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「日本を追い越した国に共通する特徴が」 世界に新たな強化の潮流、指揮官の構想には「大学世代の活用」――エディー・ジョーンズ独占インタビュー

THE ANSWER / 2024年10月23日 13時3分

エディー・ジョーンズ【写真:Getty Images】

■エディー・ジョーンズ独占インタビュー後編

 ニュージーランド(NZ)代表オールブラックス戦(26日、神奈川・日産スタジアム)、そしてヨーロッパ遠征へと準備を進めるラグビー日本代表エディー・ジョーンズ・ヘッドコーチ(HC)。独占インタビュー後編では、フランス視察も行った指揮官が、昨年のワールドカップ(W杯)を終えて動き始めた世界各国の新たな強化の潮流をどう読み取るのか、そして日本代表の強化を進めていくのかを聞いた。(取材・文=吉田 宏)

 ◇ ◇ ◇

 10月最初の1週間をエディーはフランスで過ごしていた。

「理由は2つです。1つは齋藤直人(スタッド・トゥールーザン、SH)、テビタ・タタフ(ボルドー・ベグル、No8)の2人が11月のテストでプレーで出来るかの確認です。そして、もう1つはTOP14(フランス1部リーグ)のゲームの視察です」

 すでに発表されているように、フランスリーグに参加中の2人はヨーロッパ遠征から日本代表に合流予定だ。日本代表のコアメンバーへと成長を続ける選手のコンディションを確かめ、意見交換するのと同時に、競技力、大会運営と世界で最も成功しているといわれるリーグを視察してきた。

「大会運営も素晴らしかったし、観客の雰囲気もいい。毎試合チケットが完売するほどの人気で、ラグビー自体のクオリティーも高い。以前のフランスのリーグは、フィジカルとタフさだけのラグビーだったが、今はスピード、ボールを動かすという部分でも大きく変貌している。それに伴いフィットネスも高まっていると思う。過去にはスーパーラグビー(南半球諸国によるプロリーグ)から様々なアイデアがもらえるという考えだったが、今はTOP14がその役割を果たしている」

 1987年に第1回大会が開催されたラグビーW杯の歴史を振り返ると、過去10度の大会で9回は南アフリカ、NZ、オーストラリアの南半球勢がウェブエリス杯(優勝杯)を掲げている。40年以上に渡り、世界最先端のラグビーは南半球が牽引してきたと言っていいだろう。他の地域よりも積極的にプロ化を推進してきたこともあり、代表チームの実力だけではなく、スーパーラグビーなども使った実験的な戦術、スキルの導入や国際規模のルール改正などラグビーの進化を促してきたのも南半球諸国だった。

 しかし、最近数回のW杯をみると地殻変動も起きている。昨秋に南アフリカがW杯連覇を果たすなど“南高北低”という状況は変わらないが、その一方で、南半球ではなかなか得られない豊富な資本力を持つフランス、英国などが、プロリーグ運営と競技力アップ、同時に国際試合、大会の開催・運営能力では巻き返してきたというのが、いまの流れだ。日本にも世界のトップ選手が大挙来日する一方で、よりハイサラリーで、ハイレベルなラグビーを求めて、多くの選手がヨーロッパのプロリーグに集まっている。その最高峰に位置するのが、フランスTOP14だ。

 もちろんエディーの訪仏は、日本代表が11月にフランス入りした時のことも踏まえた“敵情視察”でもあったが、もう1つの重要な目的があった。

「フランスでは4人のトップコーチと会って、いまラグビーはどんな傾向があるかなどの話を聞いてきた。私自身をアップデートするような情報を得るのが目的です。歳はとっても成長は必要です。そういう点でも、TOP14は素晴らしい大会になっているのです」

 話を聞いたのは、錚々たる顔ぶれだ。トゥールーザンを昨季リーグ連覇に導いたウーゴ・モラや、チームを33年ぶりの国内リーグプレーオフに導き、初のTOP14準優勝を遂げたボルドーのヤニック・ブリュ、エディーのイングランドHC時代のコーチで、スタッドフランセのHCに昇格したポール・ガスタードらと情報交換をしてきたという。モラらが日本選手所属チームの指導者という都合もあるが、いずれも世界最強リーグを牽引するようなコーチたちから、戦術、トレーニング方法など最先端の情報やトレンドを収集して、極東の島国の代表チームに落とし込もうとしている。

 インタビューは、このフランス視察ばなしあたりからエディーの熱量が高まっていった。取材する側で事前に用意していた質問として、世界のラグビーの戦術やスキルが大きく変わる“ポストW杯”のシーズンに、エディーが何を考え、どんな情報に関心を抱いているかと聞くつもりだったが、こちらからの質問の前に本人の口から“回答”が溢れ出した。

■日本を追い越した国には「それぞれに共通する特徴がある」

「日本は(一時)ランキングが下だったジョージア、イタリア、フィジーに順位を越されていますが、それぞれの国に共通する特徴がある。ジョージアには、代表チームと同時にブラックライオンという実質上2つの代表チームが存在していて、ヨーロッパ・スーパーカップという大会に参加している。そこで若い才能を発掘しているのです。イタリアはベネトン、ゼブレ(・パルマ)という2つのプロチームを、同じように若い選手の強化に役立てている。フィジーも、フィジアンドゥルアをスーパーラグビーに参加させて、優秀な選手たちのスキルを磨いているのです」

 このような、ナショナルチームの強化と同時進行で、代表メンバーや候補選手で編成されたチームを編成して強化を図る形は、日本のラグビーファンなら思い浮かべるチームがあるかも知れない。

「日本には、ゴールデンピリオドと呼んでいい時代があり、2015年には6人の日本選手がスーパーラグビーでプレーしていました。2016年から19年まではサンウルブズも存在していた。現在、国内ではリーグワンがあるが、国際舞台でも代表のセカンドチームが高いレベルでプレー出来るような環境にもっていくことが肝かなと思っています。今の状況の中で、そのような環境をどうやって作り上げるかを日本協会とも話を続けている最中です」

 多くのラグビーファンはご存知のように、サンウルブズは当時世界でも最高レベルのリーグと位置付けられていたスーパーラグビーに、日本からも参加しようという日本ラグビー協会の戦略から誕生したプロチームだ。南半球強豪国の代表選手クラスで編成されるチームとリーグ戦を繰り広げることで、日本選手の競技力を推進させ、代表強化に直結させるというシナリオは見事に成功して、ホスト開催された2019年W杯でのベスト8進出を後押しした。だが、代表の躍進の陰で、サンウルブズのスーパーラグビー除外をリーグ側が決定。日本という遠隔地への遠征による負担や、放映権料など経費問題が大きな理由となったが、日本ラグビー界は未だにサンウルブズ消滅という損失を埋め切れていない。

 一方で、先に挙げたフィジー、ジョージアらが、日本がサンウルブズを活用した代表強化で実現した成功事例を辿るようにして、日本を追い抜き、さらなる強化を進めている。このような強化の考え方は、実はW杯で覇権を争うようなチームでも進んでいる。

 26日に日本代表と戦うオールブラックスは、同時進行でニュージーランドXV(フィフティーン)という準代表のヨーロッパ遠征を行い、メンバーの一部は日本戦要員として来日メンバーに帯同している。22日に都内で取材に応じたオールブラックスのロバートソンHCは、この2チームによる強化について「この先も(2つのチームによる強化を)継続していく予定です。何故なら、オールブラックスの選手層の深みを作っていきたいからです」とその重要性を認めている。

 11月に日本とも対戦するイングラドらヨーロッパ勢は、すでに6か国対抗の2軍大会と位置付けられるチームによる対戦を続けており、アイルランド代表は2022年7月のNZ遠征で、過去には海外ツアーの定番だったミッドウイークマッチを設けて、テストマッチで十分なプレー時間を確保出来ない選手の実戦経験を増やしている。ウェールズも、2025年のオーストラリア遠征ではスーパーラグビーチームとの対戦を組んでいるなど、各国セカンドチーム強化を加速させる。

 数シーズン前なら、強豪国も代表チーム単体でメンバー枠を増やすなどの工夫もしながら、若手をテストマッチで起用して選手層の厚みを増大させることにも取り組んできた。だが、膨らみ続ける収益性も踏まえて、商品価値の高い試合が求められるテストマッチ以外のゲームを創り出して、育成環境を整備しているのだ。

 日本代表に目を向けると、このような世界の流れをどこまで追っていけるのかという点では難しさもある。エディーはHC就任直後から、トレーニングスコッドの合宿を行い、積極的に若手選手を代表合宿に招聘して世代交代を進めようとしているが、これも見方を変えると、本来はセカンドチームで鍛えるべきレベルの選手まで、代表HCが面倒を見ているとも解釈出来る。

 エディー自身は、可能性を秘めた若い世代を自分の手元で育成することにも積極的だが、本来、代表チームはその時点で最強のメンバーを集めて戦い、“可能性組”は代表に準じるチームで腕を磨くのがあるべき姿だろう。現状は、代表チームに様々な“負担”が強いられ、勝つことという第1のミッションに集中できないようにも見える。確かにエディー就任の経緯の中で、協会側の「若手育成」という希望も同意の上での就任ではあるが、何にプライオリティーを置くべきかという方向性を、協会、強化サイドもしっかりと話し合い、明確化して共有する必要がある。

 今年の6、7月には、代表メンバーと選外選手を交えたジャパンXVを編成してマオリオールブラックスと2試合を戦ったが、継続的な強化には至っていない。日本協会ではNZ同様にパートナーシップを結ぶオーストラリア、イタリアなどの諸協会と連携して、セカンドチームやユース世代による交流・強化も視野には入れているが、今秋も一度は浮上したオーストラリア代表クラスとのゲームが立ち消えになるなど、なかなかギアを上げられないのが現状だ。

■指揮官の構想は「大学世代を活用すること」 具体的なプランも提示

 各世代の強化を考えると、強豪国はU18(高校代表)、毎年世界大会が開催されるU20で評価を得た選手が、翌シーズンにはプロリーグ、もしくは代表入りを果たしている。一方で日本の状況を考えると、有望選手の多くは大学チームでの4年間を終えて、リーグワンなどの社会人チームに入り、個人差はあるが、そこでの活躍を認められてから代表合宿に呼ばれている。今年の1月に就任したエディーは、現在行われている宮崎合宿にFB矢崎由高(早稲田大2年)を呼び、練習生として海老澤琥珀(明治大2年)らも招聘して、学生世代の有望選手に代表レベルで経験を積ませようとしている。日本の選手育成システムの中では“飛び級”のような取り組みをしているわけだが、大学世代、とりわけU20を卒業した3年、4年生と卒業1、2年目という年代の組織立った強化・育成には至っていない。過去のコラムでも指摘したが、日本の選手強化には21歳から24歳前後までの世代が“ミッシングリンク”となっている。

 このようなミッシングリンクを含む日本の強化環境について、「私見」という範疇での話になるが、エディーはこのような現状と可能性を語っている。

「私の任期(2027年まで)中には達成出来ないかも知れないが、やはり再びスーパーラグビーのチームを持つことは1つのオプションだと思います。私が就任している間に出来る事では、大学世代を活用することでしょうか。大学のシーズンは1月で終わり、2月から6月はS&C(ストレングス&コンディショニング=パワー、筋力等体力向上メニュー)などに取り組んでいて、あまりラグビー自体をやっていない時間があります。その期間に、大学生だけでジャパンXVのようなチームを編成してツアーを行うなど、高いレベルのラグビーを経験させ、成長を促していくことを検討していきたい。そうすることで、大学世代の選手の、高いレベルの練習をしなくてはいけないんだという理解に繋げたり、トップレベルのラグビーはこういうものだということを経験させることは重要です。そういうところから着手するのは、任期であるこの先3年くらいでは出来るのかなと思います」

 強化については、アイデアマンでもあるエディーの提言に早くも日本協会が振り回され、腐心しているような状況だという話も聞こえてくる。2015年以前に比べれば、飛躍的に向上する協会の収益、予算だが、現状の代表強化に伴う経費を踏まえれば、セカンドチームなどに投資できる予算は潤沢とは言えないのが実情だ。来年W杯に挑む女子15人制、男女7人制などに加えて、さらにユース世代のチームへの投資も求められている。どこで“折り合い”をつけ、その中で強化を進めることは綱渡りのような側面もあるのは間違いないが、世界の強化の流れをみれば停滞は後退だ。全てに応えることは出来なくても、エディーの思い描く強化を、加速度をもってどう進めていくかが喫緊の課題なのは間違いない。(吉田 宏 / Hiroshi Yoshida)

吉田 宏
サンケイスポーツ紙で1995年からラグビー担当となり、担当記者1人の時代も含めて20年以上に渡り365日欠かさずラグビー情報を掲載し続けた。1996年アトランタ五輪でのサッカー日本代表のブラジル撃破と2015年ラグビーW杯の南アフリカ戦勝利という、歴史に残る番狂わせ2試合を現場記者として取材。2019年4月から、フリーランスのラグビーライターとして取材を続けている。長い担当記者として培った人脈や情報網を生かし、向井昭吾、ジョン・カーワン、エディー・ジョーンズら歴代の日本代表指導者人事などをスクープ。ラグビーW杯は1999、2003、07、11、15、19、23年と7大会連続で取材。

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