2軍のタイトルホルダーに「指名漏れ」続出の謎 実力証明の裏で失う“1年”異色経歴の選手に大きな壁
THE ANSWER / 2024年10月25日 16時14分
■くふうハヤテとオイシックス、ドラフト指名は育成で計2人
「プロ野球ドラフト会議 supported by リポビタンD」が24日、都内のホテルで行われた。今季から2軍に参加したくふうハヤテとオイシックスの両球団から、NPB12球団に在籍したことのない選手を獲得するにはドラフト指名が必要だったが、指名を受けたのは育成の2選手にとどまり、2軍のタイトルホルダーの“指名漏れ”が相次いだ。2軍の活性化を目指して生まれた新球団が直面した“現実”とは。(取材、文=THE ANSWER編集部、羽鳥慶太)
静岡市内に設けられたくふうハヤテの会見場では、早川太貴投手が指名を待った。国立の小樽商科大を卒業後、北海道の北広島市役所で2年働いたのちに退職、2軍球団入りした最速150キロ右腕だ。プロ球団から届いた調査書は阪神の1枚だけ。会議開始から約3時間が経過した午後8時5分、阪神の育成3巡目指名という吉報が届くと「鳥肌が立ったというか頭が真っ白になって……。あまり覚えていないです」と、喜びをかみしめた。
早川は「この球団に来たことがターニングポイントになりました」と言うが、一方で2つの2軍球団は現実も突き付けられた。支配下での指名はなく、指名は早川と、ヤクルトが育成3巡目で指名した下川隼佑投手(オイシックス)の2人だけ。入団しても1軍デビューにこぎつけるには支配下登録されなくてはならず、1軍がそもそも存在しないという今季の環境からは“半歩”前進としか言えないのも確かなのだ。
一方、2軍でタイトルを獲得した選手の指名漏れが続いた。オイシックスの24歳、知念大成外野手は129安打、打率.323がいずれもイースタン・リーグでトップ。複数球団から調査書も届いたが、指名には至らなかった。沖縄尚学高を卒業後、社会人野球の沖縄電力で5年プレー。プロを目指して退社し、オイシックスにやってきた選手だ。1年かけて、プロの2軍相手にも十分勝負できるところを見せた選手が、代わりに失うものがある。
あるパ・リーグ球団の編成担当は「ちょっと面白いなと思う選手がいても、名鑑の年齢のところをみると『うーん』となってしまう。それなら独立の選手のほうが面白いなとなる」と内情を明かす。NPB側も枚数を揃えたい投手に比べ、特に野手にとっては年齢が大きな壁となる。
今回のドラフトでも、独立リーグの野手はDeNAの3位で加藤響内野手(徳島)、阪神の4位で町田隼乙捕手の順に指名された。加藤は東洋大4年という顔も持つ22歳。町田は高卒3年目の21歳だ。
くふうハヤテの増田将馬【写真:羽鳥慶太】
■異色経歴で重ねる年齢、選手起用で首脳陣にジレンマも
プロ野球選手の引退年齢は平均28~9歳。25歳前後のドラフト候補は、選手としてのピークをすぐ越えてしまうという見方との戦いになる。2軍球団にやってくる選手で多いのは、部員が3桁を超えるような大学の野球部でアピールできずに埋もれてしまった選手や、基本的に育成指名がない社会人野球のチームでどうしてもプロに行きたいと願った選手。そうするとすでに“適齢期”を過ぎていることも多く、NPB球団は食指を動かしづらくなる。
くふうハヤテでは、増田将馬外野手のケースがこれにあたるだろう。今季ウエスタン・リーグでは31盗塁でタイトルを獲得し、打率.297もリーグ2位だ。ただ1998年生まれで、中部学院大から社会人野球のジェイプロジェクト、独立の徳島を経てくふうハヤテ入りしたため、来季中に27歳を迎える。赤堀元之監督も「2軍ではこれだけやれているわけだし、右打ちでスピードのある外野手は球界全体を見ても貴重。あとは年齢をどう評価されるか…」と話していた。
また、くふうハヤテもオイシックスも、NPBの2軍に勝ち、地元のファンに支持されることがチーム存続には必要不可欠。そうなると、魅力はあっても穴が大きい原石のような選手を起用しづらいという側面もある。
今季オイシックスを率いた橋上秀樹監督は「まずは勝つという目的の中で、選手起用も選択しているつもり」と話し、赤堀監督は「選手を育てるのが大きな目的だけれど、勝てば育成になるという考え方でやっている」と話す。くふうハヤテの中村勝投手コーチは「やっぱり試合で起用するとなると、コントロールのいい選手の方が使いやすい。それは上の世界に行っても同じだと思うんですが……」。チームの勝利と、選手の魅力を引き出すことには相反する面もある。首脳陣は大なり小なりジレンマを抱えている。
橋上監督は、チームが独立のBCリーグを戦っていた時代からチームを率いてきた。今季2軍への参加にあたっては、選手の「わかりづらい」魅力が可視化されるのではとみていた。球速や回転数といった指標だけでなく「ボールはそれほど速くなくても、なぜか打てない」といった側面が、NPB球団と対戦することでスカウトに伝わり、関心を持ってもらえると期待していた。ただいざ迎えたドラフトでは、2軍で十分に通用した選手よりも、ひとつでも若く、伸びしろが見える選手のほうが評価されるという現実があった。リーグ活性化を目指した試みは、まだ道半ばといえそうだ。(THE ANSWER編集部・羽鳥 慶太 / Keita Hatori)
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