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2028年ロス五輪追加競技「フラッグフットボール」とは タックルのないアメフトが高校女子で選手急増の背景

THE ANSWER / 2024年9月17日 16時3分

今回は「ロス五輪の追加競技・フラッグフットボール」について(画像はイメージです)【写真:Getty Images】

■「Sports From USA」―今回は「ロス五輪の追加競技・フラッグフットボール」

「THE ANSWER」がお届けする、在米スポーツジャーナリスト・谷口輝世子氏の連載「Sports From USA」。米国ならではのスポーツ文化を紹介し、日本のスポーツの未来を考える上で新たな視点を探る。今回は「ロス五輪の追加競技・フラッグフットボール」について。

 ◇ ◇ ◇

 今年2月、NFLタンパベイバッカニアーズが主催したフロリダ州の高校生女子のフラッグフットボールのプレシーズンイベントを取材した。会場には1000人以上の高校生選手が集まり、壇上には、NFLの役員、米フットボール連盟、国際アメリカンフットボール連盟の副会長、女子フラッグフットボールの米国代表QBのバニタ・クローチ、フロリダ州タンパ市長らが並んだ。

 フラッグフットボールは、ひとことでいえば、アメリカンフットボールからタックルをなくしたもので、タックルの代わりに腰につけたフラッグを捕る。2028年のロス五輪では追加競技になることが決まっている。

 フロリダ州の高校体育協会はアメリカの各州の高校体育協会のなかでは、最も早い時期である2003年から女子のフラッグフットボールの州大会を主催している。このときには、オリンピックの追加競技になると予想していなかったかもしれないが、学校の運動部で女子フラッグフットボールが行われるようになったのは、ある連邦法が関係している。

 アメリカでは1972年に連邦政府の補助を受けている教育機関における性差別を禁じるタイトルIX法が成立した。つまり、女子にも男子と同等の運動部を含む課外活動の参加機会を保障するということだ。この連邦法によって、女子の運動部数が増えていった。学校としては、多くの生徒に活動機会を与えることのできる競技種目は、タイトルIXを守るうえで都合がよかった。フラッグフットボールは1チーム5人で編成されるが、高校のフラッグフットボールは7人制としていることが一般的で、攻撃、守備とがわかれるのであわせて14人編成で、ベンチ入りもあわせると20人程度の運動部にできる。

 高校女子のフラッグフットボールは、現在は12の州の高校体育協会が種目として採用しており、このほかの19州でも試験的に導入されている。各州の高校体育協会をまとめるNFHSによると、高校女子フラッグフットボールの参加者数は2022-23年から2023-24年にかけて2倍以上に増加し、前年の2万875人に対し、2023-24年には合計4万2955人の女子がフラッグフットボールに参加したという。この急激な増加はオリンピックも意識されているのだろう。筆者が見た、2月のプレシーズンのイベントでも、オリンピックの話題があがっており、会場にはU18の米国代表に選出された選手もいた。

 しかし、オリンピックと聞いても、会場にいた多くの高校生たちにとっては遠い夢で、その場にいた全員から歓声が沸き起ったわけではない。自分にもチャンスがあると心の底から思った選手はそれほど多くはなかったと思う。

■五輪追加競技になることで競技人口増加の起爆剤に

 このイベントではあるスライドに映し出された。それは、フラッグフットボールの競技チームを持つ大学が増えていることを示すものだった。

 NAIA(National Association of Intercollegiate Athletics 全米大学対抗体育協会)はフラッグフットボール部を増やすためにNFLとパートナーシップを結んでおり、このイベント時点で24校が加盟予定。NJCAA(National Junior College Athletic Association 全米短期大学体育協会)もフラッグフットボールを競技種目として採用して7校が加盟予定、また、NCAA(全米大学体育協会)のアトランティック・イースト・カンファレンスでも今年4月に第1回アトランティック・イースト・カンファレンス女子フラッグフットボール選手権大会を開催した。ミシガン州の私立大学でNAIAに加盟しているシエナハイツ大学も2025年春に向けてチームを編成すると発表した。1年目は15人、2年目は25人を迎えたいとしており、スポーツと学業の奨学金を出すことも明らかにしている。

 大学がフラッグフットボールのチームを持つことによって、高校生選手は大学でも競技を続けられるようになる。そして、フラッグフットボール選手であることが加点材料になり、そのチームを持つ大学に合格できる確率が高まるかもしれないこと、さらに奨学金を得る材料にもなり得るというメリットもある。これによって、小学生や中高生がどのスポーツをするかを選ぶときに、大学でできないから、という理由で選択肢から外れることが減るだろう。

 大学側にも利点はある。高校のフラッグフットボール選手が増えたことを受けて、大学がチームを持てば、フラッグフットボールをし、なおかつ、学業成績のよい学生を集めることに役立つからだ。シエナハイツ大学でも、フラッグフットボールを持たない大学の周辺にいる高校生の関心を惹きつけようとしている。

 競技人口を増やすにあたって、オリンピック種目となることは大きな起爆剤になる。それと同時に、オリンピアンにはなれないが、競技力の高い高校生の受け皿になる大学チームの存在も大きいといえるのではないか。高校生たちは、奨学金を得て大学の高いレベルで競技をしながら、学位も得て、そして、社会に出ていくのだ、という現実的な目標を描くことができるからだ。(谷口 輝世子 / Kiyoko Taniguchi)

谷口 輝世子
 デイリースポーツ紙で日本のプロ野球を担当。98年から米国に拠点を移しメジャーリーグを担当。2001年からフリーランスのスポーツライターに。現地に住んでいるからこそ見えてくる米国のプロスポーツ、学生スポーツ、子どものスポーツ事情を深く取材。著書『帝国化するメジャーリーグ』(明石書店)『子どもがひとりで遊べない国、アメリカ』(生活書院)。分担執筆『21世紀スポーツ大事典』(大修館書店)分担執筆『運動部活動の理論と実践』(大修館書店)。

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