1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. スポーツ
  4. スポーツ総合

ラグビー日本戦前日MTGに現れた1人の男 原辰徳、ペップを訪ねたエディーHCも唸った「勝利へのマインドセット」

THE ANSWER / 2024年9月18日 18時42分

PNC準決勝でサモアを破った日本代表【写真:(C)JRFU】

■テストマッチ3連勝でパシフィックネーションズカップ決勝に進出した日本代表

 ラグビー日本代表は9月15日のパシフィックネーションズカップ(PNC)準決勝でサモア代表を49-27で下してテストマッチ3連勝。21日に大阪・花園でフィジー代表との決勝戦に挑む。今年1月に復帰したエディー・ジョーンズ・ヘッドコーチ(HC)が大幅な若返りを断行する中で、サモア戦は平均年齢24歳台という布陣で、世界ランキングで上位(15日時点)の相手を乗り越えた。チームが掲げる「超速ラグビー」に進化を見せた一方で、試合前日にはパリ・パラリンピックで金メダルに輝いた車椅子ラグビーの池透暢主将がチームミーティングに参加。“ラグビー”という名称では日本代表最高位を遂げたリーダーが、種目の違いを乗り越えて若き桜の戦士たちに伝えた勝利へのマインドセットを考える。(取材・文=吉田 宏)

 ◇ ◇ ◇

 サモア戦最多得点での快勝に、エディーの口調も弾んだ。

「まず、我々としてはステップアップになるようなゲームでした。これまで対戦してきた相手以上のチームであるサモアに対して、序盤戦をとてもいい形でスタート出来た。次のフィジーはとても質の高い相手です。いい準備をして臨みたい」

 現実を見据えれば、先発メンバーの平均キャップ数8.8という経験値の浅いサモア相手に、同じく12.2キャップの若い日本が快勝したというゲームだった。秋のヨーロッパ遠征も断念せざるを得ないほど財政難に苦しむ対戦相手の現状を考えれば、この日のスコアは差し引いて考えるべきだろう。だが、ゲームのクオリティーが1歩1歩積み上がるのも事実だ。

 エディーが「昨秋のワールドカップ(W杯)からテストラグビーで10番が出来るのは1人だけと考えていた」と実力を認めるSO松田力也(トヨタヴェルブリッツ)、SO兼FBとして期待の山沢拓也(埼玉パナソニックワイルドナイツ)が揃ってコンディションを理由に代表合宿を離脱する中で、58キャップと経験豊富な立川理道(クボタスピアーズ船橋・東京ベイ)をSOに配して、SO兼FBとしての可能性を模索する李承信(コベルコ神戸スティーラーズ)を先発では初めてFBで投入。状況に応じてSOに入りながら、猛烈に前へとプレッシャーをかけてくるサモア防御の裏を突くグラバーキックで前半6分の先制、16分、後半4分のトライをアシストし、10分のペナルティートライ、後半39分のトライも好判断の飛ばしパスから引き出した。前半39分には自らライン参加してトライをマークするなど、6トライすべてに関わり、ゲームをコントロールするプレーを印象づけた。

 李だけではなく、アタックを仕掛ける選手が常にアングルチェンジや、コンタクトする瞬間にタックラーの芯をずらすようなステップ、ボディーコントロールを駆使してボールを継続。サモアの強みでもあるフィジカルの衝撃を半減させることで、従来の試合以上に日本が求める速いリズムでの連続攻撃を見せ始めた。

 第2次エディージャパンの始動となった6月のイングランド戦でも10番を託された李だったが、エディーが打ち出した「超速」を意識するあまり無理矢理速いアタックをし続けて、ゲームコントロールが十分には出来なかった。だが、サモア戦では、戦況を見渡せる最後尾からBKに指示の声を送り、ライン参加からキック、ラン、パスを使い分けボールを動かした。

「自分たちが掲げる超速ラグビーのところで、サモアの(強い)フィジカルに対してどんどんスピードを持ってボールを動かし続けることにフォーカスして戦いました。9番、10番へのコミュニケーションもですし、自分を起点に積極的にボールを動かすことにもフォーカスして挑みました。初めて15番で先発しましたが、ラグビープレーヤーとして成長出来るいい経験でした」

 そう、自信を持って勝利を振り返った李に対して、エディーも冗談を交えながら及第点を与えている。

「お酒が大好きな選手なので、100本のビールが贈られるマン・オブ・ザ・マッチは他の選手にしてほしかったけれど、いい形でゲームに順応していた。アタックラインにも、いい形で仕掛けながらプレーしていた」


日本代表戦に訪れた池透暢(左)【写真(C):JFRU】

■試合前日にミーティングに招かれた池透暢が語った言葉

 昨年のW杯を経験して、神戸Sではすでに主力メンバーに定着する李だが、今年1月に23歳になったばかりの若手選手だ。サモア戦の平均キャップ数にも触れたが、チームも先発15人の平均年齢も24歳台。23年W杯最終戦となったアルゼンチン戦の30歳という平均年齢から大幅に若返る。将来への期待も大きいが、経験不足という負の要素も多分にある。テストマッチの激しいプレッシャーの中でのパス1つの精度や、フィジカルの脆さなども祟り、新体制始動からのテストマッチ3連敗など試練も味わわされてきた。

 技術面、戦術面の未熟さと同時にエディーが選手に求めるのが、ラグビーに向き合う時の謙虚さや真摯な姿勢だ。プレーやスキルの向上は日々コーチ陣が受け持つ一方で、代表としてのマイドセットの強化にも余念がない。サモア戦キックオフ前の秩父宮ラグビー場で、車椅子ラグビー日本代表のパリ・パラリンピック金メダル獲得を祝うセレモニーが行われ池主将が招かれていた。この機を逃さず、エディーは同主将を試合前日にチームへ招き、スピーチを依頼した。

 同じラグビーという名称以外で、そもそも車椅子ラグビーと15人制代表の繋ぎ役となっているのが、第1次エディージャパンで初代主将を務めた廣瀬俊朗さんだ。車椅子ラグビー連盟の理事を務め、エディーの復帰と共に15人制代表チームディレクター補佐に就いたこともあり、今回のサモア戦前の池主将のセレモニーと代表チームとの交流が実現した。池主将は、こう経緯を振り返る。

「僕たちのパリ・パラリンピックの決勝戦の前に、15人制日本代表の皆様から頑張れというメッセージビデオが届いて、それを皆で共有してすごく力を頂き、金メダルにも繋げることが出来ました。それを感謝する気持ちもあって、日本代表にスピーチしに来てくれないかというお声がけを頂きました」

 “ラグビー“と名の付く日本代表で、7人制も15人制も到達したことのない最高位に上り詰めた池主将は、車椅子ラグビーをプレーする価値をこう語っている。それは、エディージャパンの若い選手たちへ投げ掛けたメッセージのように聞こえる。

「自分たちのスポーツは、全員が手足に障害を持っています。間違いなく出来ないこともあるんですね。その出来ないことを出来るようにするためには自分の力も必要ですけれど、仲間の力だったり、スタッフの力、いろいろな人の力を借りながら目的、目標を成し遂げることが必要です。なので、必然的に感謝というものと、一緒にやっていくためのワードが無数に出てくると感じながらやっています。配慮も必要ですし、ラグビー、スポーツを通じて成長させてもらったので、スポーツの色々な場面で自分の感じたことも話しながら、またスポーツの発展に貢献していきたいと思っています」

 プロ野球・読売ジャイアンツを日本一に導いた当時の原辰徳監督や、サッカーで世界最強と謳われたバルセロナを率いたジョゼップ・グアルディオラ監督ら、成功を収めた指導者、チームを訪ね、勝利のためのヒントを常に模索してきたエディーにとっては、様々な困難を乗り越えて、世界一の高みに立った池主将の経験と言葉は、最高のヒントであり、願ってもない選手たちへの金言になった。

「いまの日本代表のような若い選手たちにとっては、いかに日々の感謝の気持ちを持ち続けることが出来るか、いかに自分たちが恵まれた環境にいるかという自覚が、どうしても薄れてしまう部分がある。現在練習を続ける宮崎に関しては、ワールドクラスの素晴らしい施設が整っています。そして、日本代表でプレーするというチャンスを得たということを自覚して、それを感謝することがとても大事です。今回スピーチしていただいた池さんは、事故で友人を失い、腕や肩が思うように使えないという状況を話していただく中で、毎日プラスの部分を見つけて、伸ばしていくという話を聞かせていただきました。そういった前向きな姿勢を聞くことに、選手は集中して耳を傾けていました。池さんの持つ謙虚さ、真剣さ、誠実さというものは学ぶべきところが多かったと思う」

 エディーからPNCでの主将を託される立川主将は、スピーチを終えた池主将と同じテーブルで昼食を共にしている。

「どういうリーダーシップを持っているのかという話をして、やはり自分らしさを忘れずにやっていくことが大事だと聞きました。それは僕にも通じるところもあったので、すごくためになった。何事も当たり前ではない状況から、常に前向きに取り組む姿というのは、選手たちも凄く刺激を受けたと思いましたし、今日の試合へ向けた意識の中にもそういう思いがすごくあったと思うので、いいタイミングでお話しできたと思います」

■車椅子と15人制、2つの“ラグビー”の共通項とは

 実はサモア戦が代表戦初観戦だったという池主将だが、自分たちがプレーするラグビーとライブ観戦したもう一つのラグビーについて、こんな共通項を語ってもいる。

「僕が一番感じているのは、全員が日本の文化を持っているわけではない中で、多様性の尊重というところがすごく大切な競技だということですし、その中にきちんとしたリスペクトがある。そしてチームとして信じあうところ、繋がりが欠けると一気に流れを持っていかれるけれども、その繋がりが切れなければ最後まで本当に素晴らしいラグビーを展開することが出来る。こういったところは共通点じゃないかと感じながら観ています」

 ラグビーと名乗れど、前方へのパスなどこの2つのラグビーには似て非なる部分も少なくはない。だが、お互いの違いを認め合い、補いながらゴール、トライを目指す組織性や、そのために必要な相互理解、そして敬意という、根源的なプレーをするための欠くことが出来ない価値観は変わりない。

 池主将からのエールを受けてサモアを乗り越えた日本代表が、コロナでの中止を挟み3大会(5年)ぶりのPNC優勝を懸けて挑むのはフィジー代表。世界ランキングでは、サモア戦勝利で1ランク上昇した日本の13位に対して10位、そして昨秋のW杯でも日本が果たせなかった決勝トーナメント進出を果たした強敵だ。ここまで対戦してきた相手が日本同様に若手育成という布陣だったのに対して、フィジーは準決勝アメリカ戦のメンバー23人を見ても、23年W杯経験者がFWを中心に11人揃う。準決勝までの相手よりワンステージ上の強豪に、どこまで「超速」で戦うことが出来るのか。池主将のスピーチから再認識させられたラグビー普遍の価値観を胸に、若き桜の15人がPNCの金メダル獲りに挑む。(吉田 宏 / Hiroshi Yoshida)

吉田 宏
サンケイスポーツ紙で1995年からラグビー担当となり、担当記者1人の時代も含めて20年以上に渡り365日欠かさずラグビー情報を掲載し続けた。1996年アトランタ五輪でのサッカー日本代表のブラジル撃破と2015年ラグビーW杯の南アフリカ戦勝利という、歴史に残る番狂わせ2試合を現場記者として取材。2019年4月から、フリーランスのラグビーライターとして取材を続けている。長い担当記者として培った人脈や情報網を生かし、向井昭吾、ジョン・カーワン、エディー・ジョーンズら歴代の日本代表指導者人事などをスクープ。ラグビーW杯は1999、2003、07、11、15、19、23年と7大会連続で取材。

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください