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エディー日本、夏の7試合で顕著だった「186.3」 世代交代に舵切り、日本の弱点ポジションに“隠し球“

THE ANSWER / 2024年9月30日 17時3分

フィジーと対戦したラグビー日本代表【写真:(C)JRFU】

■3勝4敗で終えた夏のテストマッチシーズン 成長と課題、2027年W杯へのセレクション構想

 ラグビー日本代表はパシフィックネーションズカップ(PNC)を準優勝で終え、来月からはニュージーランド(NZ)代表ら世界トップクラスの強豪との対戦に挑む。9シーズンぶりにヘッドコーチ(HC)に復帰したエディー・ジョーンズの下で「超速ラグビー」というコンセプトと世代交代を模索しながらPNCを勝ち進んだが、9月21日の決勝では、昨秋のワールドカップ(W杯)8強のフィジーに17-41と完敗した。3勝4敗で終えた夏のテストマッチシーズンの戦いぶりからは、新生ジャパンの成長と課題、そして指揮官が思い描く2027年ワールドカップへ向けたセレクション構想も見えてきた。(取材・文=吉田 宏)

 ◇ ◇ ◇

 第2次エディー体制での初タイトルというハッピーエンディングに至らなかった苦杯を、指揮官はこう総括した。

「この試合では、どこをみてもフィジーに勝る部分がなかった。セットピース、ブレークダウンでのコンテスト、そして空中戦といずれもです。選手たちはハードワークを続けていますが、実力が不足していた。しかし、この試合は我々の現状を確認するいい機会だったと思うし、不足している部分が何だったのかを確認出来た試合だった」

 W杯ベスト8、世界ランキング10位(対戦当時)のフィジーとの決戦は、後半突き放されての大敗に終わった。準決勝ではフィジカル勝負を挑んできたサモアに組織で対抗。個々のパワー差を、ダブルタックルなど人数、運動量で補った。ボールを持てば強みのスピードで6トライを重ね、同カード過去最多スコアで乗り越えた。しかし、サモア同様のサイズ、パワーに加えて、奔放なアタックという伝統を誇り、加えて元日本代表スキルコーチで、ニュージーランド、オーストラリアなどでの指導経験が豊富なミック・バーン新HCが落とし込む戦略をミックスしたフィジー相手には負の側面を露呈した。

 両チームとも世代交代を意図して若手主体の布陣で、先発15人の平均値を見るとキャップ数で日本の13.2に対してフィジーは12.7、平均年齢は日本の26.7歳、フィジーが25.7歳と、経験値は似たようなメンバー構成だった。だが、ゲーム自体は10-10で折り返しながら、後半は残り2分まで日本が敵陣22mライン内に攻め込めないほど力の差は歴然だった。

 PNC4試合の戦いぶり、そして6月の新体制初陣からのテストマッチ全7試合から浮かび上がるのは「組織としていかに機能するか」という第2次エディージャパンの命題だ。エディーはこれを「一貫性」という言葉を使ってきた。

 スタートラインとなったイングランド戦では、世界ランキング5位の強豪にもスピードで脅威を与えるシーンを何度か見せた日本だったが、その闇雲にハイスピードで攻めようとするスタイルでパスミス、連携ミスを連発。プレー精度、決定力の低さを露呈した。試合前はランキング下位だったジョージアにも敗れるなど、シーズン序盤戦は精度の低さも響いて、チームのスタイルを80分間出し続けられない戦いが続いた。その苦闘の中で、選手は「一貫性」を高める作業も続けていた。練習、実戦と時間をかければ当然チームとしての完成度やコンビネーションは高まるが、チーム内でも一貫性を高めるための取り組みが積み上げられていたことを、フィジー戦前日の囲み取材でCTB/WTB長田智希(埼玉パナソニックワイルドナイツ)が語っている。

「イングランド戦の時は超速ラグビーという大きな枠組みは与えられたけれど、正直言うとそれが本当にどういうものか分からずに試合をやっていた。これが本当に自分たちがやるラグビーなのかという疑問もあったが、試合を重ねる毎に工夫をして、選手の中で自分たちの役割がすごく明確になってきたと思います。スピードを上げる部分と、すこしコントロールしてエリアを取ったりする部分は整備されてきた。試合でも、ビデオを見ながらでも話し合いをしながらやっています」

 エディーが「現状を認識するいい機会」と語ったように、フィジー戦は日本代表の“いま”をよく物語っている。速いテンポの自分たちの流れを掴めば、世界10位にも十分に渡り合える一方で、許容範囲を超えた重圧を受けると、プレー、戦略にブレが生じて組織としての一貫性を失ってしまう。この試合での後半15分、19分の失点が象徴的だったのは、自陣での戦いを強いられる中で、プライオリティーを置くべきなのは失点のリスクを回避するための自陣からのエスケープだったはずだが、チームは無理なラインアタックを仕掛けて、結果的にPG、トライを許している。

 フィジーのような卓越した個人技を持つ相手なら、なおさら自陣での戦いを避けるエリアマネジメントが鉄則だがSH藤原忍(クボタスピアーズ船橋・東京ベイ)は「プレッシャーで、無理に(パスを)放らなくていいところで放ってしまったり、コミュニケーションが取れていないところで放ってしまった」と振り返った。ここまで勝ち上がってきたPNCでは、試合ごとにプレーの選択も進化してきたが、フィジー相手にはシーズン序盤のイングランド戦、ジョージア戦当時に戻ったように、闇雲で判断の悪いプレーを見せていた。

 裏を返せば、適切なプレーを選択して、しっかりとゲームをコントロール出来れば、ランク10位とも十分に戦える可能性も示したことになる。新体制スタート時点では、チームを統制出来ないシーンもあったSO李承信(コベルコ神戸スティーラーズ)が7試合中5戦で先発出場して、テストマッチプレーヤーとしての経験値を伸ばしたのは収穫の1つ。李と共にゲームを組み立てるHB団を組んだ藤原も、フランスの強豪クラブスタッド・トゥールーザンでの挑戦を優先して代表を離脱した齋藤直人に代わり4試合に先発。「リーグワンでは味わえないプレッシャーの中でプレー出来た」とテストラグビーというこれまでとは異次元のステージでプレーするためのプラス材料になったのは間違いない。

■顕著だった1試合平均のパス回数「186.3」の意味合い

 第2次エディージャパンの戦いぶりを振り返ると、スピードを意識したランに加えて、キックパスのような戦術的なキックがクローズアップされるが、スタッツで興味深いのは「パス回数」だ。数値はゲーム展開や対戦相手の戦術によって変化する相対的なものだ。エディー自身も「重要なことは単なるパス回数ではなくキック、ランなども含めて、どのタイミングでパスを使うかだろう」とプレーの質を重視するが、チームが目指すスタイルの傾向を知る秤にはなる。日本の今季7テストマッチからは顕著な数値が読み取れるのだ。

 日本代表の1試合平均のパス回数は186.3、キック対パスの比率は1対8.5、つまりキック1回に対して8.5回のパスを使っている。そして、敗れたゲームを含めてフィジー戦以外の6試合で相手を上回るパス回数を記録している。今季の最少のパス回数は敗れたジョージア戦の167回。ちなみに160回台だった3試合は全て敗れている。パス160回では勝てないという傾向が如実に表れている。一方で、最多パス回数はカナダ戦の215だ。全てのチームのスタッツを確認したわけではないが、W杯に出場経験を持つレベルで常に180回ほどのパスをしているチームはおそらくないだろう。

 参考までに強豪国のスタッツを見ると、NZ代表が常にパスの多いゲームをしているが、フィジー戦と同じ21日に行われオーストラリア戦ではパス218回、キック比1対10.9という高い数値を残し、敗れたオーストラリアもジョー・シュミット新HCが打ち出すボールを展開するスタイルの中でキック比1対9.1というパスゲームを演じている。この数値はすこし極端なゲームのもので、NZも24-17で勝利した7月13日のイングランド戦では、パス121回、キック比1対3.4という数値に留まっている。

 日本の極端なパスの多い試合運びを、戦術的なキックを増やすことで多くの強豪国のような試合運びにすることが「勝てるチーム」になるには必要だという考え方もあるだろう。エディー自身も就任時から「勝つチームはキック使っている」とキックの重要性は説いている。だが、超速ラグビーというスタイルで相手に対して優位性を持つためには、パスを使いテンポアップする要素が不可欠だという考え方が、いまの日本代表の“選択”に繋がっている。フィジー戦後の会見で、エディーはパス回数の多さについてこんな考え方を示している。

「ラグビーにおいてボールキャリーを効果的に行うには2つの方法がある。パスをしないこと、もしくはスリーパスを繋げることです。パスをせずにキャリーするためには、やはりサイズがあってフィジカルに長けていないと不可能です。今日のフィジーは、それを上手く出来ていた。だがジャパンはスリーパスを繋げるラグビーで世界一になりたいと思っています。スリーパスを繋いでキャリーをしていくことで、相手防御にどんどんプレッシャーをかけていくことができます。今日は、そこでボールを落す場面が多かったことが致命的だったというところでしょうか」

 起点から展開されたボールを、意図した3回のパス(アタック)でスコアや、スコアチャンスに持ち込むのがエディージャパンの攻撃面での基本的な考え方だ。3パスまでのサインプレーなど準備された攻撃で有効な状況が作り出せなければ、キックでエリアを進めるか、ボールを捕球した相手に重圧をかける。反対に、コメントにある「パスをせずキャリーする」チームの代表格が世界最強のフィジカリティーを誇る南アフリカだ。このチームの顕著なスタッツを紹介すると、12-11でNZを下した昨秋のW杯決勝のパス回数はわずか84、キック比1対2.2という驚くべき数値を残す。

 南アフリカとは対照的に、日本代表のようにフィジカル勝負では分が悪いチームは、どうしてもボールを動かし、個人技ではなく複数の選手が連携する組織プレーで防御を崩し、スコアしてく戦い方が宿命でもある。そのスリーパスという基本的なゲームの進め方の上に、SHからのキックのようなバリエーションを織り交ぜて戦うのが、第2次エディージャパンのラグビーだ。そのためには、対戦相手以上にパスミスなどを減らした完成度の高いプレーが選手に求められるのだが、テストマッチ7試合を振り返ると、段階的な精度のアップはみられるものの、先に触れたフィジー戦での自陣からのプレー選択など、まだ上位チームを凌駕するほどの仕上がりには至っていないのが現状だ。

 世界13位(対戦当時)のサモアにはしっかりと勝ち切れるのに対して、同10位のフィジーには歯が立たない。もちろん、この順位差3には、財政難に苦しむサモアの実情など直近のランキングに表れない“格差”もあるのだが、来月から始まるニュージーランド、フランス、イングランドという世界ランキング5位以上の強豪との激突までに、どこまで完成度、一貫性を高めることが出来るのかという勝負が始まることになる。


フィジー戦で存在感を見せたディラン・ライリー【写真:(C)JRFU】

■今後は世代交代へ舵切り「100回でも何回でもお伝えします。新しいスコッドが必要だ」

 来月上旬にも再始動する日本代表だが、1ステージ上の相手との戦いに、エディーがどんなメンバー選考をするのかは興味深い。ここまでは一部の実績組に多くの若手を加えた布陣で戦ってきたが、フィジー戦後の会見で選手のセレクションについてエディーがわずかながら語気を強めたシーンがあった。

「これまで何度も伝えてきたことを今日も敢えて伝えます。前回のW杯でジャパンは、年齢層の高いシニアプレーヤーたちのスコッドだった。今回、私が就任する際に任された仕事は、ジャパンで新しいスコッドを形成することです。何度もこういう質問がありますが、私が100%確信しているのは若い世代、次の世代の選手たちを輩出していかないといけないことです。過去2回のW杯ではとても古い選手たちに頼っていた。だが、新しくフレッシュな才能を発掘することが今の一番の課題です。なので、私の目指すものが皆さんに伝わっていなかったことは謝罪しますが、100回でも何回でもお伝えします。新しいスコッドが必要です」

 この発言は、この先のテストマッチへ向けて、現在積極的に招集してきた若手と代表から外れている経験者をどんなバランスで起用していくのかという質問に対しての回答だ。若手起用の方針はメディアも重々承知しながらも、強豪国との対戦が待つ中で、未熟さも露呈する現行メンバーにテコ入れがあっても不思議ではないという考え方もある。だが、この発言からはエディーが「世代交代」へと強く舵を切っていると受け止めていいだろう。

 ただし、過去にエディーは「現状は選手の能力を見ていきたい。いい選手は(代表に)残るだろうし、そうじゃない選手は去ることになる」とも語っている。今季代表合宿に呼ばれてきた若手も、期待したパフォーマンスに至らなければ次は新しいメンバーが呼ばれるのは代表セレクションの宿命でもある。そのような状況が起これば、新たに招集されるのは他の新たな若手なのか、経験値のあるシニア選手なのかは現時点では流動的でもある。100%“古いメンバー“が呼ばれないことが確定しているわけではない。

 もちろん、PNCでは35歳以上の選手は休ませるという方針の下でチームを離れているFLリーチマイケル(東芝ブレイブルーパス東京)や、フランスリーグ挑戦中のSH齋藤、No8テビタ・タタフ(ボルドーベグル)という春夏に選考されたメンバー、そして一部のコンディション不良で参加を見送った経験者はいまだにエディーのメンバー構想に残っている。だが、それ以外の昨秋までのメンバーについては、決して門戸が大きく広げられていないことも確かなようだ。ファン、関係者の中には、これから対戦するNZ代表ら世界の強豪に対して最強の布陣を組んでほしいという期待もあるはずだが、指揮官はそんな思い以上にジャパンを2027年とそれ以降にどこまで戦えるチームに仕上げることが出来るかというチャレンジにプライオリティーを置いている。

 今季戦ったテストマッチ7試合を振り返れば、この先のセレクションでも“当確”に近い採点をもらった選手、まだ十分な評価を得られていない選手も見えてきている。

 チームのコアメンバーとして絶対的な存在感を見せたのは2人。CTBディラン・ライリー(埼玉WK)は、フィジー戦前半20分の自分一人で防御突破からトライまで持っていくプレーに象徴されるエースとして不可欠な存在になりつつある。身長201cmの大型LOワーナー・ディアンズ(BL東京)も、強みのラインアウトジャンパーだけではなく、ボールキャリーやタックルなどフィールドプレーで大きな成長を見せる。タックル成功回数では、ワーナーはイタリア戦でチーム2位の9回を成功すると、その後のカナダ戦12回(同3位)、アメリカ戦16回(同1位)、サモア戦7回(5位)、フィジー戦13回(3位)と高い数値を残している。本来LOに求められるのは、体の大きさ、重さを生かした空中戦や局地戦だが、このようなタックル成功の数値を残すためにはFL、No8という機動力が武器のポジションと同等に近いワークレートが必要だ。プレー時間に関しても「自分から出たいとお願いしている」と語るように全7試合に先発出場して、6試合でフル出場するタフさも大きな評価ポイントだ。

 W杯フランス大会でも決定力をみせたWTBジョネ・ナイカブラ(BL東京)が2トライ、リーグワンでの実績を持って今季代表入りしたマロ・ツイタマ(静岡ブルーレヴズ)も初出場のカナダ戦から4試合で4トライと、ライリーの6トライには及ばないもののフィニッシャーとしての期待に応えている。今後もアウトサイドBKの基本メンバーに残るポテンシャルは証明している。PNCではベンチスタートだったFLティアナン・コストリー(神戸S)は、持ち味のスピードに自分自身で課題に挙げたフィジカル面でも、テストマッチで十分に戦えるポテンシャルを見せた。

■期待の新戦力、さらに日本の弱点LOなどに“隠し球”の存在も

 2027年へ向けて段階的に過熱していくであろうポジション争いへの“挑戦権”を掴みかけているのが23年Wも経験したFL下川甲嗣(東京サントリーサンゴリアス)とCTB/WTB長田智希(埼玉WK)だろう。下川は運動量、タックルとジャッカル(密集戦でのボール争奪)が求められるオープンサイドFLでテストされて5試合に先発。好判断のタックル、接点でのファイトに加えて、持ち前のスピードと運動量を生かしたサポートランから3トライをマーク。長田はCTB1試合、WTBで3試合に先発して4トライを奪っている。

 長田の起用に関しては、3年後のW杯へ向けたエディーの戦略も見ることが出来る。アメリカ戦後のコラムでも触れたように、NZら世界の強豪は複数ポジションでプレー出来るユーティリティー選手の起用を模索している。これは対戦相手の戦術やスタイルに対応して、控えメンバーのFWとBKの配分に柔軟性を持たせたいという、W杯のような短期決戦では重要さを増す戦略的な考え方からだ。エディーも3年後のW杯を見据えて、SO/FBでのテストを続ける李、山沢拓也(埼玉WK)らと共に長田をCTB/WTBで起用する可能性も模索している。

 他にもBK勢ではツイタマを試合途中にWTBからFBに下げて起用。“エース”ライリーも、過去にWTBでのプレー実績を持つ。FWでも、ジョージア戦でリーチを大学以来経験のないLOで先発起用したのも同じ考え方からだ。LO兼FLのファカタヴァアマト(リコーブラックラムズ東京)も、すでに両ポジションで実績を積んでいる。現時点ではメンバーを外れるジャック・コーネルセン(埼玉WK)もLO兼FW第3列としてテスト経験を持つ。このようなユーティリティープレーヤーを多くメンバーに入れることもトーナメントを勝ち上がる上では重要な意味を持つ。

 下川、長田のこれからの可能性に戻るが、下川にとってはチームでも最も厳しい争奪戦が見込まれるポジションでの戦いが強いられる。現行メンバーに加えて、先にも挙げたリーチ、タタフ、そして様々な理由で代表離脱中のベン・ガンター(埼玉WK)、姫野和樹(トヨタヴェルブリッツ)、コーネルセン、ピーター・ラブスカフニ(S東京ベイ)らが、いつ代表に復帰しても文句のないレベルのポテンシャルを持っている。ここまでの下川のパフォーマンスは一定の評価を受けているだろうが、他の候補者を差し置いて代表リストに生き残るには、プレー面で1つ大きなアドバンテージを持つことが課題になりそうだ。長田もユーティリティーとゲーム理解度の高さなどでは評価を得ているはずだが、序盤戦の怪我で代表を離れたCTBサミソニ・トゥア(浦安D-Rocks)らフィジカリティーでは上の外国出身選手との選考レースの中で、どんな強みを見せられるかが今後のサバイバルのキーポイントになるだろう。

 これまでのコラムでも成長を紹介してきたSH藤原、SO李についても、下川、長田らと同様に、代表生き残りのための手懸りを掴んだというのが現状だろう。李については、実績のある松田力也(トヨタ)が、コンディション不良などもありエディージャパンでのプレー時間が不十分な中で、この先どこまでチームにフィットしてくるかも鍵を握る。「超速」を意図したゲームメークが見えてきた一方で、まだ散見される失点の危機を招くような判断ミスをどこまで減らしていけるかが課題になる。藤原にも、齋藤直人、福田健太という“潜在的”な実力者がいる一方で、若手として起用される藤原自身が、エディーも高く評価するSH土永旭(京都産業大4年)、高木城治(同2年)ら大学生勢に追われる立場でもある。

 最後に、個人的な意見だが“隠し球”として期待の選手にも触れておこう。過去のコラムでも触れたように、相手から嫌がられるプレーヤーとしての資質を持ち併せる選手の中で、まだ固定されない司令塔では35歳の田村優(横浜キヤノンイーグルス)は経験値、ポテンシャルを十分に持ち併せている。相手の裏を突くようなパス、キックと、国内のSOとしてはトップクラスのスキル、判断力を持つ。CTBからFBまでカバーするユーティリティーと相手防御のギャップを突く感覚で、他のフィニッシャーとは異なるクオリティーを見せるメイン平(BR東京)も超速の中で試してみたい。

 そして、ワールドラグビーの規約緩和に伴い27年までに代表資格を得るであろう、まさに隠し球の好素材も少なくない。世界のベスト8を争うレベルで日本の弱点でもあるLOでは、ルアン・ボタ、デービッド・ブルブリンク(共にS東京ベイ)という身長200cm級の強力コンビが揃い、リーグワン王者・BL東京にもジェイコブ・ピアースという、フィジカルゲームだけではなく高いラグビーセンスを持つ存在もいる。BKも、リーグワンでファンタジスタぶりを如何なく発揮するSOアイザック・ルーカス(BR東京)も十分に“怖さ”を持った司令塔だ。

 代表選考に関してのエディーの「なるべく日本で生まれた選手を使いたい」「若い選手を発掘したい」という発言を踏まえると、この選手たちの多くにハードルはある。だが、彼らが代表に加わることで、エディーが志向する若手の選手たちに、フィジカルやスキル、判断力という経験値の面で大きな学びになる期待は十分にある。エディーが力説する世代交代は正論だろう。だが、その新たな世代が3年後までにワンステージ上のテストプレーヤーに成長するためには、周囲の選手らからの化学反応も欠かせない。(吉田 宏 / Hiroshi Yoshida)

吉田 宏
サンケイスポーツ紙で1995年からラグビー担当となり、担当記者1人の時代も含めて20年以上に渡り365日欠かさずラグビー情報を掲載し続けた。1996年アトランタ五輪でのサッカー日本代表のブラジル撃破と2015年ラグビーW杯の南アフリカ戦勝利という、歴史に残る番狂わせ2試合を現場記者として取材。2019年4月から、フリーランスのラグビーライターとして取材を続けている。長い担当記者として培った人脈や情報網を生かし、向井昭吾、ジョン・カーワン、エディー・ジョーンズら歴代の日本代表指導者人事などをスクープ。ラグビーW杯は1999、2003、07、11、15、19、23年と7大会連続で取材。

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