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元公務員右腕を阪神育成指名に導いた“2軍球団”ならではの利点 早川太貴が感謝する環境「ここが一番」

THE ANSWER / 2024年10月26日 6時43分

阪神の育成3巡目指名を受けたくふうハヤテの早川太貴(右)【写真:羽鳥慶太】

■2軍に生まれた新生球団、初のドラフト指名はなぜ実現?

「プロ野球ドラフト会議 supported by リポビタンD」が24日、都内で行われた。今季から2軍ウエスタン・リーグに参加したくふうハヤテからは、早川太貴投手が阪神の育成3巡目指名を受けた。市役所職員という安定した職を辞し、新たな環境でNPB入りを目指した早川のチャレンジはひとまず成功。その上で2軍球団にしかない“利点”を明かしてくれた。(取材、文=THE ANSWER編集部、羽鳥慶太)

 静岡市内でドラフト指名を待った早川に、阪神の育成3巡目指名という朗報がもたらされたのは実に会議開始の3時間後。無言で画面を見つめ続ける緊張感から解放されると、並んでいた池田省吾球団社長と固い握手を交わした。くふうハヤテから初のNPBドラフト指名選手が生まれた瞬間だった。

 何もないところからチームを作り、1年目のシーズンを戦い終えた球団にとって大きな一歩だ。池田社長は「育成、再生して勝つというムチャクチャな目標を立ててやってきました。早川のおかげで育成という目標を達成でき、(ヤクルトに移籍した元オリックスの)西濱のおかげで再生も達成。最低限はクリアできたと思っています」と安堵の表情を浮かべる。

 そしてこの指名の裏では、NPBの球団に対して直接実力をアピールできるという2軍球団ならではの利点をしっかり生かしていた。

 早川は5月3日の甲子園で8回を被安打3本、10奪三振という快投を披露したのをはじめ、阪神相手に先発した3試合では実に20イニング無失点、計20個の三振を奪っている。さらに唯一調査書を提出した阪神とは面談を行い、スカウトは12月には25歳を迎える早川を「伸びしろを感じている」と評価したという。

■25歳の投手に阪神が「伸びしろを評価」と言えた根拠

 その根拠もしっかりしていた。「データとかを見せてもらえて。これは独立リーグにはない部分ですしとても良かったと思います」と早川。NPBの各球団はそれぞれの球場で、弾道測定装置「トラックマン」や、動作の映像分析システム「ホークアイ」で選手の各種データを測定するのが当たり前となっており、2軍球団の選手も丸裸にされている。これはドラフト指名を考えた時、有力な判断材料となるのだ。

 早川は、北海道の大麻高時代には、全道大会でのプレー経験もない投手だった。猛勉強の末に国立の小樽商科大へ進むと球速が147キロまで伸びたものの、一度は公務員試験を受けて日本ハムの本拠地・エスコンフィールドがある北広島市役所に就職。クラブチーム「ウイン北広島」でプレーしながら野球でも上を目指そうとした。ただ限界を感じ、退職して2軍球団入りしたという異色の経歴を持つ。

「ストレートに自信があるのに、ここに来た時には空振りも取れなかった」と話すように、初めて140試合に及ぶシーズンを戦う中で壁はいくつもあった。くふうハヤテはウエスタン・リーグの参加球団で最も東にあることで「移動がきつかった」と苦笑いする。ただ、NPBのチームに復帰したいベテランと、ドラフト指名を受けたい若手で構成される集団で過ごした1年間は、精神的にも大きな刺激となった。

 チームは現在、宮崎で行われているフェニックスリーグに参加中で、この日は指名の可能性がある早川だけが静岡に戻り、ドラフトを待った。指名後すぐにチームメートからメッセージが殺到したといい「みんなドラフトを目標にする中で、選ばれたのは僕だけだった。みんな悔しいと思うけど、すぐおめでとうとメッセージをくれて……。あったかい言葉が本当に多くて」と言葉を詰まらせる。

 くふうハヤテに来たことが「僕のターニングポイントでした」と断言する。人生をかけた挑戦を成功に導いたのは早川自身の努力と、2軍球団にしかない環境だった。「後悔なくやりたい選手には、ここが一番いいと思います」。安定した環境を捨ててでも、プロ野球選手を目指す――。いつか同じ道を歩く選手が現れるだろうか。(THE ANSWER編集部・羽鳥 慶太 / Keita Hatori)

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