ラグビー日本3連敗、続く試練のテストマッチ 強国に学ぶべきは選手然り、日本ラグビー全体でもある
THE ANSWER / 2024年11月14日 17時3分
■リポビタンDツアー2024」第1戦はフランス代表に12-52で完敗
ヨーロッパのラグビー強豪国らに挑む「リポビタンDツアー2024」第1戦で、フランス代表に12-52と敗れた日本代表。後半はトライ数2対3と対抗したが、5連続トライを奪われるなど前半40分で勝負を決められ、テストマッチは3連敗となった。2週間前のオールブラックス戦大敗からの「学び」も十分には生かせない苦闘の中で、試合後の選手たちの言葉からチームの置かれている現実が浮かび上がる。(取材・文=吉田 宏)
◇ ◇ ◇
昨秋のワールドカップ決勝の舞台となったパリ近郊の巨大スタジアム「スタッド・ド・フランス」。377日前には南アフリカ代表が世界一の凱歌を揚げたフランスラグビーの殿堂で、日本は完敗を味わわされた。
「前半は完璧にフィジカル面でやられてしまった。相手に対峙出来なかったし、サポートの素早さも足りなかったこと、ボールを奪い取られるターンオーバーも多かった。まだ若い日本代表にとっては、もちろんフィジカリティーは長期的な目標だとは認識しているが、選手のエフォート(努力)は認めたい」
試合後の会見でエディー・ジョーンズ・ヘッドコーチ(HC)の口癖のようになった「エフォート」が示すように“敢闘賞”しか与えられない苦境が続く。指揮官の指摘通り、フィジカルの戦いで重圧を受け、サポート力も不十分ならこのようなスコアになるというゲームだったが、現状でのパフォーマンスをみると、チームを世界基準に進化させるためには年単位の時間を要することになりそうだ。
勝者との格差をみれば「ゲームを読む力」の違いが明らかだった。これは前回のニュージーランド戦後のコラムでも指摘した部分だが、わずか2週間ばかりでは効果的な修正、進化は見せられなかった。フランスが圧倒的な実力を見せつけたゲームの中で、選手の判断力、戦況を読み、どんなプレーを選択していたかをみると、この80分間の戦いの真相が浮かび上がる。試合後にWTB長田智希(埼玉パナソニックワイルドナイツ)は、苦闘の要因をこう振り返った。
「個人的なところですが、(フランスが)バックフィールドへキックでプレッシャーを掛けてくる中で、フィールディングだったり、僕の最初のキック(処理)をバウンドさせた部分、そこから結局カウンター(攻撃)でトライをされている。キックでプレッシャーを掛けられたところで先手を取れなかった」
長田が例に挙げたのは、開始直後のキックの応酬の場面だ。日本のキックオフボールを蹴り返そうとしたフランスの至宝、SHアントワーヌ・デュポン(スタッド・トゥールーザン)のキックをLOワーナー・ディアンズ(東芝ブレイブルーパス東京)がチャージして敵陣ゴール前に攻め込んだが、その後のデュポンの再度のキックを、長田は2バウンドさせてから捕球している。「たかがワンバウンド」という見方も出来るが、戦術的なキックを多用する現代ラグビーでは、キック処理、つまり相手のキックから自分たちの攻撃に転じるまでの数秒がゲームの流れ、主導権争いに大きく影響するのは常識だ。
このシーンでも、長田がノーバウンドで処理できなかった2秒ほどの時間でフランス防御による重圧を受け、効果的な蹴り返しが出来なかったところからのカウンター攻撃から前半4分の先制トライに繋げられている。このようなキック処理の甘さは、このトライに直結する相手WTBのグラバーキックをFBマロ・ツイタマ(静岡ブルーレヴズ)が捕球出来ず、相手選手にグラウンディングされたシーンでも露呈している。これは個人のディフェンスミスではなく、組織として相手キックにどう備えるかの準備不足、相互理解不足による失点と考えるべきだろう。
■痛感させられるのは「チームリーダーの不足」
長田のキック処理の指摘は、他の選手にも当てはまる。先制トライでも相手キックを処理できなかったツイタマは、前半18分の日本のキックを自陣22m内へ蹴り返されたシーンで、捕球まで2バウンドを許している。直後のフランスの3個目のトライシーンでも、グラバーキックの処理が出来ずにトライを奪われている。フランスがキックを使ったアタックを積極的に仕掛けてきたことからは、事前にFB経験が豊富ではないツイタマのキック処理能力、そして日本のバックスリー(WTB、FB)のキックに対する組織的な防御の不安定さを事前に分析してきたことが読み取れる。このような状況を踏まえて、早稲田大学時代からゲームを読み解く能力では群を抜いていた長田は、後悔だけではなく、これからどう対応するべきかも前向きに語っている。
「キックのところでいうと、バックスリーがしっかりコネクト(連繋)していく部分(が重要)。1つ目のトライでいうと僕が後方から上がって、他の選手はカバー出来なくて取られた。そこは、コミュニケーションで対応出来る部分なのかなと思います。相手キックからのカウンターで選手が孤立していたシーンもあったが、全員がしっかりと返ってコネクトしながらアタックをしていく、1人にしないことがとても大事だと思うし、解決できる部分もかなりあると考えています」
おそらく、ここまで書いてきたキック処理については「何故それが出来ないのか?」という疑問を感じる方もいるだろう。すこし気の利いたチームなら、高校生でもしっかりと組織的なキック処理、そのためのポジショニングは取り組んでいるはずだ。だが、そこは代表チームの難しさだろう。相手のキックに備えるためにWTB、FB、SOらが、どんなコンビネーションを組むのか、誰が前方へ上がり誰がカバーするのか、どんな立ち位置を取るのかは、チーム、指導者によって変わってくる。ましてや、今回のゲームならフランス代表という強烈なハイプレッシャーを掛けてくるチームが相手だ。日本はメンバーの入れ替わりも多い中で、準備不足、連携不足を認めざるを得ないが、このような状況の中で痛感させられるのはゲームリーダーの不足だ。
戦況を読み、相手が何を狙っているのか、どう仕掛けてきているのかを、より早い時間で理解し、チームに共有させる人材が十分ではないのは明らかだ。そのために、チーム始動時には35歳だったFLリーチマイケル(BL東京)が主将に選ばれ、リーチ離脱の後は34歳の立川理道(クボタスピアーズ船橋・東京ベイ)がチームを率いてきたが、スコッド全体の顔ぶれを見れば、大きく世代交代にシフトを切る中で、PR稲垣啓太(埼玉WK)、FLピーター・ラブスカフニ(S東京ベイ)、代表を引退したSH流大(東京サントリーサンゴリアス)、現役引退のHO堀江翔太(埼玉WK)のような経験豊富で、戦術的な判断、メンタル面での洞察力に富んだリーダーがあまりにも少ない状況が、チームの“幼さ”に繋がっているのだろう。
フランス戦に限れば、5トライを許した0-31の前半で勝負はついている。この、スコアの奪われ方にも日本の脆さが滲んでいる。前半の全てのトライをみてみると、下記のような起点から奪われている。
トライ1(4分) フランス陣22mライン手前の相手キックカウンター
同 2(10分) 日本陣10mラインのラックでのターンオーバー
同 3(19分) 同上
同 4(28分) フランス陣10mラインでのラックターンオーバー/PKから速攻
同 5(34分) 日本陣でのラインアウトミス→相手ラインアウトからサインプレー
このように、自分たちの反則、ミスから切り返されたような失点ばかりで勝負が決してしまったのが、この日の敗戦理由となった。確かに日本のスピード重視のアタックは常にターンオーバーのリスクが付き物と言ってもおかしくない。だが、このゲームでの失点をみると、ボールを奪われてからそのまま一気に奪われたものばかりではない。戦況を判断して、適切な連携を取ることでトライ自体ないしは、容易にインゴールを割られることは回避出来た時間があった失点も多かったのだ。これらの失点シーンからは、先に触れたキック処理も含めて、ピッチに立つ日本代表15人のコンセンサス、コミュニケーションの不十分さを痛感させられた。
■攻撃面での遂行力の低さも、この敗戦に大きく影響
攻撃面での遂行力の低さも、この敗戦に大きく影響していた。敵陣22mラインを突破した回数とスコアをみると、フランスが13度の侵攻で8トライをマークしているのに対して、日本は9度の突破から2トライしか奪えていない。7度のスコア出来なかった内訳では、反則と相手のターンオーバーが6回を数えた。この遂行力の低さはチーム始動時からの課題ではあったが、チャンス時にスコアに繋げられない苦闘が9戦目のテストマッチでも続いている。
フランス相手にはフィジカル面でかなりの重圧を受け、戦況を読む力でも後手を踏んだ日本代表だが、試合後にPR竹内柊平(浦安D-Rocks)は、このような状況にこれからどう対応していくかを語っている。
「抽象的ですが、小さい所のスピードだと思っています。それは、ボールを貰う前にしっかりといいスピードで走り込むことなどです。1対1でぶつかれば負けてしまうなら、もっとスピードを持って走り込む必要がある。僕の場合、貰う瞬間に体がすこし浮いてしまう癖があるのですが、フランスなどの強豪国にはそれじゃ通用しないので、まずはしっかりと相手より速く、低い姿勢をとることです。そういう相手に打たれる前に打つ、先制パンチが、自分自身も含めた日本代表が強豪国にやるべき超速の一環なのかなと思っています」
竹内の自戒と同時に、日本がフランスに格差を見せつけられたのは、やはり状況を読み取る判断力に尽きる。何度も引き合いに出すフランスの初トライだが、トライへと繋がる左展開で相手のSOトマ・ラモス(スタッド・トゥールーザン)は、日本の陣形をしっかり見てから左サイドに2人飛ばしのロングパスをしている。この状況からは、おそらくは事前に決めていたサインプレーというよりは、状況を判断した上で、いくつかの攻撃のオプションからパスを選んだのだろう。結果的に日本の薄いタッチ際のスペースを、グラバーキックも使って突いたWTBルイ・ビエルビアレ(ボルドー・ベグル)がトライを決めている。4本目のトライ前にも、ラモスは内側に引き寄せられた日本の防御網を瞬時に見抜いてタッチ際にキックパスを蹴り、捕球したビエルビアレが、日本の防御2人が詰めてきたのを見て、内側に駆け込んできたボルドーの同僚CTBヨエル・モエファナにパスして、その後にしっかりと追走してリターンパスを貰っている。
フランスの選手とは対照的に、日本選手たちは攻守両面で目の前で起きている展開に反応することばかりに囚われているように見えた。後半32分にSH齋藤直人(スタッド・トゥールーザン)がPKから速攻を仕掛けた時でも、多くの選手が、素早いポジショニングや次の局面に備えるのではなく、齋藤のプレーを見てようやく動き出していたことは、課題の多さ、深刻さを感じさせた。
長田は一例として「ラックが出来ることに対しての予測というのは意識の部分での慣習的なことだと思うので、直ぐに良くなるか分からないですが、長い期間意識し続けることで改善していけないといけない」と指摘していたが、次のフェーズへ自分がどう動き、どう働きかけるべきか、仲間にどんな指示をするかが不十分な中で、勝者がみせた複合的なポジショニングやサポート、組織的なムーブから学ぶべき要素はかなり多い。ここはニュージーランド戦から続く課題であり、まだ取り組むべき“宿題”は山積みのように感じさせられた。
■選手層に厚みを持たせる作業を協会挙げて推進、本気で検討する段階に
では、チームは経験値が高いメンバーを新たに加えるべきなのか。このテーマの回答はエディー自身の判断に委ねられている。就任当時から世代交代の重要性を唱え、実際のメンバー選考でも、我々の想定していた以上に若手重視を貫いてきた。ここはエディー個人だけではなく、日本ラグビー協会首脳が就任に当たり求めたものでもある。ターゲットである2027年の次回ワールドカップまでの今年も含めた4年間という時間を投資優先に充てるのか、今すぐに結果を求めるのかで、何が適切な選択なのかは変わるだろう。今が忍耐の時間だと割り切れば、9月のフィジー戦から40点以上の失点による3連敗もやむを得ない。
だが、これも以前のコラムでも触れてきたことだが、敗戦からだけではなく、経験値の高い選手と共に試合を経験して、日常を共有することも、若手には貴重な学びになるのは間違いない。同時に、こちらも以前から指摘してきたものだが、世界が取り組み始めている若手育成、言い換えればセカンドチーム(代表2軍に相当するチーム)を編成して選手の経験値を上げていくことによる代表チームの選手層に厚みを持たせる作業を、チーム依存ではなくラグビー協会を挙げて推進することを、本気で検討する段階が訪れているように思う。
学ぶべきは、桜の戦士たちも然りだが、日本ラグビー全体でもある。そう感じさせるような試練のテストマッチが続く。(吉田 宏 / Hiroshi Yoshida)
吉田 宏
サンケイスポーツ紙で1995年からラグビー担当となり、担当記者1人の時代も含めて20年以上に渡り365日欠かさずラグビー情報を掲載し続けた。1996年アトランタ五輪でのサッカー日本代表のブラジル撃破と2015年ラグビーW杯の南アフリカ戦勝利という、歴史に残る番狂わせ2試合を現場記者として取材。2019年4月から、フリーランスのラグビーライターとして取材を続けている。長い担当記者として培った人脈や情報網を生かし、向井昭吾、ジョン・カーワン、エディー・ジョーンズら歴代の日本代表指導者人事などをスクープ。ラグビーW杯は1999、2003、07、11、15、19、23年と7大会連続で取材。
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