キャンプでも「1日7~8時間勉強」 日本唯一の“医師兼プロ野球選手”竹内奎人にしかできない二刀流
THE ANSWER / 2024年10月17日 6時43分
■くふうハヤテ入団後も猛勉強…開幕当日に合格発表
日本では過去に例がないとみられる、医師免許を持ったプロ野球選手がいる。今季からNPBの2軍ウエスタン・リーグに参加したくふうハヤテの25歳、竹内奎人投手だ。群馬大では医学部で学ぶかたわら準硬式で最速147キロを誇り、今季の開幕前に受けた医師国家試験にも合格。その上でNPB球団入りを目指し続ける理由、竹内にしか持てない夢を聞いた。(取材・文=THE ANSWER編集部、羽鳥慶太)
竹内が国家試験合格という朗報を聞いたのは、本拠地でオリックスとの開幕戦を戦った3月15日だった。ただ2番手で登板したその試合は3回2失点で、その後も失点が続いた。「やっぱり1年間は受験生だったので、調整が間に合ってなかったですね。MAXのパフォーマンスとはほど遠かったです。思うようなボールが投げられなくて……。自分の問題です」。最高難度の二足のわらじを目指した“後遺症”だった。
形のないところからスタートした新球団、くふうハヤテのキャンプインは1月10日と早かった。ただ竹内には医師国家試験が2月4日に控えており、こちらも追い込みの時期だった。キャンプは全体のメニューを終えたところで上がり、個人練習にあてる時間を試験勉強に割いた。
「毎日7~8時間は勉強していましたけど、ほかの受験生は寝てる以外は勉強しているのが当たり前の世界です。なので大変だとは感じませんでしたね。家ではなかなかできないので、図書館やカフェでというのが多かったです」。まずは医学部での学びを形にすることに集中したのだ。
開幕後、少しずつNPBのファームという環境に慣れる中で、転機と呼べる試合があった。5月16日のヤクルト戦だ。「開幕からずっとリリーフだったのが、チーム事情もあって先発したんです。試合を作れたことで、こちらの方が自分の良さを出せるんじゃないかと」。5回を被安打1本、1失点。後半戦は先発ローテーションの一角を占めるようになった。
その過程で悟ったことがある。「自分、特徴のある変化球がないんです。ここでやっていこうとすれば特に」。右腕からの直球は最速147キロを誇るが「めちゃくちゃスピードがあるわけでも、変則投法でもない」と言う。代わりに見つけた武器が「その日のコンディションに合わせて、いろんなタイプの投手になれる」。強いていえば総合力で、イニングを重ねながら試合をつくっていくのが自分の道ではないかと感じさせられた。
いつかは整形外科の医師に。竹内はそこで自身にしかできない形をイメージしている【撮影:羽鳥慶太】
■いつかは野球に恩返し…竹内にしかできない二刀流
群馬大学では準硬式でプレーした。成人が金属バットを振り回す世界で、長打を許さないための慎重な投球が身についていた。ところがプロの打者は、そんな備えも軽々と超えてきた。「準硬式ではバットに当てさせない投球をしていましたし、普通にやっていれば打たれなかった。それがここでは際どい球は見極められる、甘く入れば打たれますし、決まったと思ったボールも当ててくる」。それであればと、当てられることを前提とした投球に切り替えた。
「バットに当てさせないじゃなく、打者の思うようにバットを振らせない。思い通りのバッティングをさせない。バットに当てさせた中で抑える。空振りを取るものではないという考え方をするようになりました」
状況の変化を感じて“変身”できるのは、医師としての目があるからかもしれない。「解剖学や生理学の知識は、野球と結びつくところもあると思います。この動きをできればどうつながっていくかはわかりますし、怪我の予防についても」。自身の肉体には当然ながら敏感だ。
今季は27試合で0勝6敗、防御率6.09。初勝利を挙げられずに終えた。いつかは整形外科の医師という道を歩き始めようと思っているが「来年まではチャレンジしようと決めています」と、当面はドラフト指名を目指してプレーを続けるつもりでいる。竹内にしか目指せない医師の形を、思い描いているからだ。
「今も各球団にはチームドクターがいますが、どこも非常勤です。チームに帯同して、技術的なコーチングもこなせるドクターなんていう形があってもいいのかなと、漠然とですが考えているんです」
思い描く“二刀流”は竹内にしかできない。だからこそ野球をより高いレベルで経験したいという欲は強い。今季対戦した中で、プロの凄味を感じさせられた選手はいたかと聞くと、球界を代表する名前がポンポン上がる。
「ビシエド選手、中田翔選手(ともに中日)、佐藤輝明選手(阪神)ですかね……。打席での雰囲気がすごくて、どこに投げたらいいの? という感じでした。だからこそ12球団に行って、そういうレベルをもっともっと感じたいんです」。日本のプロ野球に名前を残す選手との対戦を、いつか医師として生かす。そんな夢に向かって邁進している。(THE ANSWER編集部・羽鳥 慶太 / Keita Hatori)
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