女子生徒に短髪強制、恋愛禁止…「子供が嫌がるルールって必要?」 女の子のスポーツ離れに世界的金メダリストからの警鐘
THE ANSWER / 2024年11月2日 6時43分
■競泳金メダル5個獲得の世界的スイマー、ミッシー・フランクリン・ジョンソン単独インタビュー
女の子のスポーツ参加の課題解決に向け、国内外のアスリートや有識者が参加した「女の子のスポーツを変えるウィーク -COACH THE DREAM-」(主催=ナイキ、ローレウス・スポーツ・フォー・グッド財団、協力=「プレー・アカデミー with 大坂なおみ」パートナー)が10月16日から5日間行われ、18日の東京サミット午前の部では女子プロ野球・読売ジャイアンツの田中美羽選手、パリ五輪バスケットボール女子日本代表監督・恩塚亨さんらが登壇し、パネルディスカッションが行われた。また、同じイベントに出席した競泳で五輪金メダル5個を獲得した世界的スイマーで、ローレウスアカデミーメンバーのミッシー・フランクリン・ジョンソンさん(米国)が「THE ANSWER」の単独インタビューに応じ、女の子のスポーツ離れの現状と課題、そして、解決に向けたメッセージを送った。(取材・文=THE ANSWER編集部・神原 英彰)
◇ ◇ ◇
今回の「女の子のスポーツを変えるウィーク」は女の子のスポーツ参加の課題解決に向け、国内外のアスリートや有識者がアクションを行うもの。期間中には小4から中3までを対象とした運動セッションや保護者向けのプログラム、スポーツ現場のコーチやメディアに向けた指導者研修も行われた。
10月18日に開催された東京サミットの午前の部は、田中選手、恩塚さんというスポーツ界の第一線で活躍した面々をはじめ、スポーツとジェンダー研究が専門の中京大・來田享子教授ら専門家を交えたパネルディスカッションを実施。1週間の総運動60分未満は小学生男子が9%、女子が16.2%、中学生男子は11.3%、女子は25.1%で、中学生になると女子の運動時間が減り、男女間で2倍の格差が生まれていることが紹介され、さまざまな立場から議論が交わされた。
さらに、17歳で出場した2012年ロンドン五輪で金メダル4つ、2016年リオデジャネイロ五輪で金メダル1つを獲得した競泳界の世界的スイマー、ミッシーさんもパネルディスカッションに登壇。そして、イベント終了後に応じた「THE ANSWER」の単独インタビューで、この課題への想いを吐露した。
――今回は「女の子のスポーツ離れ」の解決をテーマにしたイベントでした。改めて、この問題にかける想いを聞かせてください。
「世の中には変えられないことはたくさんあると思いますが、この課題に関しては私たちで力を合わせれば変えられること。アウェアネス(認識、自覚、意識)を高めていくことがとても大事です。(国によって)文化的な考えや習慣もあると思いますが、若い女の子が同年代の男の子と比べると運動の時間や活動量が少ない、という認識を人々が高めることで変えていけると思っています」
――今後、私たちが具体的に考えていかなければいけない課題は何でしょうか。
「まず、コーチのあり方はとても大事なポイントです。今回、私たちから日本語のガイドブック(※)がリリースされますが、11歳から15歳くらいの女の子にどんなニーズがあるのか理解が深まることで、女の子が運動を続けていくことも可能だと思います。だから、“女の子を支えるコーチをさらに支えること”が大事なテーマなんです。そうしたサポートを続けて、女の子自身も自分たちの声を上げることによって、スポーツを長く続けられますし、私もその環境作りに貢献したいと思っています」
(※)女子選手の指導者向けの指導ガイドブック
――部活動が盛んな日本は特に男性コーチが多く、異性である女子選手の指導が難しいという声が聞かれます。男性コーチであっても上手に指導すれば、女の子のスポーツ機会を阻害することはないのか、あるいは女性コーチが増える方が安心感につながるのか。コーチの性別についての考えを聞かせてください。
「その両方が大事です。男性でも素晴らしい(女子指導の)コーチになれる方はたくさんいると思います。私自身、素晴らしい男性のコーチに恵まれていました。一方で、女の子が自分を代表してくれていると思えるような女性がロールモデルとして自分の前にいると見せてあげることも大事。両方とも底上げする必要があります」
「女の子のスポーツを変えるウィーク」では大坂なおみが女の子たちと交流するイベントも行われた【写真:主催者提供】
■厳しい規則を設けることが多い日本の部活動に抱く印象
――一方で、日本人の特徴かもしれませんが、特に中高生の年代はシャイな子たちが多い。例えば月経の問題や悩み事などをオープンにできない子もいます。
「むしろ、私はスポーツ自体がその手助けになると思うんです。スポーツをすることで子供たちに力を与えて、自信がつき、自分で発言したいというような行動につながる。いくつもの経験を通じて、よりオープンに話せるようにしていくことも重要です」
――日本の部活動は、厳しい規則を設けることがスポーツ離れを招く要因のひとつとも言われています。ミッシーさんには信じられないかもしれませんが、女の子も髪を短くしなきゃいけない、恋愛をしてはいけないなどのルールも珍しくありません。
「ええっ! 私の髪はこんなに長いけど!(笑)」
――海外のアスリートという視点から、自由を制限して成り立つ指導はどんな印象でしょうか。
「こうした課題が、コーチにより多くのサポートやツールを提供したいと思う一つの理由です。もちろん、文化的な違いは理解していますが、女の子に力を与えて、より長くスポーツを続けていくためには、髪の毛が長い・短いってほとんど関係ない。『将来的にスポーツを通じて得られるメリットのために、本当にそのルールは大事?』『(目先の結果より)もっと大事なことのために、子供たちが嫌がるようなルールを課す必要って本当にある?』と必要な部分は見直していくべきではないでしょうか」
――ミッシーさんは女の子のスポーツの普及を考えて活動していますが、パリ五輪は男女アスリートの参加人数が同等となったことが男女平等の象徴となりました。さらに今後の活動において、どんな理想を描いているのでしょうか。中長期的なビジョンがあれば、教えてください。
「まさにパリ五輪で見た男女平等は本当に素晴らしかったです。なので、この勢いを止めないこと、継続していくこと。ここで一旦、スタンダードができたので、元に戻らずにどんどん先に進めていくこと。そして、アメリカでも徐々にスタートし、世界的にも波及している流れではありますが、男性と同じくらい女性もメディア露出を高めてもらうことも重要です。若い女の子がテレビなどを通じて、同じ女性が頑張って活躍している姿を見られること。4年に一度の五輪でしか見られないのではなく、日常的にテレビで見られる環境作りをしてあげることが大事です」
――メディア露出という点では、観る側が楽しさを感じられなければいけません。しかし、今日登壇された女子野球の田中選手も、フィジカル的に男子に迫力で負ける女子野球の魅力がどうすれば伝わるか、悩みを吐露していました。陸上や競泳などもタイムは男性が上位。この点はどう考えているのでしょうか。
「まず、これまでメディアに出ているのは男性スポーツが多く、女性スポーツの場合、何が凄いのかという物差しが頭の中にないと思うんです。なので、スタンダードがそもそも分からない。男性の場合はよくメディアで目にするので、これくらいできると分かるのですが。どんどん見るにつれて『女性でこれだけできるのは凄い』と物差しができて、一人一人の価値が分かってくる。なので、メディアの露出を増やすことで、よりワクワクしながら見られるようになっていくと思います」
ミッシーさんが考える女の子がスポーツを選ぶメリットとは【写真:主催者提供】
■女の子がスポーツを選ぶことのメリットとは
――ミッシーさんはロールモデルの存在を大切にされています。欧米のアスリートはミッシーさんのように社会的なメッセージを発信される方が多く、スポーツの枠を飛び越えて憧れの対象になりやすいです。日本はどちらかというと、自分自身や自分のスポーツのことは語りますが、政治や環境など、社会的な領域には言及を避ける風潮もあると言われています。アスリートの社会的責任や役割をどうとらえていますか?
「それは、凄く興味深いですね。アスリートに限らず、一般的に表に出てロールモデルになり得る人は、(全員にとって)必要はないけど、自分が情熱を持っているものを、認知を一般的に高めるために『自分』というプラットフォームを使っていくといいのではないかと考えます。人によって何に情熱を持つのかは違いますが、アスリートなどのロールモデルになり得る人であれば、自分のプラットフォームを使ってパッションのあるものをどんどん発信していく役割を担えるといいと思います」
――今回は女の子のスポーツ離れについてお聞きしましたが、そもそもスポーツを最初に選んでもらうことも大切です。幼少期には勉強、ゲーム、音楽、SNSなど、様々な選択肢がある中で、スポーツが人を育てること、スポーツが魅力的な理由を聞かせてください。
「スポーツが魅力的と思うのはソーシャル面です。人との関わりという部分で素晴らしい。私のチームメートは、人生において私のベストフレンドであり続けましたし、同じ場所に集って、一緒に体を動かして、一緒にいろんな楽しい体験をする。若い女の子にとって、そんなコミュニティを作るのはとても大事です。そして自分のことを支えてくれて、自分のことを愛してくれる人たちがいると理解できる。もちろん、全員がスポーツをやった方がいいわけではないですが、スポーツをやりたいと思っている子には、ぜひやってもらいたいと思っています」
■ミッシー・フランクリン・ジョンソン / Missy Franklin Johnson
1995年5月10日生まれ。競泳元米国代表。背泳ぎと自由形で活躍し、17歳で出場した2012年ロンドン五輪は背泳ぎとリレーで金メダル4個、銅メダル1個、2016年リオデジャネイロ五輪はリレーで金メダル1個を獲得。世界水泳は2013年バルセロナ大会の史上最多1大会6冠を含め金11個、計16個のメダルを獲得している。2015年からローレウス・アンバサダーを務め、2019年にローレウス・ワールド・スポーツ・アカデミーに史上最年少メンバーとして加わった。また、同年にはローレウス・スポーツ・フォー・グッド財団の評議員となり、ローレウス財団の世界中での活動の監督・指導を行う。ジェンダー平等のためのツールとしてスポーツの活用に情熱を注いでいる。(THE ANSWER編集部・神原 英彰 / Hideaki Kanbara)
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