新チームでの研鑽を重視して8月から代表を離れたことで、残された藤原、小山大輝(埼玉WK)の出場機会が増えたのだ。

 エディーが「小山はとてもいいフィニッシャー。防御も得意だし、キックゲーム、そしてゲームをオーガナイズする能力も長けている」と、小山を控えメンバーから試合を締めくくるフィニッシャーとして高い評価をしていることもあり、藤原にはさらに先発出場のチャンスが高まっている。

 アメリカ戦で素早い仕掛けと密集からの好判断のキックを見せた藤原は、自分自身のパフォーマンスをこう振り返る。

「エディーさんと『行けるという判断であれば自信を持って行け』と話していました。他の選手もそれを分かっていたし、僕が行くと決めたら皆も行くと決まっていた。チャンスがあれば行きましたし、(相手防御が)セットしていたらキックと考えていた。アウトサイドバックスから言われる(指示の声がかかる)こともありました」

 初陣だったイングランド戦などでは、どんな状況でも遮二無二パス、ランと速いアタックを意識し続けていた藤原だが、試合を重ね、相棒の李とのコミュニケーションを重ねながら、プレーの緩急や状況判断をより意識しながらプレーできているのが窺われる。

 エディーが評価するもう1人のSH福田健太(東京サントリーサンゴリアス)は怪我のリハビリ中だが、指揮官は今週に入って飯沼蓮(浦安D-Rocks)を追加招聘。藤原にとってはさらなるチャレンジが課せられたが、スピードを重視した国内ラグビーの中でもパス捌き、ランと速さを強みにする藤原がどこまで持ち味を輝かせるかは、オールブラックスら強豪との対戦が待つ秋のテストシリーズへ向けても代表強化の注目ポイントになる。

 試合後の会見で、エディーに「今日の藤原のプレーぶりは、(大会冠スポンサーの)アサヒスーパードライを飲ませてあげるくらいの評価か」と聞くと、苦笑混じりにこう返してきた。

「まだ奢るまでじゃないね。でも、藤原はいい方向に進んでいます。まさに日本の9番に相応しいというか、アタックが強みのトラディショナルで正統派の日本のSHだと思っています」

 そう指摘したが、藤原も試合後に「今日も味方が1人しかいないのに焦ってパスをしてしまったり、気持ちを落ち着かせるところは落ち着かないと、僕が急いだら皆にも感じてしまう。ここはしっかりオーガナイズしていかないといけない。ゴール前ディフェンスとかもちょっと課題ですね」と自ら課題を指摘している。自分自身の個人プレー、スキル面では輝きを見せる一方で、密集周辺の選手をどうコントロールするかという、パス以外のSHとしての役割には進化の余地がある。

 代表チームでは試合前日のジャージープレゼンテーションという行事がある。日本代表にゆかりの深い人物や過去に代表で活躍した元選手が、出場メンバーにジャージーを手渡し、激励のメッセージを語るのだが、アメリカ戦前夜は元代表SHの堀越正己・立正大監督が招かれた。

 堀越氏は、160cmを下回るサイズながら日本でも卓越した素早いパスワークとキック処理などの判断力で、歴代最高クラスのSHとして活躍したレジェンド。現役を引退した1999年生まれの藤原にとっては、その存在すらほとんど知らなかったというが、プレゼンテーション後のやり取りを「9番はFWと一緒のように戦わないとチームは負けるといわれて、実際そうだなと感じました」と振り返っている。試合前日の“金言”をゲームに生かすのは容易ではないが、この日の藤原がみせた積極的で速い球捌き、密集への素早い動きは、堀越氏の後を追う者としての可能性を滲ませていた。


好判断でゲームを組み立てチームをテスト連勝へ導いた李承信【写真:(C)JRFU】

■後半からFBに下がってプレーした李は新境地を開拓

 HB団の中でも藤原に焦点を当ててきたが、李も新境地を開いたゲームになった。後半12分に、控えメンバーだった立川理道主将(クボタスピアーズ船橋・東京ベイ)が登場すると李は従来のSOからFBに下がってプレーした。

 所属する神戸Sでは昨季経験したものの、テストマッチでは初めて“しんがり”に入った李は「(FBでプレーすることは)言われてなかったですね。でも(立川)ハルさんから、山沢(拓也、埼玉WK)さんが抜けた時に15番もありかも知れないと聞いていたので、心の準備はしていた。神戸での経験が生きたと思います。ディフェンスのポジショニングだったり、10番(立川)とコネクションしながらアタックしていくところですね。テストマッチで経験できたのはよかった」と新しい挑戦にも前向きだ。

 この試合で先発したFB山沢も、代表、所属チームでFBとSOを兼務しているが、南アフリカやニュージーランドら世界の強豪国でも複数のポジションをカバーする選手を重視する傾向が高まっている。このユーティリティーを利用して、控えメンバーのFW、BKの人数を変えられるなど、とりわけW杯のような短期決戦では戦略的な重要度を増している。エディーも、この日に李のFBコンバートについては「チームにとって大きなボーナス。立川がゲームをコントロールして、(李)承信が賢明にいいキックをするなど、戦術面でとてもよかった」と満足そうに語っている。

 まだ若いメンバーに経験値を積ませ、コンビネーション、コミュニケーションを含めて“ワンチーム”への進化過程にある第2次エディージャパン。取り上げたHB団も、2027年までのポジションを何ら保証されていないのが現実だが、ゲームのオーガナイズという課題に1歩ずつながら成熟が見えてきた。戦術面に、チーム始動時から取り組むダブルタックルも機能させて、世界21位(対戦当時)のカナダ、そして同19位のアメリカからは勝利という結果を奪い取った。ランク13位のサモアとの準決勝、そして、おそらく勝ち上がって来るだろう同10位のフィジーとの決勝が、チームの熟成をさらに促すことになる。(吉田 宏 / Hiroshi Yoshida)

吉田 宏
サンケイスポーツ紙で1995年からラグビー担当となり、担当記者1人の時代も含めて20年以上に渡り365日欠かさずラグビー情報を掲載し続けた。1996年アトランタ五輪でのサッカー日本代表のブラジル撃破と2015年ラグビーW杯の南アフリカ戦勝利という、歴史に残る番狂わせ2試合を現場記者として取材。2019年4月から、フリーランスのラグビーライターとして取材を続けている。長い担当記者として培った人脈や情報網を生かし、向井昭吾、ジョン・カーワン、エディー・ジョーンズら歴代の日本代表指導者人事などをスクープ。ラグビーW杯は1999、2003、07、11、15、19、23年と7大会連続で取材。

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください