子どもたちは「気づけば答えを出している」 ラグビー強国・フランスのコーチが日本で見せた“真逆”の指導
THE ANSWER / 2024年10月16日 6時53分
■リーグワンの静岡ブルーレヴズが行った画期的な取り組み
この夏、日本のラグビー界では初という画期的な試みが形となった。リーグワンのクラブが欧州の強豪から育成年代の指導者を招き、日本の子どもたちを指導してもらおうというのだ。主催した静岡ブルーレヴズは、提携関係にあるフランスの強豪、スタッド・トゥールーザン(以下トゥールーズ)から何を学んだのか。指導に参加したアカデミーコーチの藤井達也さんに、日本との違いを中心に聞いた。(取材・文=THE ANSWER編集部 羽鳥慶太)
トゥールーズは直近の2023-24シーズン、フランスのトップリーグ「TOP14」で23度目の優勝を果たし、欧州チャンピオンズカップも制した同国を代表する強豪だ。昨秋、地元開催のワールドカップで8強入りしたフランス代表にも、主将のSHアントワーヌ・デュポンらを送り込んでいる。デュポンはこの夏、パリ五輪で金メダルを獲得した7人制のフランス代表でも主力だった。
その名門チームから、元フランス代表を含む3人のコーチを招いてのキャンプは、8月20日から2泊3日の日程で行われた。午前、午後にそれぞれ1時間半ほど、計5度のトレーニングを経て、最後はミニゲームを行うというところまで、36人の小中学生がボールを追った。普段はブルーレヴズで中学生チームの監督を務める藤井さんが見ると、練習の時間設定から違ったという。
「ウォーミングアップの後、ボールを使ってハンドリングの練習をするんですが、15分ぶっ続けでやるんです。日本なら7分がいいところ。ボールを常に動かすんですね。子どもたちはもうヘトヘトです」
頭には「こんなに疲れさせていいのかな?」という疑問がわいたが、トゥールーズのコーチ陣に言わせれば「試合ではこれ以上に疲れている。その中では普通じゃないか」。チームの哲学である“立ってつなぐ”ラグビーを試合で実現するための準備は、こんなところから始まっていた。
フランスのラグビー界は、ジュニアからトップチームまでクラブでプレーし続けるのが特徴だ。日本や英国など、学校のチームが主軸になる年代がある国とは対照的。そのため「超速ラグビーを全世代がやっているんです。オフロードパス(タックルされながら味方にボールをつなぐパス)でラックを作らず、スペースにどんどんつないでいく」と、指導のスタイルが断絶しない。フランス代表やトップチームが目指すラグビーを、少年少女も同じように実践できるのは、強化の上で大きなメリットとなる。
ブルーレヴズも、前身のヤマハ発動機時代からジュニア選手育成の歴史は20年を超える。ただ制度上「高校、大学でどうしても切れてしまう」のが悩みだ。中学生チームの監督としての藤井さんは「こういうプレーをしたら怒られると動くのではなく、自分たちで考えられる選手を育成しようとやっています。選手の根っこ、可能性を太くして高校ラグビーへ送り出すつもりです」という考え方のもとで選手を指導してきた。
トゥールーズのビブスを着て楕円球を追った子どもたち【写真提供:静岡ブルーレヴズ】
■子どもたちは迷っていい「気づけばしっかり答えを出している」
そうした視点から見ると、コーチングのスタイルも「フランスは真逆でした」という。コーチや先生に教えられて学んでいく日本のやり方は「覚えやすいけれど、形にはまりすぎて『こうしなければいけない』となりがち」だ。ところがトゥールーズのスタッフは、どうやって動くのか、細かい説明をしないままどんどんメニューを進めていった。
「だからみんな『?』となったり、迷うんです。でも気づけば、自分なりにしっかり答えを出している。教えるのか、求めに行くのかの違いは感じました」
そして、ラグビーは肉体のぶつかり合いが避けられない。コンタクトスポーツの典型で、欧米人に比べて体格で劣る日本人は、世界での強みを見出しにくい種目でもある。藤井さんも「コンタクトは技術だと指導しています。初めてラグビーをやるタイミングで、接触はどうしても怖いもの。そこで勇気、気合い、根性じゃなく、効率的なコンタクトがある」というが、トゥールーズの指導法に大きなヒントがあった。
「フランス独自の基準で、ユース世代は上半身に当たりに行ったら反則だというんです。正面からぶち当たるのを反則にして、間に入ってくるタックルをできるように、しっかり下に入れるようにという狙いなのですが、これがいちばんの衝撃でした」
成長の早い遅いによる体格差がある時期は大きな子が圧倒的に有利でも、じきに正面からただ当たるタックルは通用しなくなる。その日のために早くから“技術”を教えるルールが存在するのだ。
キャンプを終えて、学びがあったのは子どもたちだけではない。藤井さん自身の指導にも変化が現れたという。「もともと考えさせることを狙ってやっていましたけれど、もっと考えさせてもいいのかな」と、この2か月は選手を自由にさせる時間が増えた。
「日本だったら怒られるかな? というプレーも、まずは『ナイスプレー』だと伝えるようになりましたね。最初から縛りを入れてしまうと、選手の可能性を狭めてしまうのかなと思うようになりました」。コーチがすぐに答えを与えず、ボールを生かし続けるという哲学だけを伝える。すると頭の柔軟な子どもたちは、自分たちでどんどん答えを見つけていく。強国のジュニア指導にヒントを得ようとする第一歩は、確かな成果を残したようだ。(THE ANSWER編集部・羽鳥 慶太 / Keita Hatori)
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