1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. スポーツ
  4. スポーツ総合

三冠牝馬を猛追した愛馬「勝てなかったけど褒めてあげたんだろうな…」 1通のメールに滲み出た調教助手の愛情【2012年秋華賞・アロマティコ】

THE ANSWER / 2024年10月9日 16時3分

2012年秋華賞、競り合うジェンティルドンナ(中央)とヴィルシーナ(左)。その後ろからアロマティコは猛追し3着入線した【写真:産経新聞社】

■競馬ライター・井内利彰氏が語る思い出の秋華賞

 中央競馬は秋のG1シーズンに突入し、今週は3歳牝馬の三冠最終戦となる秋華賞が13日に京都競馬場で行われる。数々の名勝負が繰り広げられ、歴史的なシーンも生まれてきたレースを前に、これまで多くの名馬たちの調教を見てきた「調教捜査官」こと、競馬ライターの井内利彰氏がTHE ANSWERに初登場。調教を通じてさまざまな視点から過去のG1レースを振り返る新企画「調教捜査官・井内利彰の回顧録」がスタートする。第1回は三冠牝馬が誕生した12年前のレースで抜群の気配を見せていた一頭の思い出を語ってくれた。

◇ ◇ ◇

 調教捜査官の井内利彰です。調教捜査官というのは職業名ではなく「競馬予想TV!」(フジテレビONE)に出演している時のニックネームになります。普段は栗東トレーニングセンターで馬の調教を見ています。週末はJRA競馬場にてビギナーズセミナーの講師を担当したり、競馬イベントに出演させていただいています。

 今回は私の思い出のG1を振り返るということで、一般的な勝ち馬中心の回顧ではなく、あくまで私の主観で回顧しています。その中で取り上げたのが2012年の秋華賞。私は「調教」を予想の根幹としていますが、調教の中でも何を重視するかはそのレースの傾向を探ってから決定します。この時の秋華賞は過去10年(2002年~2011年)の勝ち馬10頭のうち、5頭が該当していた「追い切りの本数の多い」という内容を重視しました。

 牝馬は牡馬に比べて気性が繊細なので、追い切り本数の多い馬が好走するレースは少ないのですが、ここは牝馬三冠の最終戦。G1ということもあって、激しいレースペースに耐えうるためには調教量が重要ということが過去10年の結果として表れているのだと判断しました。

 そこで本命を打ったのがアロマティコ。前走で自己条件、1600万下(現3勝クラス)のムーンライトハンデキャップを勝つことができなかったので、実績的には他の出走馬に見劣っていましたが、中2週のローテーションに対して、坂路とCWで計4本の追い切りを消化。こんなに調教の負荷を強めて大丈夫なのかなと逆に心配になるような調教量でしたが、担当する野口陽介調教助手は「中間は攻めているので、飼葉の量も増やしているんですが、それをしっかり食べてくれます」とアロマティコのタフさを強調してくれていました。

 調教予想というのは追い切りの動きを見て良し悪しを判断することがほとんど。でもその動きは見る人によって意見が分かれるため、主観的な判断にすぎません。しかし、過去の勝ち馬の調教パターンを分析して、今回の出走馬でそれに合致している馬を見つける方法は誰がやっても同じ結論に至ります。これが客観的な調教予想だと考えています。

■好走パターンでも…調教予想の欠点とは

 しかし、この方法にも欠点はあります。それは好走パターンの調教を課したけれども、その馬にはマッチしていなかった場合。今回であれば、牝馬としてはタフな調教を課すので、調教量を増やしたものの、飼葉を食べなくなり馬体が減ってしまえば、その馬自身のパフォーマンスが低下してしまいます。今現在の調教内容がその馬にフィットしているかどうか、それは関係者に聞くしかありません。

 私は栗東トレーニングセンターで追い切りを見て、関係者に取材することができる立場にあります。アロマティコを管理した佐々木晶三厩舎は調教師と懇意にさせていただき、厩舎スタッフとはコロナ以前はボーリングをしたり、食事に行ったり、私がその輪に入れていただいている仲間のような存在です。この一文だけを切り取れば、仲良し意識で本命を打ったように思いますが、前記した客観的な理由が大前提です。ただ、親しくしているからこそできる取材というものがありますし、私は予想する上で客観と主観のバランスをすごく重視しています。

 レース当日は中山競馬場で仕事があったため、秋華賞はモニター観戦でしたが、アロマティコは馬体重の増減がなく、パドックでの気配は抜群。単勝6番人気でしたが“やってくれるんじゃないか!”という期待を持ってレースを見守ります。

 しかし、勝ったのはジェンティルドンナ。桜花賞、オークスを勝っていたので、このレースで牝馬三冠を達成しました。そして、ハナ差2着はヴィルシーナ。こちらは桜花賞もオークスも2着。つまり、2012年の牝馬三冠はすべてジェンティルドンナとヴィルシーナで決着したわけです。そんな3歳牝馬の絶対的な2強に対して3着したのがアロマティコでした。

 本命は勝ってナンボというのが私の考え方ですが、さすがにこの時はよく3着にきた!頑張った!とすごくうれしい気持ちになりました。「競馬予想TV!」で公開している馬券も複勝と3連単が的中したので、レース後、野口助手にも「ありがとう」とメールしたかったのですが、勝っていないのにありがとうはおかしいかも?という素朴な疑問が…。

 でも改めてレースを振り返ると2強には完敗していて、本当に頑張った3着。だから素直に自分の気持ちをメールで送ろうと思いました。メールの返信は「本当によく頑張ってくれました」と大満足の内容。もともと馬に対する愛情の深い助手さんなので、勝てなかったけど、きっとアロマティコを褒めてあげたんだろうな、これで良かったんだなと感じた瞬間でした。(井内 利彰 / Toshiaki Iuchi)

調教をスポーツ科学的に分析した適性理論「調教Gメン」を操る調教捜査官。競馬予想TV!(フジテレビONE)に出演中。JRAの競馬場、ウインズのイベントに出演し、JRA主催のビギナーズセミナーの講師としても活躍。著書に「競馬に強くなる調教欄の取扱説明書」「調教Gメン-調教欄だけで荒稼ぎできる競馬必勝法」「調教師白井寿昭G1勝利の方程式」などがある。

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください