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ラグビー日本、世界最強への挑戦 番狂わせに耽々「NZと対戦するなら今だ」21年前に起きた“事件”再現へ――エディー・ジョーンズ独占インタビュー

THE ANSWER / 2024年10月23日 10時33分

エディー・ジョーンズ【写真:Getty Images】

■エディー・ジョーンズ独占インタビュー前編 26日のオールブラックス戦への覚悟を問う

 打倒“最強軍団”は果たせるのか。ニュージーランド(NZ)代表オールブラックスを迎え撃つリポビタンDチャレンジカップ(10月26日、横浜・日産スタジアム)、そしてイングランド代表らと対戦するヨーロッパ遠征へ向けて13日から強化合宿(宮崎ほか)を再開したラグビー日本代表。チームを率いるエディー・ジョーンズ・ヘッドコーチ(HC)が単独インタビューに応じた。過去7戦全敗の強豪からの金星を奪うためのヒント、そして世界最先端のラグビーで何が起き、日本はどう進化を進めるのか。エディージャパンを取り囲む課題とチームの挑戦を聞いた。(取材・文=吉田 宏)

 ◇ ◇ ◇

 オールブラックス戦に備えて宮崎合宿入りした直後に取材に応じてくれたエディー。インタビューは、世界最強クラスの相手に勝つための取り組みから始まった。

「まず首都圏と宮崎2手に分かれての3日ほどの合宿を行いました。FWはセットピース、そしてBKはパスキャッチ、そしてブレークダウンに取り組んできた。そこの基本的なスキルにしっかりと取り組みながら、我々のゲームプランを進めていきたい」

 始動の3日あまりではあったが、敢えてFWを首都圏、BKは拠点の宮崎に分けた変則日程の狙いは明らかだ。FWにスクラム、ラインアウトでチーム以外の相手との出稽古の必要性を感じてのもの。14日には横浜キヤノンイーグルス、15日は浦安D-Rocksとのセットプレーの“やり合い”に取り組み、宮崎ではここまでのテストマッチで続出したハンドリング、連繋ミスの修正に力を注いだ。

 ビッグネーム揃いの秋のテストマッチシリーズ。その中でも、自他共に認める「ラグビー王国」との一戦はシリーズ開幕戦であり、第2次エディージャパン1年目の国内最終戦。新体制スタートから8戦目は、最も困難な相手との戦いとなるのは間違いないが、常に勝利への野心を滾らせるエディーにとっては絶好の“獲物”と対峙するゲームでもある。このチャレンジャブルな対戦の価値について、指揮官は10日に行われた代表メンバー発表会見でこう語っている。

「オールブラックスとの対戦は、いつも最高の指標になるような試合です。過去数十年で80%に近い勝率を誇るチームですし、我々としては現状確認が出来る素晴らしい対戦になると考えています」

 その「指標」となるビッグマッチへ選んだメンバーは36人(10日発表時)。選手たちは強化合宿で篩にかけられ、今季国内最終戦、そしてヨーロッパでのフランス、イングランド戦に挑む。顔ぶれをみると、夏のテストマッチシリーズまでの代表および日本XV合宿参加者 32人、昨シーズン以前の復帰選手1人、初選出3人。エディーは「今回のスコッドは、どちらかというと(新旧選手を)ミックスした布陣」と、No8姫野和樹らのテコ入れに触れたが、世界トップ5が並ぶ秋の対戦相手を考えると、継続的に若手を積極起用したかなり意欲的な布陣でもある。

 対戦するオールブラックスは、現在は世界ランキング3位。アイルランド、南アフリカを追う位置にはいるが、日本の過去の挑戦は全て退けてきた。若い布陣で臨んだ直近の22年は38-31と接戦になったが、7度の対戦の1試合平均スコアは81-14 (小数点以下四捨五入)と日本を圧倒している。エディーにとっては、オーストラリア、イングランド代表指導者時代も渡り合ってきた宿敵でもあるが、単独インタビューでは興味深いオールブラックスの「いま」も語っている。

「NZは2012年から23年までは一貫性を持った、非常に強い時代が続いてきた。グレアム・ヘンリー、スティーブ・ハンセン、そしてイアン・フォスター(歴代HC)が、セットピースが強く、カウンターアタックを得意とした伝統的なNZのラグビーを作り上げてきた。それが、スコット・ロバートソンHCの体制に替わって、すこしラグビーの形も変わったのかなと思っています」

“レイザー(剃刀)”の異名を持つロバートソンHCは、現役時代はリコー(現リコーブラックラムズ東京)でもプレーして、クルセイダーズを率いた9シーズンでスーパーラグビー7度の優勝を遂げた名将だ。NZ国内でも長らく待望論が高まっていた指揮官の就任だったが、アルゼンチン、南アフリカに黒星を喫するなど、ここまでの24年シーズン成績は6勝3敗。ラグビーチャンピオンシップ最中の8月には、アタック担当として手腕が期待されたレオン・マクドナルド・アシスタントコーチ(AC)が早くも辞任するなど、高い期待感からすれば「順風」までには至っていない。微細な戦術の変化はあるが、伝統的なオールブラックスのスタイルは変わらない。その中で、エディーはメンバー編成を大きな変化だと指摘する。

「ここまでのチームを象徴する選手たち、それはアーロン・スミス(SH、トヨタヴェルブリッツ)やオーウェン・フランクス(元PR、現日本代表AC)、ブロディ・レタリック(LO、コベルコ神戸スティーラーズ)にサム・ホワイトロック(元LO、埼玉パナソニックワイルドナイツ・アドバイザー)といった選手ですが、彼らのようなゲームを安定させる存在が抜けたこと。そして新しいHCということで、まだチームを仕上げるには時間が短い。今はどうやっていくか、これから5、6年先へどんな選手になっていくのかというバランスを模索している段階だと思う」

■「このチームと対戦するなら今だ」 エディーが21年前に起こした“事件”

 このようにNZの状況を語った上で、26日の対戦についてはこう言い切った。

「このチームと対戦するなら今だなと思います」

 日本代表に目を向けると、6月のチーム始動から「超速ラグビー」という従来以上に細部に渡り速さを求め、メンバーも大きく若返りをみせる、いわば発展途上のチームだ。ここまでのテストマッチ7試合は3勝4敗と負け越し、世界ランキングも12位から14位へと降下した。ゲームでのパフォーマンスをみても、速いテンポの攻撃で敵陣に攻め込みながら、攻め急ぎ、ミスを犯してスコアまで辿り着けない決定力不足を露呈。相手には1つのチャンスから得点を許している。若手を積極的に起用する中で、怪我などでその顔ぶれも刻々と変化していることもあり、持ち味でもある組織プレーの精度がなかなか上がらないのも苦闘の一因になっている。

 そんな状態で、過去W杯を3度制した強豪に立ち向かえるのかという厳しい目もある中で、エディーは耽々と番狂わせへの準備に着手している。

 遡ること21年。エディーが母国オーストラリアを率いた時に“事件”は起きた。03年W杯準々決勝で対戦が決まったが、下馬評では圧倒的にNZ優位。大会前の直接対決でも敗れていたこともあり、母国開催にも関わらずメディアとファンの期待感は高くなかった。だが、蓋を開けると、パス中心のアタックを積極的に取り入れたオーストラリアがNZに主導権を掴ませずに22-10と快勝。イングランド代表HC時代も、最強を誇った時代のライバルに1勝1分け1敗と渡り合った。日本が舞台となった19年W杯準決勝での19-7という白熱のバトルは記憶に新しい。

 過去の実績をみると「オールブラックス・キラー」でもあるエディーだが、では今回の一戦で、どこに相手の弱みと若いジャパンのアドバンテージポイントを見出しているのか。

「どんな素晴らしいチームにも弱みはあるが、オールブラックスには従来以上に明らかに無防備さがあると感じますね。ラグビーチャンピオンシップでも3度負けていますから」

 南半球4か国のトーナメントでは、アルゼンチンに敗れるなど3勝3敗で終えている。順位こそW杯王者・南アフリカに次ぐ2位を確保したが、2012年に4か国のトーナメントになってからNZが3敗を喫したのは史上初めての屈辱だった。参考まで最近のNZの年度別の平均スコアをみてみると下記のような変化がある。

▼年度別平均スコア(得点-失点)
年度 得点-失点
2022  33-21
2023  38-13
2024  29-23

※通常は2回戦総当たり(計6試合)。
23年大会はW杯開催のため1回戦総当たり制で各国3試合のみ
(数値は小数点以下四捨五入)

 数字に極端な悪化はないものの、22年シーズンはHC解任騒動が持ち上がるほど低迷していたことを踏まえると、今季の得点、失点とも褒められた数字ではない。エディーも触れているように、防御面での淡白さは、これまでのオールブラックスが見せてきたものとはクオリティーの違いは明白だ。日本戦直前というタイミングのコラムではあまり具体的な指摘は避けるべきだが、エディージャパンが“レイザーブラックス”の防御のポケットをしっかりと突ければ、スコアチャンスは増えてくるという期待感はある。

 さらに、エディーはこんな選手との会話からも、今の若いチームが打倒オールブラックスのために必要な要素を指摘する。

「(宮崎合宿中の)今朝、立川(理道、クボタスピアーズ船橋・東京ベイ)と話をしたんです。2013年のオールブラックス戦(6-54で敗戦)を経験したのは、今のチームでは彼だけなので、試合のことを聞いてみると『自分たちが、NZのプレーを見ている観客のような感覚だった』と話していた。今回は、最初からNZと戦うというマインドをしっかりと持って、相手にプレッシャーを掛け続けることが出来ればチャンスは生まれてくるかなと思います。日本ではオールブラックスは神様のような存在。私が初めて日本に来た時は、ファンが日本代表よりも黒いジャージーを着ていた。そういう環境で育った選手たちに、どのようにして自分たちの信念を失わずに戦うか、そして観客がニュージーランドじゃなく日本を応援するような環境に持っていくことが出来れば、選手は試合と勝つことに没頭出来て、チャンスが生まれてくると思います」

 日本代表もファンも、世界のトップネイションズと渡り合い、勝とうという欲望よりも、まだ憧れのほうが強かったのが2013年だった。そこから、どんな強豪相手にも本気で勝とうというマインドセットを選手全員に植え付け、臨んだのが2年後の南アフリカ戦であり、W杯イングランド大会だった。その意識の変化をいまの若い日本代表でも引き起こして26日の神奈川・日産スタジアムのピッチに立つことが出来れば、過去7戦全敗の「王国」を揺るがす可能性が見えてくる。

■選手をどこまで本気で勝とうというマインドに持って行けるか

 ここまでの日本の戦いぶりをみると、失敗を繰り返しながらも、徐々に威力を見せ始めるダブルタックルを継続的に続けるワークレート、密集からボールを掻き出すようにして早いパスアウトをする意識、タックラーが相手を倒した時に、その選手の体の上に被さるように倒れることでボールのリリースを遅らせるような細かなスキルなどは、1歩1歩ゲームで見せ始めている。NZという相手に特化した戦術的なプランは、キックオフまでの時間で密かにチームに落とし込まれ、共有されるだろう。あとは、エディーが語ったように、選手をどこまで本気で勝とうというマインドに持って行けるかが勝負になる。

 03年のオーストラリア代表時代の金星ゲームは、エディーの練った奇策が功を奏した一面があった。負ければ終わりのW杯準決勝で指揮官が講じたのは、常勝軍団に心理的なプレッシャーを掛けることだった。大会前の対戦では、キックを織り交ぜた戦いで敗れたオーストラリア代表だったが、この対戦ではキックオフから敢えてパスでボールを動かし攻め続けた。エディーが目論んだのは戦術の変化で意表を突くことではなく、その変化でNZ代表メンバーの中に心理的な不安感を植え付けることだった。自分たちの勝利を疑わないほどの自信に満ちたチームに「いつもと違う」という思いを抱かせることで、自分たちの信じたプレー、ゲームプランを狂わせるという心理戦。この戦略にNZが嵌ったことで、番狂わせというドラマが動き始めた。

 インタビューでは、この21年前の考え方は日本代表を率いる今でも変わらないのかと聞くと、迷わずこんな言葉が返ってきた。

「100%その通りです。これはイングランド代表時代も同じです。我々の勝率は40%だったが、2019年のW杯準決勝でオールブラックスを倒し、自分の任期でも通算でイーブンの成績を残した。NZと戦う時は、心理的なところが重要になる。宮崎での10日ほどの練習でも、どれだけ戦う姿勢を促していくことが出来るかは重要です。勿論、スキルとフィットネスは大事ですが、考え方ですね。正しい考え方をどう持って戦うか。(2013年のように)日本代表はファンのようなマインドでプレーするのではなく、チャレンジ精神を持って戦うことが大事です。NZ代表はカウンターアタックもスペースを突くことも大好きなチームです。それをさせないような戦いが出来れば、勝つことは不可能じゃないと思う。今の日本代表は若いチームですが、十分に出来ると思います」

 余談だが、2019年の対戦では、NZ伝統の試合前の儀式「ハカ(ウォークライ)」の時に、通常なら横一列に整列するはずのイングランドのメンバーがV字型に並ぶ異例の“対抗”パフォーマンスを見せた。エディー自身は「選手が考えてやったのだろう」と語ったが、誰のアイデアだったとしても、プレーやプレー以外も含めてどんな些細な事でも相手に何か心理的な変化を与えようという指揮官の勝利への意欲がチームにも共有されたのは間違いない。

 様々なチーム、選手を取材する中で、メンタル面の強化、ケアというのは合理的な領域と非合理的な領域が混ざり合うものだと感じている。メンタルのエリアだけでみると、何やら錬金術のようなはなしであっても、エディー・ジョーンズというコーチに特徴的なのは、メンタルに加えてGPSが算出するような揺るぎない客観的な数値に基づく体力強化、スキル強化、そしてピッチ上で繰り広げられる戦術とパフォーマンスという経験則が物を言うエリアという3つの“勝つための要素”を統合的に練り上げていく手法だ。メンタルや勝負勘というものに、合理的な分析や評価が混じり合うことで、錬金術師が最先端のスポーツコーチになることもあるのだ。

 そんな合理的権謀術数が嵌れば、大きな山も動くかも知れないという思いで26日の対決を待ちたいが、インタビュー後編では、世界のラグビーが変容するW杯ポストシーズンの強化の方向性、トレンド、その潮流の中でエディーが日本代表の強化をどう推進していくのかを聞いた。(吉田 宏 / Hiroshi Yoshida)

吉田 宏
サンケイスポーツ紙で1995年からラグビー担当となり、担当記者1人の時代も含めて20年以上に渡り365日欠かさずラグビー情報を掲載し続けた。1996年アトランタ五輪でのサッカー日本代表のブラジル撃破と2015年ラグビーW杯の南アフリカ戦勝利という、歴史に残る番狂わせ2試合を現場記者として取材。2019年4月から、フリーランスのラグビーライターとして取材を続けている。長い担当記者として培った人脈や情報網を生かし、向井昭吾、ジョン・カーワン、エディー・ジョーンズら歴代の日本代表指導者人事などをスクープ。ラグビーW杯は1999、2003、07、11、15、19、23年と7大会連続で取材。

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